ENDLESS MYTH第2話ー31
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間髪を入れず身体をひねった巫女は、白い裾を翻して腕を振り上げた。瞬間、赤い閃光が中空を一閃、空気を焼き切った。
と、バジーザの眼前の空間が透き通った壁面へと変じると、その閃光は苦も無く、まるで風船が破裂するように消えてしまった。
もしも物理的衝突が起こっていたならば、物質は焼失したであろう。
これもポリオンの呪術の1つであった。
「貴女レベルの能力者ではわたしと対峙するのは、早いですね。また今度相手になりましょう」
そう言うとバジーザは視線を彼女のアジア的な顔に向けた。
刹那、彼女の肉体はまるで戸板のように身体が硬直して、金縛りとなった。
「に、逃げてください」
身体が縛られる感覚に陥りながら、ポリオンは辛うじて声を発し、背後のメシアへ逃亡を促した。
これに反応したのは神父であった。
神父はン・タドに視線を送る。
するとメシアの肉体は光りの渦に包まれ、円盤の上部から消滅してしまった。
「転送ですか。亜空間のいずれへ転送しようとも、デヴィルズチルドレンは彼を捕らえますよ。それに――」
と、次にバジーザが眼にしたのはジェフ・アーガーである。
「いけない!」
叫ぶとベアルドはジェフへ飛びついた。その時、ジェフが立っていた空間が歪み、湾曲した。
ジェフがその場に居たならば、彼の頭は真空状態に巻き込まれ、弾けていた。
ベアルドがそれを救ったのである。
「彼も転送を!」
ジェフの身体に被さりながら、ベアルドは大声を発する。
これに鳥人間は反応し、ジェフの顔を見下ろすと、光の渦が再び現れ、ジェフとベアルドまでも巻かれ、2人の身体はその場からかき消された。
2人とベアルドが消失すると、バジーザは不意に貼りの切っ先を振り上げ、イラートを指し示した。
光が槍に反射すると、妖気のような死者が放つ腐敗の色が円盤上の全員を照らした。
「運命の子供たち。今は時ではない。力を使うべき時に使いなさい」
指先に走った稲妻が瞬間的に凍り付いた。
イラートは初めて、背筋に冷たいものを感じ、これまでの人生の中で最大級の死の臭いを覚えたらしく、顔色が蒼白になった。
「運命の歯車はすでに動き出しているのです。貴方たちも自らの役割を果たしなさい」
そういうとバジーザは槍を切っ先を下ろすと、端正な顔立ちに冷笑を浮かべ、ゆっくりと消失していった。まるでマッチの火が小さくなって消火されるように。
悪夢の嵐が過ぎ去ったかのように、重苦しい空気から開放された一行は、自然と手に汗を握っているのに気づいた。
しかしマックス神父にそれを憂いている余裕はなく、すぐさま鳥人間の顔に視線のベクトルを向ける。
「彼らは何処へ」
口早に彼は回答を求めた。
「我らの同胞が彼らを保護してくれます」
そう言いながらもン・タドの心理には、動揺が走り抜けていた。今、消えた人の形をした化け物が何処へ向かったのかを、鳥人間は十分に承知していたからだ。
ENDLESS MYTH第2話ー32へ続く
ENDLESS MYTH第2話ー31