タイタス・アンドロニカス
2004/2/9 『タイタス・アンドロニカス』 大阪ドラマシティ
作 W/シェイクスピア
演出 蜷川幸雄
開演前に舞台で出演者のリハーサルのようなものを観客に見せるらしい!
前もってこんな情報を得ていたので12時半会場と同時に中へ入った。 おぉ?やっている・・・(笑)
背景の色は殆どが白、そこへライトで格子状の模様をライトで照らし、アルファベットと数字が縦横に照らし出されている。衣文掛けのようなものがあり白い綿入れのようなガウンが掛かっている。
お面の付いた冑のようなもが沢山置いてある。その中を俳優さんがかなり大勢これも白の衣装をつけたままウロウロしている。
発声練習をする者、ストレッチをする者、客席の間を歩き回る者・・・、すると舞台下手にメガホンを持った人が現れ『25分前で?す。ロビーの衣装、通路の確認もお願いしま?す』
『お客様におねがいしま?す。俳優が通路を通りますので足元にお気をつけ下さい。俳優も気をつけていますがご協力お願いしま?す』・・・。
『5分前で?す。スタンバイお願いしま?す』
こんな事を何時も裏方でやっているのかなぁ・・・、そんな事を考えながら見ていたら突然蜷川さんの声がした。
『それじゃ?いこうか・・・、ヨーイ・・・ハイッ』・・・(これは絶対テープだ! 笑)
一瞬にして舞台開演となった。
そこには帝位を争う兄のサターナイナス(鶴見辰吾)と弟のバシエイナス(横田栄司)の激しい応酬が始まっていた。
そして戦いに勝利したタイタス・アンドロニカスが次の皇帝に相応しいだろうと言う事になる。
そこへタイタス・アンドロニカスが捕虜と共に凱旋してくる。捕虜の中にはゴドー族の王妃タモーラ(麻実れい)とその息子達、そして王妃の愛人のムーア人のエアロン(岡本健一)もいる。
周りが人物は全て白の衣装なのにこのエアロンだけが真っ赤な衣装をつけている。その上半身は大きく広げられ褐色の肌の筋肉質の逞しい胸を見せている。これがとても綺麗なんだ!奴隷の身でありながら王妃の愛人としての立場を充分に利用する抜け目の無いエアロンをギラギラとした表情で見事に表していた。
岡本さん、身長は大きい方では無いけどその動きがとても敏捷で中々良い男・・・(笑) 腹の刺青がとても効果的!
そして戦いで死んだ使者に捧げる生贄としてタモーらの息子が選ばれる。命だけは助けて・・・、とのタモーラの願いも空しく息子は処刑される。息子の首を抱いたタモーラは放心状態・・・。
皇帝はやはり先の皇帝の息子サターナイナスが相応しいとアンドロニカスは進言し、その感謝の意に答える為サターナイナスはアンドロニカスの娘ラヴィニア(真中瞳)と結婚すると申し出るが、ラヴィニアは弟のバシエイナスと愛し合っていた。二人が出て行った後サターナイナスはタモーらの美しさに惹かれていて彼女と結婚する。こうして皇帝の后となったタモーラの復讐が始まるのだ。
エアロンに唆されたタモーラの二人の息子がバシエイナスを殺しラヴィニアを陵辱する。そして犯人が誰かを明かさせない為字が書けないように両腕を切り落とし口が聞けないように舌も切る・・・。
こう書いてくるとナント残酷な・・・、目を覆いたくなるような光景のはずなのだが・・・。
私がチケットを取るのを躊躇したのもこの辺りが原因なのだが、さすが蜷川さん!ここでこの舞台を白一色にした訳がわかった。
流れる血は全て赤い糸で表現されている。切落とされた首もプラスチック製で赤い糸が下がっていた。そして今舞台に居るラヴィニアの手にも口にも破れた服にも赤い糸が下がっている。それは無残な姿では有るがリアルな生々しさではなくある意味でこの白と赤の対比がとても綺麗に見えた。この物語では10数人の人が殺される事になっている。
それを舞台で嫌味なく表現する為の白の衣装と赤い糸・・・、蜷川さん、さすがぁ?! と私は感動した。
舞台上に置かれてある白い蓮の花の間をよろけながら歩くラヴィニアをタイタスの弟マーカス・アンドロニカス(萩原流行)が見つける。抱きしめたラビニアはうめくだけで何も語れない。
このラヴィニアの白と赤に彩られた姿がとても綺麗で、だからこそこの惨たらしい姿を飛び越えて私の感情は一直線にラヴィニアの傷の痛さ・悔しさ・哀しさ・恥ずかしさを思いやる所へ飛んで
行ったような気がした。口に赤い糸を咥え斬られた手にはめた筒からも赤い糸が下がっている。苦悩で顔をゆがめるラヴィニア・・・可哀そうに・・・涙が出た。この真中さんとても良かった!
エアロンの企みによってバシエイナス殺害の犯人にされたタイタスの2人の息子は死刑判決を受け、長男のルーシアス(広田高志)も追放される。
エアロンに息子達を助けたければ皇帝に手を斬って差し出せと言われたタイタスは自分の手を切り落として皇帝に届けるが、その手と共に息子達の首が送り返され来る。
ラヴィニアが砂に犯人の名前を書いた事でタモーラの息子だとわかったタイタスは復讐を誓う。
そんな折タモーラは男の子を出産するがナントその子は色が黒かった! エアロンの子だったのだ。
俄然父性に目覚めるエアロンはその子の命を救う事と引き換えに今までの悪事を全て白状する。
やがて最後の場面が来る。 皇帝夫妻を食事に招待したタイタスはタモーラの2人の息子を殺しその血や肉で料理をつくりそれをタモーラに食べさせるのだ。
このまま生きても幸福になれないラヴィリアを殺しタモーラを殺し皇帝も殺され最後に自分も死んでしまう。この場面はアッという間だった。たたみ掛けるように此処までくる。
そしてこの血を血で洗う物語の舞台はタイタスの孫のルーシアスがエアロンの黒い子を抱いて絶叫する所で終わる。
この舞台の象徴として雌狼が人間の子に乳を与えている大きな彫像が何度も舞台の中央に出てくる。勿論これも真っ白だ。
パンフを読むとこれはローマのシンボル『カピトリーノの雌狼』というものらしい。 種を超えた親の愛を示すもの、なのだそうだ。
それにしてもなんと言う残酷極まりないお話・・・、今回蜷川さんは白と赤を使って綺麗に作り上げたが他の国の舞台はどのように演出したのだろう?もしこれをリアルに描いた時には
とてもじゃないが観ていられないだろうな。 観終わった時真っ先にそう思った。
吉田鋼太郎さん熱演! 麻実れいさん 妖艶! アンコールの拍手を浴びて袖に引っ込む時宝塚時代を思わせる決めポーズをとる(笑) これがホントに綺麗に決まるのだ!
そして蜷川さんのアイデアに拍手!
2/11
今日の新聞に興味深い事が載っていたので此処に付け加えて置こうと思う。
大阪公演にあわせてこの劇評を書いたのはプログラムにも対談を載せている翻訳家の松岡和子さんである。 その中から抜粋させてもらった。
一つは最後の場面となったエアロンの子供を抱いて天に向かって絶叫するシーンはシェイクスピアの戯曲には無くて蜷川さんのオリジナルなのだそうだ。
このシーンが何を意味するかは観客の感じ方に委ねられていると思ったがなるほどね。 21世紀の今も世界では復讐の連鎖による空しい戦いが続いている。蜷川さんはその悪の連鎖を
断ち切れとメッセージしたかったのではないだろうか? 『ペリクリーズ』にも戦いに傷ついた人々を登場させていた。「世界の蜷川」と言われるだけあって考える事も世界的(笑)
『タイタス』のあの絶叫シーンも只一人生き残ったこの子の運命を悲しむと同時に、哀しい結末を伴う復讐の繰り返しはこれで終わりにして欲しい!その叫び声だったのかもしれないと思った。
もう一つは「シェイクスピアは宮内大臣や国王を庇護者とする劇団の座付き作家であったので反社会的な言動=つまり隠れた本音は全て悪役に言わせた節がある」・・・へぇ?そうなんだ。
この『タイタス・アンドロニカス』の悪役、つまりエアロンの悪行の背後には差別と侮蔑を受け続けた者の「理」があり、それがエアロンを悪の魅力が輝いている人物にしているのだと松岡さんは
解説している。そうするとシェイクスピアの戯曲に出てくる悪役には彼の本音が出ていると言う事か・・・。なるほど!
タイタス・アンドロニカス