無題

無題

窓の向こうを眺め

微睡み夢をみる


彼方には雲に代わって、美しい言葉が漂っていた



それは、あまりにも気宇壮大すぎて

美しく、慌てて私は窓を閉じ、カーテンを閉じた


胸の高鳴りは地響きとなり


とともすれば人の噂話が囁かれ


閉じられた窓越しにそれは響いてくる


というのは噂は天使が降りたらしい


滑稽なラッパが鳴りだした


降臨の合図のため

高邁(こうまい)した天使みずからラッパを鳴らしたのだろうと想像し


私は吹き出して笑ってしまった


人々は太鼓をうち鳴らし舞踏する


地響きする


また、胸が高鳴る


どのような光景なのか、再びカーテンをはけ、窓を開ける


窓枠に肘をのせ、頬杖をつきながら彼方を眺めていたら


頬に冷たいものが触れて


ふと、気づく


なぜか、私は涙を流していた


すると、天使のもっとも側近にいた光がかった長髪を靡かせた

色白の美しい少女が此方に気がついて


不憫そうに私をじっと眺めた


彼女はなにも声にださなかったが、心でこう言った


「貴方も此方においで、ここはとても良いところよ」



私は彼女に、気がつかれぬよう小さな会釈をし、

そして、窓を閉じた。



戦争がはじまった。



閉じられた窓の向こうから、砲撃の音が鳴り響く


私は独り暗い部屋の中で目を閉じ、考えた



きっと、真っ先に犠牲になったのはあの美しい少女だろう


そう呟きながら、冥福を祈った



胸のポケットに花がないかと探してみたが、

空っぽでなにもなかった


胸が張り裂けそうになった



夏の終わり、蝉が一斉に泣き止むかのよう辺りは閑散となった


戦争は終わった


再び窓をあけた


無惨に散った瓦礫の山々


そこにポツンと

少女の亡骸のうえに


大きな鏡がうちたてられた


墓碑には「私はあなた、あなたは私」と書かれてある


風にのって、無念そうに死者が叫んでいる


知らずに私も同調していた



漂う言葉の雲のなかから、一つ異彩を放つ言葉が漂っていた



「幸福と不幸は紙一重」



無題

無題

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-11

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