「自分の色がわからなくなったら、自分から離れて見ればいいよ。そうすればきっとわかる。」

「産まれてから今までって出逢う人出逢う物が自分に色を塗ってくれるんだよ。それがどんどん増えて混ざり合って個性になる。
綺麗に塗られた色も、汚く塗られた色も全部全部個性になるんだよ。
まぁ塗られた色を消えないようにもっと塗り込むか消してしまうかは、全て自分の行動次第だけれどね。」
白い紙は綺麗に折りたたまれていく。

「君も、他人に塗られた色があるのかい?」

2つに折りたたまれた白い翼を外に開く。
鶴だ。真っ白の鶴が彼女の手の平に産まれる。
「あるよ。」
机の上に一羽の鶴をそっと置く。

そしてもう一枚紙を取り出し折り始める。
「他人の評価が気になるなら、直接聞いてみるといい。
たくさんの人に愛されたいのか、たった1人でもいいから永く愛されたいのか。それは人によるけれど、たった1人でも愛してくれた人を大切に出来ればきっとたくさんの人に愛されるよ。たくさんの色に包まれるよ。」
簡単に折られた紙飛行機を彼女は窓から飛ばす。
「世界がこんなにも色で溢れているのに、人が色に溢れないなんてことは無いんだよ。
だって世界は人であって、人が世界なんだから。」
紙飛行機は風を切って空を飛んでいく。
真っ青な空に真っ白な紙飛行機が飛んでいく。

「あの紙飛行機にも色が付く?」
飛んで行ってしまった紙飛行機に興味を失ったかのように、
彼女は別の何かを生み出している。
「つくよ、あの紙飛行機が出逢う人や物が色をつけてくれる。
個性豊かな紙飛行機になるといいなぁ。」
楽しそうに声をあげて笑う彼女は何色だろう。
相変わらず僕には彼女は真っ白に見えて、でもきっと彼女は自分に付けられた色が見えている。
僕は何色だろう。綺麗な色は少なそうだけれど彼女が付けてくれた色はきっと世界中何処を探しても見つからないくらい綺麗な色だろう。
僕はその色を大切に溶け込ませないといけない。

「君は、白いシャツに付いた珈琲のシミみたいな色だ。」
彼女は冷めた珈琲に口をつける。
「それはひどい言われようだね。」
僕はきっとそんな色すら愛せるだろう。

「違うよ、白いシャツに付いた珈琲のシミは確かにカッコ悪いけれど、
その時のことをきっとシミを見れば思い出すよ。その時の珈琲の味も、その時に読んでいた本も、聴こえていた音楽も、温度も。
そんな小さいシミに全部全部詰め込まれてる。
わたしにとって、君はそういう存在だよ。」

優しく笑う彼女に、僕は初めて白以外の色を見た。
木漏れ日の太陽の色。
世界を優しく包んでくれる、暖かな優しい色。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-21

CC BY-NC-ND
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