巌流島より

Webでの投稿っていうか、投稿そのものが初です。笑ってもらえたらうれしいな。

 時は慶長、風は江戸。一人の剣豪が島でぽつりと彼奴を待っている。この男、名を佐々木小次郎といいその名を都の侍から商人まで轟かせる程の大剣客。そして彼が待つ男の名は宮本武蔵、これまた世に名を馳せる若き剣豪。今日ここ巌流島で二人の決闘が始まろうとしている。例によって先に島で待つ小次郎。
「遅いぞ武蔵。よもや海に沈んだのではあるまいな。いいや、あの武蔵のことだ、そうだとしても刀を手に持ち泳いででもこの小次郎の待つ巌流島まで馳せ参じるであろう」
 しかし待てど暮らせど未だ姿を見せない武蔵に小次郎の小言は増えるばかり。
「武蔵の奴まだ来んか、あれ程時間だけは遅れるなと言っておろうに、全く近頃の若いもんはこれだから。嗚呼、全く」
 顔を赤らめて憤怒の小次郎はじっとするのを止めて、島をふらふらと歩く。すると急に刻の流れがはっきりとわかり、益々苛立つ小次郎はまた小言を言う。
「嗚呼、もう遅いわぁアイツ。島に着いて迷ったと思って探し歩いたら島を一周しちゃったじゃん。嗚呼もう暇疲れしそうだわ、ていうか遅れるなら伝書鳩くらい寄越せよアイツ、まあいい、拙者小次郎この様なこともあろうと懐中伝書鳩を懐に」
 そう言うと小次郎は懐から小さな白い鳩を出し、脚に伝書を取り付け開門海峡に小舟で漕いでいるであろう巨漢の武蔵を探させることになった。小次郎の手から離れた鳩は半時程過ぎた頃、武蔵の便を持って帰って来た。刻は夕刻になっていた。
「帰って来るのが遅いな、一体どこにいるのだ武蔵どれどれ奴の伝書には何て書いあるのだか」
《佐々木殿 へ
誠に申し訳ないで候う。体調が優れず海に出るのが遅れたで候う。まだ島も見えてない海の上で候う。本当に申し訳ないで候う。拙者も鳩を送くろうとしたので候うが、巌流島上空で鳩が混雑していて、送れなかったで候う。もう暫し、もう暫し待たれよ
武蔵より》
「言い訳してんじゃねーよ、武蔵。こんな誰も居ない島の上で鳩が混雑する訳ねぇーじゃん。ふざけんなよマジで。つーか体調悪いとか書くなよ武蔵、これから闘いずらいじゃんよ、それと『候う』の使い方が雑だし、アイツ絶対文の最後に『候う』ってつければ敬語になると思ってるし」
 とうとう浜辺で名刀を抱き、立ち膝で眠りに就く小次郎、そこに月明かりが差す。するとザッザッと浜辺には無精髭の大男が小次郎に近づく。動かない小次郎、しかし武蔵の方は此奴があの佐々木小次郎であると気づくと叫んだ。
「小次郎、敗れたり」
武蔵の剣筋が眠っている小次郎の体を通り抜け、浜辺の砂は血の色に染まる。小次郎、今際の際に一言。
「来るなら鳩くらい送れよ」
 いけしゃあしゃあと島を後にする武蔵は勝利を収めた。
 これが巌流島の闘いの真実かどうかは浮き世の誰一人知り得ない。去れども無念の小次郎は今もあの島で眠っているに違いない。

巌流島より

巌流島より

あの巌流島の闘いをテキトーに、ゆるゆるで再解釈。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-20

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