ENDLESS MYTH第2話ー29
29
「あり得ないことですね。貴方が言っているのは集団を個体として進化させるという意味なのでしょうが、独立した個体を1つの単体へ融合させるなど不可能です。そもそも意識体という概念すら疑わしい」
ペタヌーの言葉を鵜呑みにするほど、ファン・ロッペンは素直ではなく、意識体という概念を信用するほど、地球人の知識はまだ進歩していなかった。
反響音はファンに対して冷静に告げた。
「意識体を否定するのであれば、貴方自身の存在すらも否定することになる。地球人類もまた、肉体に縛られた意識体に過ぎないのです」
そういうとスキンヘッドの男の肉体が光の粒となって突如、弾け飛んでしまった。
目の前に浮遊していた男は消滅し、視線を向ける方向を若者たちは失った。
が、肉体が消失しても尚、ペタヌーの声は巨大空間に反響する。
「肉体を消失したところで、意識体は消滅しません。これが証拠です。
話を元へ戻しましょう。我々ペタヌーは科学力によって意識体の統合を果たしました。これもまた、私が証拠ということになるでしょう。デヴィルの意識体によって絶滅の危機に遭った我々は私という単体へ進化することによって、種族的危篤状態からの開放をみたのです」
そう言い終わった時、メシアたちの前に1つの青い光の球体が現れた。
「可視化を体現したほうがあなた方人類には分かりやすいようですので、この姿を仮初めといたしましょう」
反響する声は淡々としているが、どことなく人間を見下している雰囲気があった。
そうした人間の敵意を意識体は敏感に感じ取った。けれどもそうした敵意に無反応のままに、反響する声色は彼らに語りを続けた。
「我々は逃げた。宇宙の隅々まで見知っている知識を生かし、あらゆる生命体と接触し、そして組織を設立いたしました。デヴィルに対抗する組織を。このイヴェトゥデーションを」
円盤に苛並ぶ異形の者たちが一斉に人間たちを見つめた。
「ここに並ぶのは故郷を失った種族。この宇宙ばかりではありません。この宇宙の外側からやってきた種族もおります。デヴィルに故郷の宇宙を奪われた種族がほとんどなのです」
ペタヌーの言葉が意図するところが分からず、イラートとジェイミー、イ・ヴェンスはまたしても顔を見合わせた。
3人の疑問を代表するかの如く、ニノラ・ペンダースが問いかけをする。
「宇宙の外側とは、なんなのです」
黒人青年の問いに答えたのは、意識体ではなくベアルド・ブルであった。
「この時間帯にも理論だけはある。聞いたことはないか“多次元宇宙”という概念を。スウェーデン宇宙学者、マックス・デグマークなど、複数の学者が提唱している理論だ。M理論なども有名だがこうした理論が後の歴史数百年で実証される。人類は宇宙の外側にも宇宙があることを知る。
つまり宇宙とは1つではない。宇宙の外側にもまた別の宇宙が存在している」
科学者組織ソロモンの一員として明朗に語る青年。
「そう、宇宙とは多数にあるのです」
光の球体はベアルドから言葉を引き取った。
「宇宙とは泡のようなもの。あるいは膜のようなもの。外側には同様の気泡が無数に存在しており、それらがまた1つのより巨大な宇宙を形成しているのです。そしてまた巨大宇宙の外側にも同様の宇宙が存在して無限に集まってまた宇宙を1つ形成する。その外側にもまた同様の宇宙が、と無限に宇宙は外側へ連なっており、その中には無限の種族、生命体が誕生しているのです。
そこからこうして集結した者たちこそがイヴェトゥデーションの人員ということなのです」
光の球体は淡々と説明する。
しかし規模があまりに壮大すぎて、例の3人は理解せきず、ジェフもその一員に加わっていた。
「それほどの巨大なる宇宙が仮に存在したとしよ」
ファンが信用してはいない口調で光の球体へ話しかけた。
「無限の宇宙を破壊するデヴィルとは、なんなのです? すべてを超越した意識生命体の貴方すらも越える生命体とでもいうのですか?」
「デヴィルとは生命体ではありません」
と、沈黙していたマックス・ディンガー神父が不意に答えた。
「デヴィルとはその名の通り、神々と対立するヘルの住人。人類や他の知的生命体の知恵では到底理解できない存在。貴方も見たでしょう、宇宙港での惨劇を。あれがデヴィルの力。あれがデヴィルに遭遇した生命体の末路」
神父の顔はこれまでにないほど、深刻に落ちくぼんでいた。
「そう、デヴィルとは想像上の話でも信仰の大敵でもありません。実在する生命体の最大の脅威なのです。すべてを克服した我々が唯一克服できなかった存在なのですから」
光の球体の言葉に絶句するしかない若者たち。
眼前の存在と周囲の状況を見れば、すぐにイヴェトゥデーションが人類では想像もつかない組織なのは理解できる。それらに属する種族が高位次元にあることも。それらですら恐れるデヴィルという存在。遭遇した自分たちの命があることすら、不思議な若者たちであった。
「それじゃあ、人類を救うことはできないってのか?」
人類の救助を懇願していたジェフは、遠回しに人類が見捨てられたのではないかと、落胆の色を顔に塗った。
が、鳥人間の見解とペタヌーの見解は合致しなかった。
「人類は絶滅しないでしょう。我々はそう考えています」
ENDLESS MYTH第2話ー30へ続く
ENDLESS MYTH第2話ー29