5月の夜
夕闇。
あっちの浅緋から、こっちの濃紺色へ。ぬるい風が抜ける。
生ぬるい風。水飴のように私の髪に絡まって、ぬらりと通る。髪を整える。
春の気配は日ごとに消えていく。
蝕むような熱が、桜の木に油のようにまとわりつく。爛漫の季節の残骸がまたひとつ散る。
私はその撲滅を見る。立ち尽くして感じる。
生ぬるい風に抹殺され、討ち滅ぼされていく。
早くなる脈拍。
ビロードのような群青が、浅緋を遮っていく。
深い闇が春と私を包み、その中に溶ける想像をする。
意味は無い。
そう、意味は無いのだ。
あの抹殺にも、早くなった脈拍にも、ビロードの群青にも。
スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスなぬるい風が、閉じたまぶたを撫ぜる。
意味は無い。ナンセンスなこの歌にも。この切なさにも。
黎明をただ待つ。
春の残骸の最後のひとひらが、仄暗い水飴の中で、音もなく舞った。
5月の夜