チョコレートマン
物語作家七夕ハル。
略歴:地獄一丁目小学校卒業。爆裂男塾中学校卒業。シーザー高校卒業。アルハンブラ大学卒業。
受賞歴:第1億2千万回虻ちゃん文学賞準入選。第1回バルタザール物語賞大賞。
初代新世界文章協会会長。
世界を哲学する。私の世界はどれほど傷つこうとも、大樹となるだろう。ユグドラシルに似ている。黄昏に全て燃え尽くされようとも、私は進み続ける。かつての物語作家のように。私の考えは、やがて闇に至る。それでも、光は天から降ってくるだろう。
twitter:tanabataharu4
ホームページ「物語作家七夕ハル 救いの物語」
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チョコレートの甘いにおい。僕は引き寄せられるように、穴の前に来る。間違いない。ここだ。この中にチョコレートがある。穴は相当深いのだろう。中は真っ暗だ。昼の太陽も、この穴の前では、無力。僕は、まず石を投げ入れてみた。しばらく、じっと耳を澄ましてみる。何も音がしない。穴はとても深いのだろうか。それとも、柔らかなチョコレートに石があたって、何も音がしなかったのか。
チョコレートマン参上!!
僕は、ヒーローであるチョコレートマンに変身した。変身といっても、チョコレート色の帽子をかぶり、リバーシブルのジャンパーを裏返しにするだけだ。チョコレートマンはチョコが大好きなヒーローだ。子供たちのチョコを守るために、日々塩辛い敵と戦っている。イカの塩辛男爵、あたりめキッド、つけもの隊長。皆強敵だったが、最後は、チョコレートマンの甘い言葉で、改心していったものだ。
さて、変身して穴にとびこむ準備はできた。けれども、相変わらず穴は、不気味だ。勇気が出ると思って変身したが、やはり怖い。そこに、師匠であるキャンディー老が登場。
「何を恐れておる。チョコレートがそこにあるというのに、なぜ行かぬ。子供たちがチョコを待っておるのに」
キャンディー老の口は、もぐもぐと動いている。キャンディーをなめているのだ。キャンディー老は、ちなみに子供たちから嫌われている。なめたキャンディーを、そのままあげようとする癖があるからだ。これさえ、なければいい師匠であるのに。
僕は秘密兵器チョコレートバナナスカイを取り出した。バナナの形を一見しているが、恐ろしい兵器なのだ。チョコレートをどこまでも追跡するというすぐれものである。スイッチを入れると、ブォォォォンと音がして、バナナスカイは、穴の中に入っていく。僕も引っ張られるように穴の中に入る。バナナスカイについている紐を握っていたから。
やがて、穴のどんどん深くに入っていく。キャンディー老の「チョコレートは、見つけたか?」の声が上からする。僕は「まだです。においだけします」と答える。事実、穴の上に光があるだけで、穴の中は、真っ暗だったのだ。バナナスカイは、突然、ピーと音をたててしまう。いけない。バナナスカイは、壊れやすいのだ。さらに、僕の全体重を支えていたために、故障してしまったらしい。もう少しだ。もう少し頑張ってくれ。僕の願いも虚しくバナナスカイは、静かになる。そして、僕も穴の下へ落ちていく。
「ウワァァァァァア」叫び声が穴に響く。
「無事か?」キャンディー老の声だ。ただ、変に反響して、思いっきりエコーがかかって聞こえる。
「大丈夫みたいです」僕は、多少体の痛みを感じながら、立ち上がる。
チョコレートのにおいは、さっきより一層強くなっている。
「見つけた!!」
思わず声がもれる。
僕の手に、柔らかいものが触れたのだ。なめてみる。甘い。
「やった!!チョコレートだ!!」
僕は、世界から消滅したと信じられていたチョコレートを見つけた。しかし、上にのぼる方法は何もなかった。僕は、チョコレートに囲まれて、チョコレートマンの主題歌『激アツチョコチョコ』を歌った。上からキャンディー老が、鼻歌で合わせる。甘い。僕は思いっきりチョコレートを楽しむことにした。他には、何もいらないのだ。
チョコレートマン