第12話 ひと時の幸せ。

「大好きだよ…希美子……俺が守るから…。」
「私も…大好きです…隆乃介さん……心から…。」



希美子は昨日の出来事が頭から離れなかった。


午前6時30分。
希美子はシャワーを浴びながら、昨日のことを思い出しながらペンダントを手に取り見つめている。


あの少年が隆乃介さんだったことは分かったけど…でもどうしてこれが?
なぜ、隆乃介さんは自分を責めていたの?
そしてなぜ…自分はそこにいたんだろうか…?


幼少時代に会ったのかもしれないが、全く記憶にない年頃のことだ。


かといって、両親に聞いても何のことやら?になりそうだし…ここは直接聞くしかないのかな…
でも……なんだろう……今めちゃくちゃ幸せ……。


悶々としつつも、幸せに浸ってると


「希美子ー!?いつまでシャワー浴びてるの!?」


母の声にはっと我に返り、浴室を出る。
リビングのTVではちょうど天気予報をやっていて今日は暑くなるという予報。

「今日は…暑くなるんだ……もう夏も近いのね…」

髪の毛を丁寧にふきながら鏡を見つめる希美子。
セミロングの髪の毛を丁寧にブローし、


今日は結んでみようかな…。

髪の毛を丁寧に左側に寄せ、一つに束ね、お団子にした。


「あら、いいじゃない。」
「今日は暑くなるって天気予報で言ってたから…」
「ふーん、そう…なんかいいことでもあったの?」
「えっ…なんで?」
「顔に書いてあるもの。昨日よりずっといい顔してる…てかキレイになったわよねー。彼氏でもできた?」

母がいたずらっぽく言う。

思いっきり頭を振って
「ないないないっ!!だって土日は家にずーっといたし……そそ、後輩に頼まれてた作詞も、してたんだもの。
そそ、そうよ、それができたからじゃないかなー…あっはは…」

赤面しながら希美子は母に言い訳をして


「じ、じゃぁ、いってきますっ!!」

と逃げるように家を出た。



「あ、佐伯先輩ー、おはようございますー!」

登校途中、声をかけてきたのは後輩の橘瑠佳(たちばなるか)だった。
入学してから、軽音部を自分で立ち上げやっとメンバーが揃って、今度の体育祭の余興で披露するんだそうで、
その曲の作詞を希美子に依頼していた、中学からの後輩だ。


「あ、おはよ、瑠佳ちゃん。頼まれてた作詞のやつ、やっとできたから、お昼休みにでも持っていくね。」
「あぁー!!ありがとうございます!!…あれ、先輩…なんかいつもと雰囲気違いません?」
「えっ…そそそ、そうかな……」



「大好きだよ…希美子……俺が守るから…。」
「私も…大好きです…隆乃介さん……心から…。」


また頭によぎった。

「そぉーんな、ことないよぉー……」
隠すのがものすごく下手で正直な希美子だった。

「あ、わかりました。」
「えっ」

ドキッとする希美子。

「髪型、変えたんですねー、素敵ですぅー。」

こちらも鈍感な後輩、瑠佳であった。
「あ、あぁー、そそっ今日は暑くあるからって天気予報で言ってたから……」
「いいですよねー髪の毛長いしきれいで。私なんて天パーだからショートにしかできないですもん……」
「そ、そんな……瑠佳ちゃんだって伸ばせばいいのに…」
「先生に目をつけられちゃいます……卒業するまではショートで我慢しないと…あ、メンバーの子がいるんでっ!失礼しますっ!!」


そういって瑠佳は走り去っていった。


「いいなぁー…若いって。」
ぽつりとつぶやく。

「俺より若いのにそんなこと言う?」
後方から声がした。隆乃介だった。


「隆乃……せ、先生!?」
「ギリギリセーフだったね。学校では『先生』で。俺も学校では『佐伯』って呼ぶから。」
ふっとさわやかな笑顔で隆乃介は言った、続けて

「二人の時は名前で呼んでいいから……」

耳元で囁く。

赤面する希美子に隆乃介のマシンガントークは止まらなかった。

「今日髪型変えたんだ、似合ってる。とっても…。」

隆乃介もなんだか嬉しそうな表情で希美子を見つめて言った。

「昼休みか、放課後、ちょっと時間ある?」
「昼休みは…後輩に頼まれたことがあってちょっと無理ですけど…放課後なら。」
「んじゃあ、放課後に資料閲覧室に来て。話したいことがある……二人っきりで。」
「あ、は、はい…わかりました…。」
「OK、じゃ、職員会議あるから先行くね、またあとでっ!」

隆乃介は走り去っていった。


心臓の音が早くなっている……でも本来はいけないんだよね…先生を好きになるだなんて。


そう思いつつ、今の幸せを噛みしめ、校門をくぐる希美子だった。


昼休み。
希美子は薫を伴って瑠佳のいる第二音楽室にいた。
第二音楽室は吹奏楽部でも使わない、音楽関連の倉庫…いや墓場と言ったほうが正しいかもしれない。

そんな中で瑠佳たち軽音楽部のメンバーは一生懸命掃除した結果、一応部室らしくなっている。

メンバーとご飯を食べながら、作詞した紙を瑠佳に渡し、メンバーにも見せる。

希美子はメンバー用にも、と、パソコンを使って作詞していた。
本をただ読むだけでなく、自作でも小説、エッセイなど思ったことをたくさんブログなどで書いている。


「さすが、佐伯先輩っ!!めっちゃいいですっ!!」

瑠佳が大絶賛する。ほかのメンバーも同じく絶賛し、
早く食べ終わった副部長の長内政宗(おさないまさむね)はそれに合わせてギターで作曲し始める。


すごい…私の書いた詩が……形になっている……。

「最初はこんな進行になるんすけど…先輩はどんな感じのテイストがいいと思いました?」
政宗が聞いてきた。

正直、そこまで考えてなかった希美子だが…

「んん……そうねぇ……体育祭で披露するんなら、祭りっぽく仕上げたら?」
「祭り?!っすか!?」
「希美子…軽く暴走モード…入ってるし。」

薫が遮ろうとすると、瑠佳がそれをさらに遮った。

「でも確かに体育祭っていうくらいだから『祭り』ですよねっ♪良いと思います。これで作ってみようよ、みんなっ!」

軽音部一同に気合が入った瞬間だった。



「軽く暴走してたけど…まぁいい方向に行ったみたいでよかったじゃん。」薫が言った。
「うん…まぁ、あとは瑠佳ちゃんたち次第だよ。どんな曲になるのか、楽しみだな~♪」

「希美子…あんた、この週末、なんかあったでしょ?」
「えっ、別に何も……」

ちょっと口ごもる。

「なんか金曜日までの雰囲気と全然違うもん…なんかいいことあったんでしょ~教えなさいよぉ~」
「なんもないってばぁ…」


キーンコーンカーンコーン。

「ほらチャイム鳴ってるよ。戻ろ?」
希美子がごまかしながら促す。
薫はいぶかしげにそれに従い教室へと戻っていった。


「絶対……なぁんかあるわな……。」

第12話 ひと時の幸せ。

第12話 ひと時の幸せ。

  • 小説
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  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-04-29

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