夜空に、素敵なお話を。

出会いは、いつだって突然で。

初めて会ったのは、海だと思っていた。
おそらく彼女もそう思っていただろう。
そこは、何も見えなかったんだ。
分かるのは、おだやかな波の音と、ざらざらとした砂の感触。
最初は彼女がいることさえ気づかなかった。
これから、僕の人生において、
輝く星のようになる彼女のことを。

蒼空と、「恋」

昔から、本が大好きだった。
学校でも、家でも、本を読んでいた。
小さいころについたあだ名は「本ハカセ」だった。
暇さえあれば図書館に通っていた。
だからと言って本ばかり読んでたわけではない。
運動も好きだし、勉強もまあまあやっている。
ただ、「恋」というものはしたことがなかった。
本の中の勇者も、王子様も、みんなみんな
お姫様や、人魚や、俗に言う「ヒロイン」とやらに
「恋」をする。それがなんなのか僕には分からなかった。
そう。分からなかったのだ。家族や友達以外の人を
「好き」と思う気持ちが幼い僕には分からなかった。
君に出会う前の幼い僕には。

現れた少女は

僕は「そら」という名前通り、空が大好きだ。
自分の部屋には天体望遠鏡があるし、星座の名前だっていくつも言える。
その日も、空を眺めようと、外に出てみた。
せっかくだから、少し遠くまで行ってみようかな?
そんな気持ちで歩いているとさんざめく波の音が。
「こんなところに海なんてあったんだ…。」
満点の星空の下、波打つ白波の美しさに驚いていると、
「こんばんは。」
それが僕らの出会いだった。

想い出

「うおっ!?」
突然かけられた声に驚き、メガネを落としてしまった。
「わっ!?驚かせてすいません!こんなところに人がいるなんて思ってなくて。珍しいなぁと思ってつい声をかけちゃったんです!ほんとにすみません…。」
謝りながら、僕のメガネを取り、
「メガネ大丈夫ですか!?弁償します!」
と、頭を下げたみたいだ。
「そんな!弁償なんて大丈夫です!
それよりあの~、メガネが無いと何も見えないので、お返ししてもらっても?」
彼女はずっと僕のメガネを握りしめたままだ。
「あっ!すみません!どうぞ!」
頭を下げながらメガネを返す彼女。
メガネをかけると、彼女の隣に可愛らしい黒猫の姿が見えた。
「あ、猫だ。」
「この子、ビスケっていうんです。うちで飼ってる猫なんですけど、出かけるときについてきちゃって」
そう言って猫を抱き上げる。
「ビスケってもしかして…?」
「知ってるんですか?」

共通点

「はりねずみビスケのだいぼうけん!
ですよね?」
「そうです!あの絵本が大好きで…!」
「僕も大好きです!
ボロボロになるくらい何回も読んだんです。」
「私もです。まさか知ってる人がこんなところにいたなんて…」
彼女はビスケを撫でながら愛おしそうに微笑む。
「今日はどうしてここに?」
彼女に聞かれて、遠くまで来ていることを思い出した。
「空が好きで、散歩がてら、ちょっと遠くまで~と思ったらここを見つけて…。」
「もう、21時ですよ!帰らなくて大丈夫ですか!?」
「え!?もう、そんな時間?やっべ!
あ、ありがとうございます!じゃあ、またね、ビスケ。」
撫でると、背伸びをして、にゃおーんと鳴いた。
帰ろうとすると、
「あのっ、」
彼女が呼び止める。振り向くと、
「また、今度。」と小さく手を振った。
「はい、また。」と手を振り返した。
背を向けて歩き出すと彼女の名前を知らないことを思い出した。
自分の名前を言っていないことも。
「まぁ、いっか。」
何も知らなくても、また会える気がした。

繋がる想いは。

自分でもなぜだかわからない。
なぜだかわからないけど、会いたくなったんだ。
勇敢なはりねずみの名前をつけられた黒猫と、 綺麗な髪をなびかせてふんわり笑う彼女に。
出会ったのは夜だった。だからいないかもしれない。
それでも、行けば会えると思った。
そんな根拠のない理由と、どこからともなく現れた感じたことのない感情が、
僕の足を動かしていた。
言うなれば、これは僕のだいぼうけんなのかもしれない。
いつもより、少し大股でずんずん歩くと、
すぐに海が見えた。
いつものように穏やかに僕を待っていた。
「やっぱりいないか…。」
呟いて、砂浜に座ろうとすると、
「あれ…?なんだこれ…?」
そこには、かわいらしい丸文字で、
あの日のあなたへ。
本の森で待ってます。
はりねずみの相棒より。
何かが繋がった気がした。

待ってたよ。

なぜだか走ってきてしまった。
見てる人なんて誰もいないのに。
初めて会った時から
きっとこの人とはまた会えるんだろうな
と思っていた。
夜だったから、顔も見えなかったし、
名前だって知らない。
わかっていることは、メガネをかけていたことと、ひとつの絵本が好きだったこと。
でも、なんとなくまた会いたいと思った。
また、会えるだろうなとも。
だから、あんな恥ずかしいメッセージも
書くことができたのだ。
まぁ、恥ずかしくて走って逃げてきたんだけど。
「来るわけないのに…。」
そう思いつつも、心のどこかで
「あの人なら来る。」
と思っている。
だからこそ、ここから動けないまま、
もう何時間も過ぎている。
海からいちばん近い図書館の絵本コーナー。
膝の上には「ビスケのだいぼうけん」が
乗っている。
何回も読んだからもう覚えているのに、
何度でも読みたくなる。
でも、さすがに今日はもう、
「帰ろうかな…。」
来るわけない人を待ちながら読む本は退屈だ。
本を戻して、立ち上がろうとしたそのとき、
「相棒さんですか?」
ヒーローの声が聞こえた。

やっと、出会えた。

「ふぇぇ!?」
「あっ、急に話しかけてすみません!!」
みごとに90度に頭を下げると、
彼女は、
「この前と反対ですね!」
と笑った。
「あ、あの時は僕がメガネを拾ってもらったんですよね。ありがとうございました。」
「ほんとにすいませんでした!!
落としてしまって…。」
「いえいえ。あれは僕が悪いので…。
あの、図書館なので声、落とした方が…。」
正直、さっきから周りの目が痛い。
「っ…!」
口元を押さえて、顔を赤くする彼女に、
「外、出ましょうか?」
人差し指を立てながら提案すると、
彼女の首がゆっくりと縦に動いた。

少し暖かい陽射しを感じながら、
入口近くのベンチに腰掛けると、
「ほんとにすみませんでした!!」
今度は彼女の腰が90度に曲がる。
その様子に、思わず笑みがこぼれる。
「どうしました?」
顔を上げた彼女が僕の顔をのぞきこむ。
「いや、僕たち謝ってばっかりだなぁって」
そう言うと、彼女も
「そういえば、そうですね。」
と、笑う。
「謝ってばっかりで自己紹介もまだですもんね。」
彼女が言ってようやく気づいた。
「あ、すみません。僕は、天音 蒼空(あまね そら)って言います。高校2年生です。」
「蒼空さんですか!いい名前ですね!
私は姫星 澪(ひめぼし みお)です。同じく高校2年生です」
「同い年ですか!ずっと年上の方だと思ってました。」
「私もです!やっぱり共通点多いですね~」
「ビスケだったり?猫好きだったり?」
「海が好きだったり?空が好きだったり!」
2人で言いあって、なぜだかおかしくなった。
ひとしきり笑うと、澪さんが、
「そろそろお昼じゃないですか?」
と言うので、時計を見ると
1時を回っていた。
「おっ、ほんとだ!お昼食べてきますね。
今日はありがとうございました!」
お礼を言って、立ち去ると
「蒼空さん!」
その声で名前を呼ばれることは初めてだった。
胸を震わせながら振り向くと、
「また、今度!」
かわいらしい笑顔で手を振られる。
「澪さん、また、今度!」
負けじとその名前を呼ぶ。
彼女の顔は見れなかったけど、
僕たちの何かが進んだ気がした。

ふたつの輝く宝物

あの日から、集合場所は図書館になった。
集合場所と言っても、待ち合わせするのではなく、お互いが暇なときに寄って、
たまたま会ったらベンチで会話をする程度だ。
それも、「今日はいい天気ですね。」とか、
「テストどうでしたか?」といった感じの
たわいない会話である。
そんなことを繰り返していたある日、
いつものように図書館へいくと、
澪さんが困ったような顔をしてカウンターに突っ立っていた。
「どうしたんですか?」
声をかけたそのとき、
「おねえちゃん、これよんでー!!」
みると、4歳ぐらいの小さな男の子が、
彼女の服の裾をひっぱっていた。
片方の手には、ビスケのだいぼうけんが。
「ごめんね、お姉ちゃんもう行かなきゃ…」
「よんで!!よんで!!」
男の子は、彼女の声などまったく聞こえてないみたいだ。
「どうしたんですか?」
もういちど力を込めて言うと、
「あっ、蒼空さん!実は…。」
澪さんの言葉をさえぎるように
「おねえちゃんね!このえほんもってたんだ!」
男の子が満面の笑みで言った。
「このとおり、絵本コーナーで絵本を見ていたら懐かれてしまって…。」
「ボク、それ、お兄ちゃんが読んでもいい?」
怖がらせないようにかがみながら聞くと、
「いいよ!」
キラキラした笑顔で頷いた男の子。
「私も、一緒に聞いていいですか?」
「えっ、用事があるんじゃないんですか?」
「もう、終わりました。あなたをベンチで待ちたかったんです。」
恥ずかしそうな彼女の笑顔は
太陽みたいにきらめいていた。

始まりの1歩

「はりねずみビスケのだいぼうけん!
はじまり、はじまり~!」
タイトルコールをするだけで、
手を叩いて大喜びする男の子。
澪さんも楽しそうだ。
僕も笑顔を浮かべながら読み進めていく。
「がおぉぉー!!」
ライオンの鳴きマネをすると、
「ふええ!!??」驚いて、
澪さんの後ろに隠れる。
泣くのかと思うとニコニコ笑ったり、
真剣な顔をしてるのかと思えば
ふわぁ~とあくびをしたり、
1秒1秒の反応が新鮮で
読んでるこっちも楽しくなってくる。
「めでたしめでたし~!」
ぱたんと本を閉じると
「めでたし…めでたし…。」
よっぽど眠かったのか、
男の子はそのままこてんと横になり
澪さんの膝の上ですやすやと眠ってしまった。
「あらあら…。ほんとに楽しかったんですね!」
みると、眠りながら笑っている。
「楽しんでくれてよかったです。
しばらく起きそうにないですね…。」
「無理やり起こしてもかわいそうなので
このまま寝かしておきましょうか。」
澪さんが男の子の髪の毛をなでながら
愛おしそうに微笑む。
「それにしても、蒼空さん
読み聞かせお上手ですね!」
「ありがとうございます。
児童館とか、たまに遊びに行くと、
この子みたいに「読め~!読め~!」って
うるさくて。」
照れくさくて、頭をかきながら言うと
「人気者なんですね。」
彼女が小さく笑う。
「いえ、断れないだけです。
なんつーか、笑顔に負けちゃうんですよね。」恥ずかしくて、ついはにかむ。
「わかります。私もこの子に笑顔で「よんで?」って言われたとき、思わず足、止まっちゃいましたもん。」
言いつつ、嬉しそうな顔をして。
すると、彼女の声に気づいたのか
「んっ~うっ?ふわぁ~
あれ、ぼく、ねてた?」
大きくあくびをして、男の子が起きあがった。
「おっ、起きたか。
ばっちり寝てたぞ。
そろそろお母さん心配するから、
はやく帰りな?」
ぽんぽんと頭に手を置くと、
「うん!わかった!
おにいちゃんとおねえちゃんの
おなまえ、なんていうの?」
「僕の名前は蒼空。」
「私の名前は澪だよ。ぼくは?」
「ぼくはね、ハル!
そらおにいちゃん、みおおねえちゃん
ありがとう!!またね!」
ハルは僕たちに手をふると、
なにもかもを忘れたように
図書館へと駆け出していった。
「元気だなぁ…。」
「なんていうか、まぶしいですよね。」
突如舞い降りた天使が
僕たちの中になにかあたたかいものを
残していった。
このとき、彼女がこういったのも
天使の眩しさに心を動かされたからかも
しれない。
「あの~、お願いがあるんですけど…。」
その瞬間、何かが変わる音がした。
「私にも本、読んでくれませんか?」
これが僕と彼女のスタートになる。

夜空に、素敵なお話を。

夜空に、素敵なお話を。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-15

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 出会いは、いつだって突然で。
  2. 蒼空と、「恋」
  3. 現れた少女は
  4. 想い出
  5. 共通点
  6. 繋がる想いは。
  7. 待ってたよ。
  8. やっと、出会えた。
  9. ふたつの輝く宝物
  10. 始まりの1歩