ふたりの絆(26)

許婚とヒカルの想い

アカリに許婚がいた。

ヒカルがその事実を知らされたのは、徳島までアカリに会いに行った時である。

それ以前に、群馬で再会したアカリから許婚の話が出たのだが、

深く聞く気にはなれず適当にあしらった。

しかし、許婚という言葉が脳裏から離れず悶々とした気持ちでいた。

今回その気持ちをはっきりさせる為に、徳島までアカリに会いに行ったヒカルだった。

本題に入る前に許婚とは何なのか、辞書で調べてみた。

『本人の意思とは関係無しに、親同士が話し合いにより、婚姻相手を決めること。』

現代ではほとんど聞かない言葉であろう。

さて、本題に戻ろう。

「アカリはどう思っているんだい、許婚のことを。」

ヒカルはアカリに質問をした。

「許婚がいるとは聞いたけれど、会ったことはないの・・・私はお母さんが大好き。」

「だから、お母さんが望むのなら叶えてあげたい。」

アカリはそう話してくれた。

アカリが母親に異常なほど愛情を持っているのは知っていた。

よく母親の話を聞かされていたからだ。

「アカリは僕のこと、どう思っているの?」

ヒカルはストレートに聞いてみた。

困った様子のアカリだった。

「私にとって大切な、友達以上の存在かな。」

考えた末の表現であったと思う。

友達以上とは何なのだろうか・・・結局、恋人気分で一人相撲していただけだ。

確かに、他人から見ても仲の良いふたりだった。

手を繋いで歩いたり、ひとつのソフトクリームを2人で食べたりしていた。

そんな仲なのに、ヒカルはアカリに一度もキスをしたことが無い。

無いのではなくて、させてくれないアカリであった。

当然、SEXも不可だ。

「キスは嫌いなの。」

「本当に好きになったらしてもいいかな。」

ある意味、わがままなアカリだと思う。

しかし、そういわれてしまえば2人の間には恋愛感情は存在していなかったことになる。

アカリが言葉を続けた。

「ヒカルとは、恋愛感情を越えた何か別のものがあるの。口では説明できない、何か。」

ヒカルも感じていた。

確かに1人の女性として見ている時は恋をしているのだが、それ以外のときには何か別の感情があることを。

これが2人の目に見えない『絆』の力なのだろうか。

「アカリ、その許婚の人に会うのかい?」

ヒカルは聞いてみた。

「年末に大阪までお母さんと2人で会いに行く予定なの。来年の4月から大阪の専門学校に通うからね。」

アカリはここで言葉を切った。

そして、これ以上話を進めたら何を言い出すか判らないヒカルだった。

徳島から帰って来たヒカルは考えていた。

アカリの言ってくれた言葉。

「また、会いましょうね。」

会いたい気持ちは正直ある・・・でも、そこには恋愛は成立していない。

会う意味があるのだろうか。

悩むヒカルであった。

                                   →「メリークリスマス」をお楽しみに。  1/19更新

                                   ホタル:ヒカルの悩む気持ちはきっと、読者の方々も
                                       共感できる方は多いのではないでしょうか。
                                       アカリの恋愛感覚はどのようなものなのか・・・。

                               -26-

ふたりの絆(26)

ふたりの絆(26)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-19

CC BY-NC-ND
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