第13話 隆乃介の過去

放課後。
希美子は資料閲覧室へと向かい、隆乃介と合流した。
適度に仕事を切り上げた隆乃介が希美子を待っていた。

「今は二人きりだから気にせずに話そう…まず、これ。」


隆乃介はICレコーダーを希美子に手渡した。
「これから俺の話すことをこれで録音してほしいんだ。きっと大きな手掛かりになるはずだから。」

希美子は訳も分からずに、ICレコーダーを受け取り録音ボタンを押した。


「俺は15年前に母親を交通事故で亡くした。」


録音の始まりのそれは、いきなり衝撃発言から始まった。

「それからは父親と暮らしていたんだけど、17歳の時にいなくなって親戚中をたらいまわしにされて、施設に入所することになった…」
「じょ、蒸発ってことですか…お父さん…」
「うん…まあそういうこと。そういうことがあってから家族とか、人とか信じられなくなって、いなくなりたい…とさえ思ったんだ。」

隆乃介はそのまま続けた。
「自分がいる意味なんて何もない…存在意義を見失ってずっと自分を責め続けた。」


なんとなく、希美子の頭の中で夢と繋がってきた気がした。

「それで…壁に頭を打ち付けるようになったんですか…?」
「うん…施設では刃物類は使わせないようにさせられてたから…」
「でも、どうして私が出てきたんですかね……だって私施設なんて行ったことないし…」


そう、希美子はごくごく平凡に育ってきた。
父も母も離婚なんてしていないし、そんな施設に行った覚えなどまるでなかった。


「覚えてるかな…その施設の隣に病院があったこと…」
「……病院……?」
「最近になって思い出したんだけど、希美子のお母さんかな、入院してなかった?12年前…。」


そういえば…。


12年前に希美子の母が流産し入院していたことがあったのを思い出した。

「あ……。」
「そう、そのお見舞いの時に迷い込んでうちの施設に入って俺と遭遇した…。」


「そんなことを話していなかったか?それも…覚えてない?希美子……。」
「……思い、出しました……。」
「あの時のことが夢で見た光景と一緒で、泣くことしかできなかった希美子、俺はそれを邪険にした……。」

隆乃介はさらに続ける。

「でもその涙のおかげで俺は我に返った、俺にもう一度生きようと思わせてくれた。
だから母の形見の、そのペンダントを渡した……もう一度巡り合えるように……。」


隆乃介の話で希美子の記憶がみるみるうちに蘇ってきた。
そうだ…あの時確かにペンダントをもらったのは柴田隆乃介…名前も一致している、そう名乗ってくれたことも。
我に返ってくれてやっと落ち着いて、自分に話してくれたことも、何もかも。


しかし、希美子にはまだ疑問があった。
「隆乃介さんの過去と夢の中の話が一致していることはわかりました…。
でも、夢の中でもらったかのようにある日突然ついてたんですよ?それはどう説明をつけるんですか?」

「それは専門的な知識が必要だから、俺の大学時代の信頼できる心理学と精神学をかじってるやつに分析してもらおうと思うんだ。」

そこで、隆乃介はICレコーダーの録音を切った。

「実はまだ連絡が取れなくて……かなりルーズな奴だから…少々困っててさ…。」
「そう、なんですか……。」
「でも俺も精神学と心理学はかじってるから、なんとなく…程度で分析すると…レム睡眠時に自分でつけたんじゃないかと思うんだ。」
「自分で?」
「そう、誰だってあるでしょ?眠ってる間に、自分の把握してない行動をとる…悪く言えば夢遊病のようなもんかな。」
「む、夢遊病!?」

希美子は驚く。自分が夢遊病ではないと思っているから。まぁそれもそうだろう。

「別に希美子を夢遊病だと言ってるわけじゃない。眠りの浅い時に取った行動かもしれないということ。」

軽く希美子の頭をなでる。


「言ったはずだよ?俺が守るって。それに偽りはないし、謎を解きたいと俺も思ってる。
「はぁ…。」

軽く頬を赤らめながら希美子は隆乃介を見つめた。

「こうやって引き合わせたのも、何か、運命的なものを感じるし……俺、本気だから……。」

そういって隆乃介は希美子のおでこにキスをした。

「……一緒に帰ろう?もう部活も終わり始めてる……。」

赤面したままこくりと頷く希美子であった。

第13話 隆乃介の過去

第13話 隆乃介の過去

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-04-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted