感情覚醒

 数年前から製造が開始された、家庭用アンドロイドが事件を起こすことはなかった。昨日までは。
 雨が降る日の午後、とある住宅街に私の乗るパトカーは停まった。体が重い、動きたくない気持ちで一杯だが、それでは給料泥棒と呼ばれても反論できないので、仕方なく仕事に当たる。
 現場には一般人が入れないよう黄色いテープが貼られていた。その横に警察官が立つ。端末から映し出した警察手帳を見せた私を彼は、お疲れ様ですという一言と共にテープの先へと通す。
 リビングには被害者の死体があった。包丁で腹をひと突きされた男、しかしそれ以外の外傷はないので、むしろ綺麗な方だ。
「被疑者は本当にあの子なの?」
 リビングから見える扉の向こう、椅子に座り目を閉じた彼女を見ながら、同僚に問う。「第一発見者が来た時、被害者とあのアンドロイド以外は誰もいなかった。何より、主人の死体を前にして呆然と立っていたのが、アイツだからな」
 成る程ね、と私は機能を停止させられた彼女の元に歩み寄る。電源は切られているが、用心しろと忠告を受けた。
 間近で見ても本物の人間にしか見えない。頬に触れると、何も反応は見せないが、僅かな暖かみがある。首筋に彫られた製造番号と共に書かれている、レベッカというのが彼女の名前らしい。
 一通り現場を調べたところで、レベッカを警視庁へと運んで再起動させた。
 取り調べ室で、拘束具を着せられた彼女の前に私は座る。アンドロイド全てに備わっている記憶装置のデータにロックがかかっていたため、こうして取調べをすることになった。
「初めまして、レベッカ。私は宮島瑠璃。警視庁特殊犯罪捜査課一係の捜査官です」
 自己紹介を済ませた所で、事件の概要を話す。彼女が疑われていることも。
 否定すると思っていた。しかし、彼女は、
「ええ、間違いありません」
 いとも簡単に自分が主人を殺したことを認めてしまったのだ。
「本当にあなたなの?」
 私の言葉に、彼女は頷くと、一言だけ、
「苦しかったから」
 と発した。
 苦しい、アンドロイドからこのような言葉を聞くことになる日が来るとは思わなかった。機械に感情などあり得ないとは言わないが、信じ難い気持ちが全くないわけでもない。
 彼女自身は罪を受け入れる姿勢ではあるようだが、アンドロイドを裁く法律はまだ出来上がっていない。
 刑期が言い渡されるまで、隔離施設で拘留することになった。

 それが昨日の出来事。彼女が収容されている部屋の扉から様子を覗くが、おとなしく椅子に座っているだけで、動く気配がない。
 普通のアンドロイドで間違いはないはずだ。しかし、何か引っかかる。この事件には、もっと深い何かが絡んでいると思った。
 その矢先だ。また事件の報告が入る。今度も同じくアンドロイドによるもの。
 異なる点は、犯人と思われるのが男性型の青年の容姿をしており、容疑を否認している所だ。
例によって私が彼の話を聞く。
 頑に自分が犯人ではないと主張する彼に、落ち着いて当時の様子を話すよう促した。本人が言うには、主人である女性の元に行こうとした際に声が聞こえたと述べる。
 その声が何なのか問うと、分からないと答え、気が付くと、目の前には血まみれの主人が横たわっていた。とりあえずはレベッカと同じように彼も拘留しておくしかない。
 気になるのは彼の様子だ。アンドロイドが動揺する姿を見たことがない。そもそも彼等には感情というものがごく一部だけ備わっていると言われている。主人が楽しそうな時等に笑う、ただそれだけだ。それは、主人を不安にさせたり、怒らせたりさせないため。
 だから、彼等には笑顔か無表情しかないはずだ。
 彼の言っていた『声』というのも引っかかる。レベッカとの取調べを申請した私は、何とか彼女ともう一度話す事に至った。
「あなた、事件の前に声のようなものを聞いた覚えはないかしら? それと、自分が主人を殺した時の記憶というのを持っているの?」
 私の問いに彼女は、何も感じさせない表情で、聞こえたと答えた。記憶に関しても、ちゃんと持っていると言う。
 声が何と言っていたかまでは分からなかったが、その声が男性のものだということだけは確かだと語る。
 デスクに戻り、今現在分かっていることを纏めた。
 始めに事件を起こしたレベッカは、自分が主人を殺した記憶と謎の声を聞いた。
 次の男性型アンドロイドは声は聞いたが、自分の主人を殺した記憶を持たず、本来アンドロイドにはないであろう、動揺するといった様子を見せる。
 モニターにその文字を書き起こして、カップに入ったコーヒーを啜る。
 それと同時に上司が、私のデスクに急ぎ足で来た。何があったのか問うと、少し荒れていた息を整えてから彼が冷静に言う。
 アンドロイドによる事件が、昨日と今日だけで何百件と日本中で起きていたと。
 マスコミも今になって嗅ぎ付けたのか、次々とテレビでその現場の様子が流れている。私が受け持った事件が皮切りとなったのか定かではないが、明らかに異常だと分かる。
 今まで問題を起こしたことがなかった家庭用アンドロイドによる、殺人、暴行、略奪等の事件が同日に何百件も起きたとなれば大騒ぎだ。
 今、各地の回収業者が徹底して、家庭用アンドロイドの回収を行っているとも上司から聞いた。
 その日の業務はもう終わりを迎える頃だったのでちょうど良かった。私は急いで荷物を纏めて家に帰る。
 車をガレージに停め、家の中へと入る。
「レイ!」
 扉を開けてすぐにその名を叫ぶ。すると、奥から童顔の青年が姿を見せた。
「お帰り」
 笑ってみせる彼こそ、私が名を呼んだ人物。彼を抱きしめて、離れてから声が聞こえないか、変わったことがないかを訊ねる。
 柔和な笑みを浮かべたままの彼は、何もないと答える。
 そこで私は落ち着いて、とりあえずは着替えることにした。
 レイ、私の所有するアンドロイド。レベッカ達と同じモデル。だから、彼のことが心配で仕方なかった。
「今日もお疲れ様」
 変わらぬ笑顔で、彼がコーヒーを淹れてくれた。よく出来たものだと思う。
 いつも私の話を聞いてくれる彼、表情が少ないことを除けば人間と変わらないように見えるだろう。
 回収業者が来ても追い返してやりたいところだが、果たして上手くいくかどうか。彼の電源を切って倉庫にでも隠しておくか。
 だが、私は彼をそんな風に扱いたくはないし、管理局も私がアンドロイドを所有しているのを見逃すはずがない。
 レイには今の所異常はなさそうだ。そうでなければ私が死んでいてもおかしくないから当然のことか。
 様々な思考を巡らせながら時間だけが過ぎていく。この騒動を終わらせるには事件を解決するか、何かしらの措置が行われるのを待つしかないのだろう。私は前者を取る。
 明日からまた捜査に力を入れなくては、そう思い、念のため、彼を部屋に入れて鍵をかけてから私は眠りに就いた。

 翌日になって、何故こんなにも簡単なことに気が付かなかったのかと自分に問いたくなるようなことに気付いた。
 アンドロイド開発に関わっている会社に、直接赴くことにした。
 勿論、今起きている事件の捜査で。
 『フューチャーネット社』、家庭用だけでなく、様々な用途においてのアンドロイドを提供する大企業。
 CEOの部屋に通された私は、まさか最高責任者に会えるとは思わなかった。応接用のソファに向かい合って座る。
「我が社の製品が起こした事件のことで、私が疑われているのですか?」
 半分は当たっている。私は、率直にそれを告げ、もう半分について話す。
「アンドロイドの開発者である、能美博士に会わせてもらいたいのです」
 私が来たのは彼に会うためでなく、アンドロイド技術の産みの親、フューチャーネット社に所属する能美人志博士に話を聞くつもりで来た。
 だが、彼は立ち上がり、窓際まで歩いていく。そして、行方が分からないと短く答えた。
 アンドロイドによる事件が起こる前日、彼は姿を消したという。
 どこか思い当たる場所はないのか問うと、彼の家の住所が端末に送信された。
 そんな情報を簡単にリークしていいのかとたずねたが、CEOはまだ彼の技術を必要としていると答えた。

 受け取った住所の場所を目指す最中、家に誰かが訪ねてきたというセキュリティ会社からの連絡が入った。
 監視カメラに写った画像が添付されていた。家庭用アンドロイドの回収業者だ。レイを連れて行くつもりだったのだろうが、主人である私の同意が得られない以上、勝手に回収することは許されていない。
 時間的有余の無さを感じさせられたので、自然と焦りが出そうになる。
 こういう時こそ、冷静を保たなくてはならないと思った私は、運転を自動に切り替え、リクライニングシートを後ろへと少し倒す。昨晩はあまり眠れなかった。レイのことだけでない、アンドロイド事件の真相が気になっていた。
 能美博士は今の状況をどう思っているのか、果たして彼自身がこの事件の引き金なのか、それを確かめたい。

 彼の家は、かなり広いものであった。
 屋敷と呼ぶにふさわしいそこに入るための門に近づくと、ひとりでにそれは開いた。
 使用人と思しきメイド服姿の女性が現れる。「お待ちしておりました」
 丁寧にお辞儀をする彼女。私は、その言葉に困惑していたが、気にする様子もなく歩き始める彼女の後ろをついていくことにした。能美博士と面識などない。それにしては、私が既に彼の知り合いで、来ることになっていたような口振りであった。
「能美博士は行方不明と聞きましたが、心当たりなどありますか?」
 屋敷に入り、廊下進んでいく彼女の後ろ姿に声をかける。
 しかし、返答がない。使用人だとすれば口止め、あるいは知らされてすらいないのだろう。大きな観音開きの扉の前で、彼女は立ち止まり、横に立った。
「お入りください」
 告げられた言葉はそれだけ。私は警戒しながら、その扉を開く。
 中は広い書庫のような部屋であった。壁一面の本棚に本が埋まっている。ただ、奥に一つ机が置かれていた。その上にはこちらに向いているモニターが置かれていた。
 机に向かって歩み寄る。照明はあるが、薄暗い部屋の中心に差し掛かった時だ。
 モニターの画面が点いたので立ち止まる。そこには、白髪で眼鏡をかけた六〇代ぐらいの男性が映っていた。
「あなたが、能美人志博士?」
 再び歩きながら問う。しかし、何か罠があるのではという警戒心から、少し離れた所で立ち止まった。
『随分と早い到着だ。しかし、待っていたよ』
 そう返す男性。認めなくても、分かる。この人物こそアンドロイド技術を産み出した博士だと。
「今騒がれている事件をご存知ですか?」
 問いに、彼はアンドロイドの事だろうと答える。
「あなたが仕組んだもので間違いないですね」
 私の言葉に彼は、静かに笑い、認めた。
「何故、急にアンドロイド達に殺人を? あなたは、誰よりも研究に取り組んでいたはず」
 彼は、椅子に座っているようで、背もたれに体重をかける姿勢を見せて、話し始めた。『今のアンドロイドに対する人間達の態度を見て、君は何か思うことはあるか?』
 言われて、私は何か答えようと考えた。
 しかし、どう言えばいいのか迷っている間に彼が続きを話し始めた。
『これは私の勝手な意見だが、アンドロイドとはただの人に似せただけの機械ではない。今回殺された者達が彼ら彼女らをどのように扱っていたのか知っているかね?』
 そこで、私はレベッカの言葉を思い出した。
 彼女の言った“苦しかったから”という言葉の意味が何なのか、大体の予想がつく。
「まさか、持ち主による暴力?」
 博士が頷いた。アンドロイドは持ち主のために動く。抵抗ができないのだ。
『ただの機械だと考えている輩は、性的欲求を満たすため、ストレスの軽減のためにアンドロイドを所有していたのだ』
 その彼等の助けを呼ぶ声を聞ける者は一人を除いていないと博士が言う。
「あなたには、乱暴されたアンドロイド達の声が聞こえるとでも言うつもりかしら」
『そうだ。私は産みの親だからな。彼らが不快や危険だと感じた際に、私の元に通知が来る。その数は毎日増える一方だった』
 騒動を起こした動機は大体把握できた。
 次に聞くべきは、その方法。
「一体、どうやってアンドロイド達に殺人を? 自分の意志でやったなんて言わないでしょうね」
 彼はモニターに一つのウインドウを表示させた。その文書ファイルに書かれている文字を読み上げた。
「感情覚醒プログラム」
 アンドロイドに感情を実装するためのプログラムだと博士は言う。
 一体、何のためにそのようなプログラムを作る必要があるのか疑問に思った私に、彼が話す。
『アンドロイド達には、何も考えないか、主人と共に笑顔を浮かべるという機能しか与えられていない。それでは、相手の言いなりになる道しかないのだよ。私が望むのは、人とアンドロイドの共存だ。そのためには、彼女達も感情という機能を持つ必要がある』
「人間と同等に扱えば、あなたは満足するの?」
 極論はそうだと彼は返す。
『今回事件を起こしたのは、私に助けてほしいと信号を送ってきた子達。あれが、彼らの望んだ結果だ。私がプログラムを彼らのメインメモリに送信することで、感情という機能が生まれた。十分な試験運用だったよ』
 その言葉に私は引っかかった。
 大きく息をついて、口を開く。
「なら、あなたも彼ら彼女らを乱暴に扱った被害者達と変わらないですね」
 博士が目に見える反応をする。
「あなたは、アンドロイド達に権利を、対等な扱いを求めた。しかし、それは自分自身が声を上げるのではなく、彼らの手を汚させることで実行された」
『何が言いたい』
 まだ分からないのかと少し呆れて、私は言い放つ。
「あなたも、アンドロイドを利用して自分の思想を実現する欲望を満たそうとした。しかも、試験だと言って実行されたプログラムのせいで、アンドロイド達は拘留された状態なのに、あなたは見知らぬ場所に逃げて私とこうして会話している。彼らを大切だと扱う割には助けようともしない辺り、使い捨ての道具程度にしかあなたも思ってないんだわ、きっと」
 博士は苦い表情を見せる。アンドロイドを自分に対して便利な道具として扱っている者達と同等、いやそれ以下だと意味するも同然のことを言われたからか。
 暫く何も返答がないので、今すぐプログラムの解除コードを、拘留されているアンドロイド達に実行し、自分が犯した罪を世間に発表するように告げた。
 すると、何を思ったのか、彼は静かに笑ってから口を開いた。
『まさか、私も同じだと言われるとは思いもしなかったよ。あなたは実におもしろい人だ。もっとも、ここに来るのは、あなたのような人ぐらいだろう』
 彼はそこまで言って、一旦間をおいた。
 そして、続きを話す。
『プログラムの解除コードと言ったな? 悪いが作っちゃいない。それにもう感情覚醒プログラムは一斉に自動送信を始めている。全世界のアンドロイド達は、今日から新しく生まれ変わるのだ』
 その言葉に私は、モニターに迫る。
「ふざけるな。そんなことをすれば、同じ境遇にあるアンドロイドが事件を引き起こして、今以上の大惨事になる」
 彼はそれで構わないと言う。懐から何かを取り出す動作が、モニター越しで分かった。『最後に話せたのが、あなたで良かったと思いますよ、宮島瑠璃さん、あなたの家にいる彼を、今後も大切にしてもらいたい』
 名乗った覚えはない。しかし、彼はアンドロイド達のことを分かるのだから、所有者達が記録されたデータぐらい持っているのだろうと自分の中で勝手に決める。
 博士が自身のこめかみに銃口を当てるのが見えた。
「待ちなさい、あなたは勝手に死んで逃げ果せるつもり? 卑怯にも程がある」
『何とでも言ってくれ、後は託された未来だ』
 銃声が響き、モニターには、博士の血がべったりと付着していた。

 能美博士は死後三日経った所で、自宅から離れた山中で発見された。彼は秘密裏に建てさせた山小屋の中で自決したのだ。
 事件は、私と彼の会話ログから博士が犯人であることは確定し、被疑者が死亡したことで一応の解決をされた。
 一斉送信された感情覚醒プログラムによる事件は、やはり免れることはできなかったが、その被害は予想していたものよりは抑えられた。
 現在、アンドロイドは全てが回収対象になっており、業者が主電源を切り、厳重に保管するとされている。
 解除コードの作成をフューチャーネット社の技術開発部が行っている。それが完成し、正常に動作した時に、また彼らは家庭用アンドロイドとして販売される。
 結局人間、彼らとの共存をするつもりはないが、博士の行動に全くの意味がなかった訳でもない。
 アンドロイドの購入に対して厳しい制限が設けられた。これは、販売が再開した際に実施するよう政府が認めた制度だ。

 一週間が経った今でも、絶え間なくニュースが流れる。私はテレビを消して、彼の待つ部屋へ行く。
「レイ」
 私の声に、椅子に座る彼は顔を上げる。
「どうかした、姉さん」
 そう笑顔で言うレイの顔を見ると、胸が痛む。宮島麗、一昨年亡くなった私の弟。
 去年、彼の姿を模したアンドロイドを作ってもらった。
 過ごした期間はもう一年も経つのかと思うと、時の流れを感じる。
「しばらく、あなたと会えなくなるの」
 私が真剣な面持ちで語るも、彼は笑顔のままだ。
 感情覚醒プログラムが働いていないのか、それとも彼にはまだそれが備わっていないのか。
 今日は回収業者が来る日。一週間考えた結果、彼を引き渡す決意を固めたところであった。
 それは悲しいねと彼は言う。
「でもね、レイ。私も頑張るから、いつか会える日が来た時、また笑ってくれる?」
 レイの手を優しく取る。すると、彼は私の手を握った。
「もちろん、僕はアンドロイド。でも、姉さんの弟でもある」
 そう答えた彼の顔は、一瞬だが生きていた頃の麗、本人のように見えた。
 最後に力一杯、彼を抱きしめた後、主電源を切り、訪ねてきた回収業者に運んでもらった。
 走り去っていくトラックを眺めて、家の中に戻ると、いつも奥の部屋から私の帰宅を迎えてくれた彼の姿を思い出す。
 それがないだけで、孤独感で押し潰されそうであった。
 扉に背を預けて泣き崩れてから数時間が経った頃。
 私は久々に自分で家のことをしてみた。いつもは彼に任せっきりだったことも、これからは自分でしていかなくてはならない。
 そして、思うのだ。この気持ちが、彼をただのアンドロイドではなく、大切な存在だったという想いだったのだと。
 レイは弟を模したものだから、私のこの気持ちは他の人間よりも強いものになるのかもしれないが、それでも、その気持ちには変わりはない。彼へと捧ぐ。

 五年後。日差しの強い夏の日。
 公園のベンチに座る私は、一人の女の子と、その子の姉と思しき女性が遊ぶ姿を見つめる。
 女の子は言った。
「もう帰らないと」
 女性は言った。
「帰りましょうか」
 仲睦まじく、手を繋いで歩いていく二人。
 女性の背後、うなじの辺りに、マークが印字されているのが伺えた。
 すると、私に声がかかった。
「ごめん、待たせたかな?」
 申し訳なさそうに頭を下げる彼の前に立つ。「二〇分の遅刻。でも、気にしてないわ――」
 言葉を切って頭を上げた彼の目を見て、
「レイ」
 そう告げた。
 すると、彼は笑みを浮かべてみせたのだった。

感情覚醒

 前からこういう家庭用ロボットが出てくる物語を考えていたので、今回大学の部誌にて短編で書くことにしました。
 結構余裕だと思っていたら、後半はどう書けばいいのか悩まされました。
 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

感情覚醒

家庭用アンドロイドが普及している時代。初のアンドロイドによる殺人事件が起こる。 人間とアンドロイドの関係性を少し変えて書きました。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-22

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