三題噺「携帯灰皿」「モニュメント」「田舎」(緑月物語―その6―)

緑月物語―その5―
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緑月物語―その7―
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「……あれか」
 ゴーグルをつけた黒いスーツの男が、林の中で宙に浮いていた。
 ――まるで、足元に何か大きい物体があるかのように。
「潰してやる……」
 男が吸っていた違法煙草を携帯灰皿に入れる。すると、その直後突然その姿が消えた。
 周辺には先ほどから何かの機械音が断続的に聞こえている。
 そしてその音は、その音は点在する林のはるか彼方、こちらに向かってくる一台の小さな車の元へと離れていった。

「…………はぁ」
 酒野修一はげんなりため息をついた。
 ここは大交易都市である宮都から、国立緑月調査部隊育成学校ヤマトまでの送迎車の中。
 酒野たち三人は今、ちょっとしたトラブルの関係で学校への強制送還中である。
 三人掛け二列の送迎車は、マイクロバスというよりはむしろ改造したワゴン車のようななりをしていた。
 耐衝撃完備の全自動運転というハイスペック。しかし、それでも将来有望な学校関係者の乗り物としては基本的な仕様だ。
 そう考えると、この星にとって学校関係者がどれだけ優遇されているかを改めて実感する。
 右隣では同じクラスで整備バカの森本健司がすやすやと寝息を立てている。窓の外を流れる田舎風景を眺めているうちに眠ってしまったようだ。
 普段は落ち着いているのに、少しでも珍しい機械を見ると目の色を変えるのが悪い癖だ。
 左前方の座席では、同じくクラスメイトの神樹友紀子が背筋を伸ばして座っている。酒野の座席からだと寝ているのかもよくわからない。
 去年、ある事件によって学年トップの地位の座についた学校一の有名人。そのせいか常日頃から周囲に厚い壁を作っているように感じた。
 送迎車が道路の石か何かを乗り越えた衝撃で揺れる。
 後方に積まれた荷物が立てた音がドスンと車内に響く。宮都でプロの整備師に自分の装備を見てもらうはずだったのにと酒野は少し悔やんだ。
「今度はわざわざ自腹で宮都へ行くのかぁ……」
 面倒臭がりで苦学生の酒野にとってそれは苦痛以外の何物でもなかった。
 酒野は本日何度目かわからないため息を深々と吐くのだった。

 送迎車がお椀状の形をしたくぼ地にさしかかり、スピードを落としながら急な坂道を下りていく。
 クレーター跡地なのか、一面が緑色の大地でそこだけが未だに地表がむき出しである。
 このくぼ地を過ぎて少しすれば、ヤマトの校舎が遠くに見えてくるはずだった。
 しかし、その妙なモニュメントはその途中。――くぼ地の中心地にあった。

 トラックほどの大きさ。緑色のボディに流線型の独特な模様。
 どこからどうみても元軍用の高速移動専用機体グリーンモスそのものだった。
 それと同時に送迎車内にアラーム音が響き渡る。
 [非常警報。非常警報。未確認戦闘機に照準を固定されました。これより緊急回避運動に入ります。]
「――――!」
 直後、送迎車が跳ね上がるようにして右旋回する。
 タイヤの下を極太のワイヤーケーブルがミサイルのように突き抜ける。
 送迎車は地面に着いたのもつかの間、今度は左側に傾いた状態での片輪走行を開始。
 二本目のワイヤーケーブルが右側後方の地面に突き刺さった。
 [非常警報。非常警報。耐衝撃に備えてください。]
 車内に警告が響き渡った瞬間――。

 フロントガラスに、グリーンモスの機体がめり込んだ。

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三題噺「携帯灰皿」「モニュメント」「田舎」(緑月物語―その6―)

「……あれか」 ゴーグルをつけた黒いスーツの男が、林の中で宙に浮いていた。 ――まるで、足元に何か大きい物体があるかのように。 「潰してやる……」 男が吸っていた違法煙草を携帯灰皿に入れる。すると、その直後突然その姿が消えた。 周辺には先ほどから何かの機械音が断続的に聞こえている。 そしてその音は、その音は点在する林のはるか彼方、こちらに向かってくる一台の小さな車の元へと離れていった。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-01

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