第14話 帰路
一緒に帰る隆乃介と希美子。
帰り途中で隆乃介の携帯が鳴った。
「ちょっと、ごめん……。」
こくりと頷く希美子。
少し距離を置いて隆乃介が誰かと電話している様子がうかがえる。
5分ほどして電話が終了したのか、隆乃介は希美子のもとへ戻ってきた。
「さっき話した専門知識持ってるやつからだったよ。調べてもいいけど、レポート提出が遅れてるからそのあとでもいいかってさ。」
「れ、レポート?」
「うん、大学院生なんだ。彼女の分析能力はすごくて、首席で大学卒業してるエリートなんだ。」
「か、かの…じょ…?」
「あぁ、言い忘れてたね。雅尾さくらこっていうんだ、今度分析をお願いしようと思ってるのは。」
てっきり「大学時代の信頼できる奴」っていうから男の人だと思っていた希美子。
希美子はちょっと、胸がちくっと、何かが刺さった気がした。
でも……隆乃介さんは人徳あるし、男女関係なく仲良くできる人そうだもの…。
と自分に言い聞かせる希美子。
「しかしまぁールーズなのが難点で、集中することがあったり、何かスイッチが入ると確かにすごいんだけどね……部屋汚いし。」
と苦笑いを見せる隆乃介。
ふと思い出し、隆乃介はこんなことを言った。
「昼休みに後輩に頼まれてたって今朝言ってたけど…あれってなに?」
「あ、あぁ…あれは……」
希美子は後輩の瑠佳に軽音楽部の楽曲作りの手伝いで作詞を頼まれてたことを隆乃介に話した。
「軽音楽部?そういえば…最近できた部活があるっては聞いてたけど、体育祭でそんなパフォーマンスするんだ、すごいね。」
「瑠佳ちゃんは中学の時に部活が一緒で、よく一緒にシナリオ書いてたりしてたんです。」
「シナリオ?中学の時って何部だったの?」
「演劇部です。私は主に裏方だったんですけど…瑠佳ちゃんは表現力が本当に良くて、『本当はバンド組みたいんですー』ってずっと言ってました。
ミュージカルを卒業公演でやったのに招待されたことがあって、とにかく歌が本当に上手なんですよー。」
「へぇー、そうだったんだ…これで少し希美子のこと、またわかった気がする。」
「え?」
「とかく読書しているところくらいしか見たことないから…ちょっと意外だなって思って。」
ふっと隆乃介が笑って見せた。
「でも高校ではやらないの?」
「えぇ…特に演技をやりたい…というわけでもなくて、本当にやりたいことってなかなか見つからなくて。
まずは「物を書くことで表現する」ことをやろうと思って…実はブログやってるんですよ?」
「読むだけじゃなくて書くんだ!?それはすごいねっ。確かに部活では難しいかもな…それで依頼されたんだ。」
「えへへ…そうなんです……。」
嬉しそうに話す希美子を見て、こっちまで嬉しくなってきた隆乃介。
「で、どんな詩を書いたの?」
「それは秘密です…体育祭までの。私も、体育祭までどんな歌になるのか秘密みたいで。」
二人の話は盛り上がり、あっという間に家の前まで辿り着いた。
名残惜しいのか、なかなかお互いの家に入れない。
不意に隆乃介が希美子の手を取った。
「え…隆乃介さん……?」
「もうちょっと一緒にいたいけど、我慢する…でも…」
希美子の手にそっとキスをする隆乃介。
希美子の心拍数が一気に上がって顔が熱くなるのを感じた。
「今夜、電話する……希美子の声、聞いてから寝たいから…。」
「え、あ…」
言葉にならない声…でも嬉しかった。
「「また明日」っていうのもなんか寂しいから…また、あとで……」
希美子も隆乃介の手の甲にキスをし、
「また……あとで……」
二人は各々の家へ入っていった。
第14話 帰路