ひめゆり
2004/2/16・17 『ひめゆり』 東京芸術劇場
ミュージカル座公演
作曲 山口琇也
演出 ハマナカトオル
出演
キ ミ 本田美奈子
上原婦長 土居裕子
滝軍曹 岡 幸二郎
檜山上等兵 戸井勝海
他はすべてWキャスト
この作品は日本で唯一地上戦が行われた沖縄の悲劇『ひめゆり部隊』として誰もが知っている沖縄師範学校女子部と第一高等女学校の生徒達で結成された従軍看護隊の物語である。
♪17歳と4ヶ月?まだキスの味も知らず?♪と歌う女学生達に昭和20年3月、敗戦色も濃くなっている頃従軍看護婦としての命が下り南風原(はえばら)陸軍病院へ派遣されることになる。
だが病院と言っても薬も満足に無く只呻くのみの兵士達の傷には蛆が湧いていたり麻酔薬も無く看護婦達に押さえつけられながら足を切断される杉原上等兵、地獄さながらの光景が展開されている。やや世をすねた様な檜山上等兵は何故こんな所に女学生がいるのだと怒るが上原婦長の指導の下懸命に働く学生達、だがそこには鬼とよばれる滝軍曹が居て彼女達を容赦なくこき使う。戦況は益々厳しく学生にも死者が出るようになり病院も危なくなる。滝軍曹は病院を脱出する事を決意し、歩けない者には青酸カリ入りの牛乳を飲ませるよう命を下す。
それを知ったキミは杉原さんを置いてはいけない!と泣き叫ぶが檜山上等兵はそんなキミを担いで森の中へ駆け出して行く。
病院を脱出したものの学生達はバラバラになり幾つかのグループに分かれてしまう。ふみと妹のルリは母の居る家に帰ろうと山の中を歩き出す。このふみさんを演じる川田真由美さん(16日)
は歌も芸も達者、風貌もどこか藤山直美さんに雰囲気が似ている(笑) 足を折った檜山上等兵は逃げるのはもういいと形見のお守りをキミに託し、母に自分の様子を話して欲しいとキミに頼むが生きようと励ますキミ。檜山上等兵は殆どがキミとの絡みだ。今までは悲惨な人生を送ってきた檜山だったがキミとの間に 恋・・・と言うには余りにも儚いけど、心が通い合う時間を持つ事が
出来て思わず笑顔もこぼれる瞬間もあり、荒んだ心にぽっと灯りが点されたように見えて良かったねぇ!と言いたくなった。
生徒達に人を殺せと教えたことを後悔し許して欲しいと土下座をして謝る先生・・・、♪生きて虜囚の辱めをうけず・・・♪ と学生達と共に手榴弾で自爆する先生・・・、現代に生きる若者たちはこの意味が理解できるだろうか? 捕虜になるより死を選べ!・・・、北朝鮮がこれと同じ様な事を工作員に言ったらしいが戦時下の日本の国民もお上の言葉に逆らう事は出来なかった。
ナント多くの人が死んだ事だろう。 教育って本当に大事だね、その重みを考えさせられた。
はる、かな、みさの3人は森の中をさまよいながらどうやったら死ねるだろうと色々試してみるが死に切れない。 ♪生き?るべきか?死ぬべきか?、それが目下の大問題?♪
もし米軍につかまれば身ぐるみはがされて辱めを受けるだろう・・・迷う3人、だが悲惨な物語の中にあってこの3人のシーンだけが唯一可笑しみをもたらす救いの場面、客席からも笑いが起こる。
このキャストも日替わりだったが17日の「はる」は文学座の鬼頭典子さん、パンフを見て初めて出演している事を知った。おぉ?歌も踊りも出来るじゃない・・・(笑)
だが表情がやや硬い感じかな・・・、この3人組は16日の方が良かったかなぁ。
滝軍曹や兵士、学生達は洞窟に非難しているが其処に居た赤ん坊が泣き出すと米軍に知られるとその赤ん坊をひねり殺しその母親までもスパイだろうと撃殺してしまう滝軍曹、この時の鬼軍曹にはもう狂気が混じっているようだ。
檜山上等兵は自殺しかけるがキミに止められる。戦時下で人の肉まで食べて生き延びて来たそんな自分にはもう生きる価値は無いのだと告白する。檜山上等兵が持つトラウマは戦争に従事した者は全て抱え込んでいるのだろうと思う。非人間的な行為を強要する戦争の現場、それはその場に居た者でなければ判らない心の傷だろう。がその時米軍の機銃掃射を受けキミをかばって檜山は死んでしまう。絶望したキミは私も殺して?と両手を挙げて叫ぶ。やがて米軍が沖縄に上陸し丘の上に星条旗が立つ。
キミは皆の居る洞窟にようやく辿りつくが上原婦長は瀕死の傷を負っていた。そんな折米兵の投降を促す呼び掛けが聞こえる。 「白旗を持って出てきなさい」
投降しようとするキミを滝軍曹が制止する。出るなら殺す!・・・、あわやと言う時上原婦長が軍曹を撃殺しキミに出て行きなさいと言うが間もなく息絶える。
だが洞窟にガス弾が打ち込まれ殆どの者が倒れてしまい奇跡的にキミだけが生き残る。
森の3人は飢えていた。そこで出会った米軍兵は彼女達に水や食べ物を薦める。今でこそアメリカ人は親しい隣人だが当時は「鬼畜米英」と教え込まれ女学生達も信じていたはずである。
飲んだら死ぬよと言う者もいたが、飢えには勝てなかった。どうせ死ぬならと飲んでみたが・・・死ななかった(笑)
ふみとルリはようやく母に会えた。生き残ったキミも米軍に投降する。
この物語の中では女学生の生き残った者はたったの6人・・・、なんと多くの若い命が無残に失われた事か。戦争で犠牲になるのは何時でも何処でも罪も無い人達なのだと思い知らされる。
もう半年終戦が早ければ沖縄の、ひめゆり部隊の悲劇は無かったはずだ。もう負けると判っていた戦争を続けさせた責任は大きい。
でも世界では今もこの空しい戦争が延々と続いているのだ。『ひめゆり部隊』は決して繰り返してはいけない教訓としてこれからも語り継がなくてはならない。
今までに観たミュージカルは殆どが外国のものだったがわが国にもオリジナルでこんな素晴らしいミュージカルが有ったんだ!
今回で4度目だそうだがもっともっと全国で広く長く公演してもらいたいと思う。
まず最初にこの出演者の皆さんの歌のレベルの高さに驚いた!主演の4人は勿論の事アンサンブルも素晴らしかった。
中でも上原婦長を演じた土居裕子さんの歌にはもう感動のしっぱなし・・・。白衣に身を包み献身的に兵士達を看病し女学生を最後まで守りぬく崇高なまでの雰囲気が満ち溢れていた土居さんの演技も歌も本当に素晴らしく涙が出た!
主演の本田美奈子さんは顔も小さく手も足もほっそりしていて本当に少女のようだが迫力の有る歌声で頑張っている。岡幸二郎さん、『レ・ミゼ』のジャベールも中々評判が良かったが残念ながら私は観る機会が無かったのでその歌声に接するのは今日が初めてだが、噂に違わず圧倒的な声量、素晴らしい歌声だった。
戦闘帽をかぶり軍服姿も凛々しく舞台の中心から登場してきた岡さんはすらっと背も高くて意外に細身。次第に追い詰められ狂気が混じる辺りからの迫力は凄い!
そして檜山上等兵の戸井さん、自分の生きてきた過去に絶望しながらも人間的な温かみを感じさせる檜山上等兵がそのまま戸井さんに被さった。その歌声は暖かくて優しい・・・。
勿論場面によっては激しい声で歌うが私は戸井さんの歌を聴きながらマリウスの雰囲気もこんなのだったのかなぁ?と思っていた。終演後友人達と戸井さんは何処で歌を勉強されたのだろうか?
と言う話になった。経歴を見てもあまり音楽に関係は無さそうだし、友人達も知らないと言う。 きっと生まれ持った天分なのだろう・・・と言う結論に落ち着いたのだが・・・(笑)
16日の公演では折々の拍手が割りに少なかったが、17日は度々拍手が起こる。千秋楽だから・・・? カーテンコールではもうスタンディングオベイション・・・、最後には岡さんが前日のキャストを
迎えに行き全員笑顔と拍手で千秋楽を終えた。
ひめゆり