何でも切れる鋏をもった少女

何でも切れる鋏をもった少女

チョッキン、チョッキン、

この鋏は何でも切れる鋏なの、

チョッキン、チョッキン、

物でも者でもモノでも何でも切れる鋏なの、

チョッキン、チョッキン、

人の因果や、概念だって、

チョッキン、チョッキン、

対等な対価さえもらえれば、

チョッキン、チョッキン、

何でも切ってあげる、

チョッキン、チョッキン、

チョッキン、チョッキン、






小さな森に住む、団子鼻の木こりは、

「この森全ての木を切って欲しい、そして薪にしてくれないか」と頼んだ、

彼女は喜んでその森の全ての木を裁ち、その木を薪にした、

町の人々は薪を拾って歩き、ある日山火事で薪は全て灰になった、

木こりは職を失い、パンを買う金もなしに餓死して死んだ、




町に住む、裕福な家庭の金髪の少女は、

「私を嫌っている人たちとの関係を、全て断ち切って欲しい」と頼んだ、

彼女は喜んで金髪の少女を嫌っている人々の関係を全て断ち切った、

次の日から、町の人々全てが彼女を見向きもしなくなった、

執事の爺も、許婚の男の子も、誰も、彼も、みな彼女を見なくなった、

許婚との関係が切れてしまったため、当てにしていた財産を得られず、

ほど間もなくして彼女の一家は没落し、惨めに襤褸切れを纏い物乞いをした。

だが誰も見向きもせずに、冬の吹雪の日に家族揃って凍死した。




大きな城に住む、ある小国のにきび顔の国王は、

「他の国に侵略されないように、他国と領地を切り離してくれ」と頼んだ、

彼女は喜んで、この国の領地と他国の領地を切り離した、

大地は寸断され、眼も眩むような深い深遠の谷底が国を囲った、

半年ほどして、河は枯れ、貿易は止まり、作物は枯れ始めた、

1年を過ぎる頃には、飢餓と内乱が勃発し、国王は斬首刑にされた、

食べるものが無くなった彼らは、お互いに殺し合いその肉を食らった、

2年が経つ頃には誰も生きている者は居なくなった。




小さな村に住む、まだ幼い顔をした端正な少年は、

「年を取りたくないんだ、この自慢の顔を失いたくない」と頼んだ、

彼女は喜んで、彼の時間を切り離した、

その瞬間から、彼の時間は何一つ進まなくなった、

棒切れで叩こうが、火で炙ろうが、高いところから落とそうが、汚れ一つ付かなかった、

微動だにせず、時間を切り離した瞬間のまま、とても誇らしげな表情をしていた、

5年立っても10年立っても、微動だにしない彼を、村の人々は大層気味悪がり、

異郷にある、深い深遠の谷底に少年を投げ捨てた。




ある都市に住む、蒼眼の白髪交じりの老兵は、

「今度の戦争で死にたくない、娘の婚姻があるんだ、死を切り離してほしい」と頼んだ、

彼女は喜んで、彼の死を切り離した、

彼はその戦争で、多くの敵兵を殺し、敵の大将を殺し、英雄となった、

だがその裏では、殺しても死なない化け物とまで言われた、

戦争が終わると彼は、自国の領主によって監禁された、

領主は「貴様は私の駒に過ぎない、私の命令した通りに働けばいい」と言い放った、

彼が自分の地位を狙っていると思った領主の策略であった、

そして彼は城の、内装は豪華だが鉄格子の扉で閉ざされた奇妙な部屋に幽閉された、

娘のことだけが彼は気がかりだった、

だがその頃、娘の婚姻が間もなくという日に、娘は、都市の大きな聖堂の司祭らに捕らえられた、

「この娘は、いかなる方法でも殺しえない人ならざるものの娘だ、きっと殺しても死なないに違いない」

と言って、娘を捕らえて拷問にかけた、娘は、皮を剥がれ、耳を削がれ、眼を抉られ、焼けた鉄を何度も押し付けられた、

そして3日後の、ちょうど結婚式の日に、娘は処刑台に上らされた、

「民衆よ、この女はやはり化け物の娘だ、これほどまでに虐げられてもまだ生きている、地獄の業火にて神罰の裁きを下す」

娘の周りに薪がくべられ、松明で火が灯された、喉が潰されており、声にならない声で叫び声を上げた、

最後の最後、まさに命が燃え尽きる刹那、彼女は叫んだ、




「お父様あ゛ぁあああああ!!!」




その声が父に届く事は無かった、

半年後、次の戦争の為に部屋から出された彼は、味方の兵士から自分の娘が聞くに堪えない惨い方法で処刑されたことを聞いた、

自分が望んだ娘の幸せの為に、政治の思惑の為に、宗教の思惑の為に、娘が犠牲になった事に、彼は酷く落胆した、

森羅万象、有象無象に失望を覚えたこの老兵は、戦争にまぎれて、誰が知る由も無くどこかへ消えていった、

戦場で英雄と呼ばれた彼が姿を眩ますと、とたんに士気は下がり、戦局は覆り、終には都市が陥落した、

ありとあらゆる物が壊され、蹂躙され、そして殺されていった、




幾百年後、彼は自分の娘が処刑された場所の前に居た、

観光名所となっていたが、面影は殆ど無く、様々な人が往来していた、

上質なスーツと、シルクハットが似合う、大柄なこの男性の眼光は鋭く、

紛れも無く、幾百年前と全く変わらない、蒼眼の白髪交じりの男性だった、

生ける者は全て、生れ落ちた瞬間から例外なく死へ向かって歩き始める、

"死"なないという事は、"生"きてもいない事と同じ、歩みは止まり、命の砂時計は落ちることなく留まっている、

故に彼は年を重ねることは無い、自然の摂理に逆らった代償は余りにも重い、

昼下がりのカフェテラスで、エスプレッソを口にする、

芳醇な薫りと、口当たりの良い苦味が、体中を満たした、

歴史上の偉人達が生涯を掛けて望んだ不老不死が、こんなにも辛いものとは思って居なかった、

もう一度、あの鋏を持った少女に会えれば、私を殺してもらえる、

それだけを生き甲斐にして幾百年生きてきた、

いつかきっと、また遭える、そう信じて、




「お隣、宜しいかしら?」

私は声を掛けた女性を見て、眼を見開いた。

何でも切れる鋏をもった少女

小説というほどの長さでもないが、詩と言うほどの長さでもない作品、書いている間に誰に主軸を置いているのか分からなくなってきた、
何時までもだらだらと書いていくとまとめようが無いので、老兵の話の続きは別に書こうかと、どこかで他の話と繋がる事もあるかも、
多くを求めすぎると、手のひらから砂のように零れていってしまうという話の寄せ集め、人にお願いするときは正当な対価を用意しましょう。

何でも切れる鋏をもった少女

対等な対価さえもらえれば、何でも切ってあげる。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-30

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