ENDLESS MYTH第2話ー32
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身体が重力を失ったような感覚が全身を覆ったと思った時、再び身体に重力が戻り、メシアの脚が地面を踏みしめた。
膝が身体の重みに一瞬、耐えられず、がくりっと膝が曲がった。
膝を伸ばして、周囲を見回すメシアは、そこが局面で覆われた球体の空間なのが把握できた。金属の壁面の滑らかな光が彼の立つ橋の影を湾曲して映していた。
橋は反重力装置で浮遊していた。
そこがどういった目的の広大な空間なのかメシアには理解できなった。ただ無機質な印象は大きかった。
と、メシアの横に光の粒が流動的に集約したと思った時、2つの人影が倒れ込んで現れた。
ジェフと彼の身体をかばうように覆い被さるベアルドが姿を現した。
ベアルドは実体化するとすぐさま跳ね起きると、周囲を警戒した。
数秒遅れてジェフも立ち、そこがあまりに大きな部屋なのに気づいた。
ただ呆然とするばかりのジェフと違い、メシアは周囲を警戒して橋の上を行き来するベアルドへ質問を投げかけた。
「さっきの男は?」
周囲が安全なのを確認すると、同年代のメシアとジェフと交互にみたベアルドは、1つ大きく息を吐いてから答えた。
「あれもデーモンの一種だ。ただステーションと会った奴とは格が違いすぎる。バジーザ。それが彼の名前だ。
デーモンはそもそもアストラルソウルと同位体でありながら、まるで異なった悪しき存在だ。その中でもバジーザのような存在は、格別に強大な力を持つ。デヴィルに最も近い」
この言葉にメシアの脳裡には、地球での光景がフラッシュバックした。宇宙港で、中空に貼り付けにされた感覚は、あまりに鮮烈で、忘れることなどできない経験である。
ベアルドは頭をかきむしり、唸るように言った。
「デーモンはさっきも言ったように、アストラルソウルと同位体だから物理攻撃は無効化されるから、今の装備じゃ戦えねぇんだよ」
困った顔でまた吐息を吐いた。
「そう、物理攻撃はわたしには通用しませんよ」
3人は顔を見合わせた。誰も声音を大きくした覚えはなく、声の主がその場にいないのを、ゾッとする顔色になった。
空間の中央、橋が浮遊する領域が不意に暗闇に覆われた。まるでその空間だけ何処か異空間へでも奪われたかのように。
「奴だ!」
2人に警戒を促すベアルド。
と、甲冑の金属がすり合う音がして、暗闇が人の形に変化した。
バジーザがニタリと微笑み、3人の前に姿を見せた。
「さあ、命をいただきましょうか」
槍を1つ振り、バジーザは切っ先をジェフ、そしてメシアへ移動させた。
すぐにベアルドが彼らの前に立ち、バジーザから2人を守護する体勢を整えた。
「第弐級援護を依頼する」
ソロモンへの援護許可を要請する声が発するベアルドだったが、ソロモンの応答は脳内になかった。
隔絶空間か。苦い顔をベアルドはする。
彼に保護する力はなかった。しかしこの場で彼らを守れるのは自分しかいない。
すべての宿命を担う2人を守護するため、ベアルドは拳をバジーザめがけ突き出す。それが無駄だと分かっていても。
甲冑に触れた拳は中空を空振りするかのようにバジーザなどいないかの如く、彼の背後へとベアルドの身体は抜けてしまった。
「ソロモンの貴方ならばそれが無駄だと分かっているでしょう。何故、そうした無駄な行動をとるのですか?」
「無駄でもな、2人を守るのが俺の役割なんだよ」
と、今度は脚を横払いにバジーザを蹴り飛ばす。が、これもまた霞の如く空振りするばかりだった。
こうした行動に付き合うのも一興、とバジーザが槍を振り上げた刹那、切っ先が触れてもいないはずなのに、ベアルドの膝がカマイタチにでもあったかのように斬れ、血煙を噴いた。
傷口が深いのはベアルド自身にも理解できるほど、激痛に彼はもんどり打って倒れ込む。
「おやおや。これでは遊びにもなりませんね」
端正な顔立ちに冷笑を浮かべ、甲冑を1つ鳴らすと、切っ先を今度はメシアへと突きつけた。
「この一振りがすべての終わりです。物語の完結なのですよ」
そう言い終わるなり、高速で槍が突き出された。
血しぶきが放射される。
ENDLESS MYTH第2話ー33へ続く
ENDLESS MYTH第2話ー32