ENDLESS MYTH第2話ー28

Zin

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 人間?
 誰がどう見たところで姿は人間である。頭はスキンヘッドで鼻の上に口ひげが白く生えて整えられ、トーガに似た衣服を方から袈裟懸けに掛けて、長い裾を右手に持ち上げていた。
 光の柱の中にホルスマシンが無数に居並ぶ空間は、鋼鉄なのだろうか黒い黒曜石のような壁面で覆われ、天井も床あまりに広大すぎて見えず、ただホルスマシンが並ぶ壁面だけが見えていた。
 そこの中央に男は直立のまま浮遊していたのだ。
「人間・・・・・・」
 マリアが居なくなっていらい、無口なマキナ・アナズがポツネンを呟く。
 これに浮遊するスキンヘッド男本人がにこやかに、口を開いてはいるものの、動きと符合しない言葉で答えを返した。
「今は人間の姿を仮初めで借りていますが私は人間ではありません。便宜上、あなた方が話しやすい姿をしているだけなのです」
 声は声帯を震わせているのではなく、全方角から反響するように聞こえていた。
「最初の生命体とは、貴方は何者なのですか」
 黒人青年がショットガンをぶら下げたままに、スキンヘッドの顔を見上げる。
 男はニノラを見下ろしながらも、彼ではなく何処か別の場所を見ているような、遠い眼差しをしていた。
「ビッグバン。宇宙誕生の瞬間から遅れること5億年。最初の恒星が物質と数が溢れる暗闇の宇宙に産声を上げました。それからさらに10億年恒星系の誕生でした。我々はそこに誕生した最初の知的生命体、我々の言葉では“ペタヌー”と形容していました。地球言語で例えるならば“オリジナル・シード”と形容される存在なのです」
 飄々とスキンヘッドの男は言うが、宇宙誕生は現在から400億年も過去の出来事である。
「生命体種族のサイクルはそれほどに長くは持たないでしょう。地球の歴史上、恐竜が栄えていた時期に、まさか哺乳類が地上を支配すると、恐竜たち自身が予測しなかったように、地上とは常に生命体が循環する物と持論をもっているのですが、それほどの長きにわたって絶滅を免れてきたとは信じがたいですね」
 そう言い面長の顔の頬を指先で搔くのはファン・ロッペンである。
 恐竜が地球を支配した期間は約2億年である。地球への隕石衝突による絶滅が無ければ、恐竜は地球を支配していた。人類を含む哺乳類がそこから繁栄を迎え、人類が地球に誕生して200万年程度である。そうしたことを考慮するならば、ファンのいう意味での種が生存する期間としては、あまりに男のいう言葉は荒唐無稽に聞こえた。
 今度はファンに視線を落として、男の声が再び反響を示す。
「生命体とは貴方の言葉通り、常にサイクルがあるものです。誕生し、栄えては、滅び、また次の生命体へ命を繋げていくものなのです。ですが私たちペタヌーはそれを科学的に克服したのです。お産の成功率100%化。成長の急速化。老化の停止。加齢の停止。不死の技術、文明の繁栄。我々はあらゆる望みを科学力で叶えました。
 ですが文明の崩壊は免れなかったのです。地球上で恐竜が絶滅したように、先の繁栄を自然的要因から断ち切られました。デヴィルによって」
 声色は淡々と今まで通り、表情も変わらずペタヌーは、自分たちの種族の最期を語り始めた。
「文明を捨てる。最終的に生命体の進化の到達点とはそこになるのでしょう。文明とは肉体の呪縛によって成立するもの。つまり肉体があるからこそ生活という活動が生じます。それを補うのが文明であり、衣食住です。しかしながら我々ペタヌーは老化もなく死もありませんでした。従って文明で補う部分が半数に軽減されていったのです。そして最終的には肉体の放棄へと思想は発展していきました。
 戦争、紛争は不老不死となったところで終わりをみることはなく、それらの正体が生命体の内側にこびりついた欲望の象徴だと結論づけ、科学的肉体の放棄と精神的上位生命体への人工的なる進化を我々はめざし、成功したのです。文明を放棄した瞬間でした」
 言っている意味を理解できずにいるイラートがジェイミーを見るが、彼女も首を横に振り、理解できていない表情をする。
 ジェイミーは思考的援助をイ・ヴェンスに求めるも、巨体は硬直してやはり理解できてはいなかった。
 数名の離脱者を出しながらも、ペタヌーの物語は続く。
「精神生命体となったペタヌーは、意識体として空気中のあらゆる物質と結合することを可能としました。つまり望む姿、望む場所、望む物すべてが自らの手に収められるようになったのです。まさに進化の絶頂だとあの時は思い描いていました。ところが先ほども言った通り、自然的要因、つまりデヴィルの現出によって、ペタヌーは絶滅したのです。
 あれはなにも変わらぬ日でした。突如として現れた暗闇の意識体により、我々は殺害されたのです。意識生命体の死とは実にあっけないものです。デヴィルの意識体によって意識を消され、無、にされるのですから。完全なる消失です。そうしていったいどれだけの意識体が消滅したことでしょう。当時、宇宙全域に発展していた我々ペタヌーの意識体は、そのほとんどが消滅させられたのです。たった1つの意識体によって。
 我々ペタヌーは絶滅を目前にしながら、進化の最終段階を決意したのです。意識体の単体化とより上位生命体への進化です」

ENDLESS MYTH第2話ー29へ続く

ENDLESS MYTH第2話ー28

ENDLESS MYTH第2話ー28

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-15

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