【二次創作】【魔法少女まどかマギカ】まどかを救うことにした 12(6600字)

マミは目を覚ました。
いつもと同じ朝。
けれどなぜか今日は、無性に皆に会いたかった。
杖をついて歩くのももどかしく、学校に向かう。
「おはよー、マミさん。」
「おはよーっ!」
先に教室にいたまどかとさやかが、マミに挨拶する。
「おはよう。鹿目さん、美樹さん。」
「はよーっす。」
その声に皆が入り口の方を向く。杏子だった。
杏子がそんな挨拶をするのはめずらしかったのだが、何故か違和感は無かった。
マミと目が合い、お互いに頭を下げる。
・・何かこうもっとわだかまりがあったはずだったのだが・・
マミはとらえどころのない何かを追うのをあきらめた。
つかつかとほむらが教室に入ってくる。
「おはよう、ほむらちゃん。」
「おはよう、まどか。」
マミには、急にほむらが強くなったように見えた。
違和感も感じ・・それはほむらがまどかを呼び捨てにしていたのが原因だったのだが・・
やはり、とらえどころはなかった。
誰もが少しずつ変わっていて何とはなしの違和感を感じてはいたけれど、
それはあまりにささいですぐに忘れ去られ、
今の状態を普通に思うより他は無かった。


****


その数日後、マミとほむらが体育を見学していると、杏子がふらりと近づいてきて言った。
「あんたら暇じゃない?私と少し体を動かそうよ。」
唐突な申し出にマミとほむらが顔を見合わせていると
「私の将来の夢は、障害者や高齢者専門のスポーツトレーナーになることなんだ。
  だってそうだろ。健康な奴は駅の階段でも上り下りしてりゃいいんだよ。
  障害者や高齢者にこそ科学的な運動が必要だと思うんだ。
  そのために今から勉強しているってわけ。
  ・・だからあんたらが私につきあってくれると嬉しいんだけど・・嫌かい?」
「やるわ。」
ほむらが立ち上がった。
「私も・・」
マミも続く。
「よし、じゃまず腕を上にあげて・・」
そうしてしばらく体を動かした後。
「・・ねぇ、これってもしかして・・ラジオ体操?」
「そうだよ。今頃気づいたの?」
ほむらの問いに、杏子は事も無げに応えた。
「あらためてやると大変なもんだろ?」

次の日から、杏子は無期限の停学となった。

マミは職員室に向かった。
職員室の入り口でほむらとすれ違う。
担任に、杏子が停学となった訳を尋ねる。
「詳しいことは言えないのだけれど・・」
そう担任は前置きし、杏子の家庭の事情が原因だと告げた。
全く納得ができなかった。
マミは杏子に連絡し、その日の放課後に杏子の家に向かった。

「よう!」
マミは、思ったよりも元気そうな杏子を見てほっとした。
「こんにちは、佐倉さん。」
そこにはほむらもいた。
「停学のことだろ?」
杏子の問いにマミはうなずく。
「なんかウチの親父のことが、誰かの気に障ったらしくてさ・・まぁ、とりあえず親父に会ってみてくれよ。」
杏子はマミとほむらに言った。

「待っていました。」
杏子の父親は言った。そして、マミとほむらの目を見て
「あなたたちとの出会いに、心から感謝しています。」
と言った。
2人は顔を見合わす。訳が解らなかった。
「ああ、すみません・・訳が解らないですよね。・・実は私も、訳が解らないのです。」
父親は困った顔をして首をかしげた。
「ほんの少し前まで、私と杏子の未来は暗く閉ざされていました。何の救いもなかった・・
  けれど急に、この何日かの間に全てが解決していたのです。・・本当に訳が解らない。」
2人は顔を見合わす。そんな2人を見て、杏子の父親は何度かうなずいた後に言った。
「・・訳は解りませんが、こうなった理由ははっきりしています。
  ・・あなたたちです。あなたたちが、私たちを救った。それは間違いない。」
「えっと・・」
「?」
2人に覚えはなかった。
「・・と、こんな感じで信者を増やしていくわけです。」
杏子の父親はいたずらっぽく笑った。
「それはさておき、杏子と仲良くしてやって下さい。あれは私の宗教とは関係がないので。」
杏子の父親は深々と頭を下げると、部屋から出て行った。
「・・その、・・何かごめんな。ちょっと変な奴でさ。」
そう言って、杏子が頭をかく。
確かに驚いたのは事実だったが・・
マミの意志・・杏子の父親に関する誤解を解き、杏子の停学を解く・・は変わらなかった。
娘が問答無用で学校を停学にさせられるような、そんなに人間には見えなかった。

マミは家に帰ると、さっそく夏木に電話をした。
「・・もしもし。」
「もしもし。・・私の友達のことで、どうしても、お願いしたいことがあるの。」
「どんな?」
マミはこれまでのいきさつを話した。
「難しいな。それなりの権力がある奴が話を通したに違いない。」
「多分。・・でも、会ってもらえれば、そんな人じゃないことは解るから。」
「・・で、その誰かにも話を通すんだな。」
「・・お願い。これはとても大事なことなの。私にとっても、その娘にとっても。」
沈黙が流れる。
「・・解った。できる限りはやってみる。」
淡々と夏木は言った。そして
「お前にお願いされたのは初めてだな。・・何、遠慮することはない。」
と続けた。
「来週には・・」
言いかけ夏木をさえぎり、マミは
「今すぐ会って欲しいの。」
と言った。
「何?今ムンバイにいるんだぞ。本気か?」
「今日が無理なら明日でも。できるだけ早く、お願い。」
「・・・・」
夏木はしばらく黙っていたが
「わかった。明日会おう。」
と言い、
「だが、お前にもお願いを聞いてもらう。それでいいな。」
と続けた。
「・・うん。」
マミはうなずいた。
「確かに聞いたぞ。」
電話が切れる。
今まで見たことはなかったが、夏木のニヤつく顔が目に浮かんだ。

次の日、夏木とマミが杏子の家につくと、家の前に黒塗りの車が止まっていた。
そして先客も。
杏子に案内された部屋で、杏子の父親と話しているのは
ほむらと・・あれは写真でしか見たことがなかったが、ほむらの父親だった。
冒険家のインディージョーンズ。
「あれは・・」
夏木はマミを廊下に連れ出すと、部屋にいたのは誰かとマミに尋ねた。
「奥にいたのが佐倉さんと、そのパパ。手前にいたのが暁美さんと、そのパパ。」
「そうか・・。」
「・・どうかしたの?」
夏木が冷静さを欠いているように見え、マミは尋ねた。
「・・暁美さんのパパは、ツバサホールディングスのCEO だ。・・社長が尊敬していた方の一人だ。」
ツバサホールディングス。マミも聞いたことがあった。
医療、バイオ、環境技術、ロボット等を幅広く手がける、国内でも有数の企業グループだ。
「なぜ彼がこんなところに・・」
マミは少し考え、言った。
「佐倉さんと暁美さんは友達なの。私と2人も。」
「・・そうか。」

じわじわと時間が過ぎる。
いったんは落ち着きを取り戻した夏木が、再びそわそわし始める。
・・30分が過ぎ、ほむらと、ほむらの父親が出てきた。
「君も佐倉杏子さんの件で?」
ほむらの父親は夏木に尋ねる。
「はい。」
夏木がかしこまって答える。
「・・今回のことは私のミスだ。佐倉杏子さんの父親の宗教について悪い噂を聞いて、
  理事会に注意を促したんだが・・必要以上に大ごとになってしまった。
  ・・たった今、そのことについて2人に謝罪したところだ。
  君にも迷惑をかけたな。申し訳ない。杏子さんは明日から学校に行けるようになる。」
「いえ・・私には、謝られる覚えなどありません。」
しかし、と夏木は続けた。
「あなたほどの人の言葉がどれだけの重みを持つか、考えていただきたい。
  時には誰かの人生を狂わせることもある。」
ほむらの父親は神妙な面持ちで言う
「本当に・・今回改めてそれを実感した。」
だが、と言葉を続け
「私には力があり、それは世界を良くするためのものだ。私は力を使うことを恐れない。」
とはっきり言った。

ほむらの父親は帰り、夏木と杏子の父親は少し話した。

その話の中で、ほむらの父親と杏子の父親が意気投合し、
ほむらの父親がカンボジアに設立予定だったNPOのリーダーとして、
杏子の父親が働くことになったと知った。

帰りの車の中で夏木が言う。
「ツバサホールディングスのCEO はどんな商談でも3分でまとめることで有名なんだ。」
「そうなの?」
「国を売り買いするときでも、戦争を始めるときでも3分で決断するだろうって言われている。」
「・・・・」
「それを30分も話し込むなんて、・・佐倉さんのパパは一体何者なんだ?」
夏木はマミの話を聞いた時に、何か感じるものがあった。
会社の将来にプラスになるのではないかという予感。
それは当たったが、結果的には完全に出し抜かれてしまった。
「夏木さんでも落ち込むことがあるのね。」
「・・別に。今回は負けたが次は勝つ。」
「・・勝ちとか負けとか関係なくない?」
マミはため息をつく。
強ばった表情の夏木を見て思い出し、尋ねる。
「・・ところで、夏木さんのお願いって何?」


****


その1週間後。
さやかが4人に声をかけた。
「ねぇ、みんなでカラオケ行かない。」
いつもと様子が違ったが、みんなうなずいた。
「実は恭介にふられちゃってさー、なんか騒ぎたい気分なんだよね。」
さやかはあっけらかんと言う。
「さやかちゃん・・」
泣きそうな顔でまどかが言う。
「あー、やめてよそういうの。それ私が昨日やったからさ。今日は騒ごう。ね。」
さやかの言葉にまどかがうなずく。
悲しい出来事があったにもかかわらず・・・・あったからか。
カラオケは想像以上に盛り上がった。
・・そもそも5人が一緒に何かをするのはこれが初めてだったのだが、
皆がそれに気づかないぐらい、何の違和感も無かった。
昔からの友達のようだった。


****


その1ヶ月後。
「少しでいいからお金を貸して欲しい。」
父親の親戚を名乗る、中年の男はそう言った。
確か、葬式で会った気がした。
事業が行き詰まっており、当座の資金が必要だということだった。

マミは夏木に相談をした。
「あの人の会社が、民事再生法の適用を受けられるようにしてほしい。」
夏木は渋い顔をした。
「どこでそんな言葉覚えてきたんだ?」
「学校で習ったの。」
「・・じゃあ知ってるだろ。あれは借金をチャラにする法律じゃない。
  経営者が心を入れ替えて会社を建て直す必要がある。
  あいつにそれができると思うか。」
マミはすこし考えた。
パパならこんなとき、どう言うだろう。
「・・やりもしないのに、できるかできないかはわからない。」
夏木はさらに渋い顔をした。
「・・確かにな。」
しばらく考えていたが
「・・解った。やってみる。その代わり、お前も協力しろ。」
と言った。

数日後、マミは親戚の娘に会いに行った。
「あなた、お父さんのこと、どう思っているの?」
マミの問いに
「・・あなたところにお金を借りにいったって聞きました。・・恥ずかしいです。」
娘は答える。
「何が恥ずかしいの?」
「何がって・・」
「家族や従業員のためにお金を借りることの何が恥ずかしいの?」
「・・父はダメな経営者です。」
「だれでも失敗はする。あなたは失敗しないの?」
「・・・・」
「経営に行き詰まって自殺する人もいる。それでもいいの?」
「・・・・」
「お父さんのこと、支えてあげて。悪いようにはしないから。」
「・・解りました。」

マミは事のあらましを夏木に説明した。ほぼ夏木の描いたシナリオ通りだった。
「半分成功したようなもんだ。持つべきものは父親思いの娘だな。」
夏木は言った。


****


2ヶ月後、期末試験の結果が発表された。
杏子は1位
まどかは真ん中より少し上
ほむらが真ん中まで一気に順位を伸ばした。
さやかとマミも、最下位グループからは脱出した。

4人の勉強会に杏子が加わり、
杏子がさやかとマミを教え、
まどかとほむらがお互いに教え合う形に変わった。

「杏子、大丈夫なの?」
さやかが杏子に聞く。
特待生でいるためには、それなりの成績が必要だった。
「へーきだって。やばくなったら止めるし。それより・・」
まどかのことは皆が心配していた。
まどかの成績が落ちたのは、みんなの勉強を見ていたせいかもしれない。
・・それ以上に、特に理由もないのに自分を低く見るようなところがあった。


****


ある日のこと。
「まどかはすごいわ。わたしがここまで勉強できるようになったのはまどかのおかげ。」
勉強会でほむらが言った。
「さやかとマミもすぐに追いつく。」
2人は内心びくっとしたが、できないとは言えなかった。
杏子とほむらが、さやかとマミの勉強を見るようになった。


****


ある日のこと。
「なんでこんなことが解らないの?」
「教えてもらってるのに悪いけど、なんでこんな式が出てくるのかが解らない。」
ほむらとさやかはよく言い争っていて、
お互い譲らず険悪な空気になることもあったが、その日は違った。
「・・逆行列の性質は知ってる?」
横で見ていた杏子が、さやかに聞いた。
「知らない。逆行列って何?」
ほむらが驚く。しばらく考えてからさやかに言った。
「・・それだとこの問題は難しすぎる。・・この問題を選んだ私のミス。ごめんなさい。」
「え・・いや、何で謝るの?」
「あなたに酷いことを言ってしまった。」
ほむらは杏子に頭を下げる。
「・・いやいや、謝るところじゃないって。・・つか私こそ逆ギレしてごめん・・。」
それから、言い争いの回数が少し減った。


****


ある日のこと。
「まどかはさ、こう、何か1つ自分が好きなスポーツを見つけたら、
  自分に自信が持てるようになると思うんだよね。」
杏子がまどかにそう言った。
そしてまどかと一緒に運動部を体験入部して回った。
見滝原中学が、中途半端な時期の入退部に寛容なのも幸いした。
ソフトボール、サッカー、バスケ、バレー・・・
「球技はきついかもなぁ・・好きならいいんだけど・・」
「うん・・」
陸上、水泳、自転車・・
「最初つらいけど、そこ乗り越えると楽しいんだけどなー・・」
「うん・・」
剣道、弓道・・
弓を素引きするまどかの姿に、杏子は何かを感じた。
「なんかいい感じじゃん。」
杏子もとなりで弓を引いていたが、明かにまどかのほうが筋が良かった。
・・失礼な話だが杏子は、まどかに運動で負けるものなど何1つ無いと思っていたので驚いた。
「佐倉さんもいいけど、鹿目さんは・・とても初めてとは思えないわ。」
弓道部の部員も口々にまどかを褒めた。
「私も・・何かしっくりくる感じがする。」
次の日から、まどかは弓道部員になった。


****


ある日のこと。
マミと夏木はディズニーランドにいた。
「変なお願いじゃなくて良かった。」
「するか。」
「なんか意外。」
マミは小さく笑う。あの夏木がディズニーランド?
「・・前から来たかったんだ。」
夏木はぶっきらぼうに答える。
夏木とマミの父親は、自分たちでも驚くほど意見が合わなかった。
が、いくつかのことについては、その場でがっちり握手するぐらい意見が合った。
「ミッキーはどこだ?」
「?」
「ミッキーと写真を撮る。」
「ええっ!」
なんて発想。普段の夏木からは想像もできなかった。
でもそういえば、マミの父親もそんなことを言っていた気がする。
確か、『幸せな家族って、ミッキーと家族写真を撮る家族だと思う。』とか何とか。
「・・しょうがないわね、パパは。ミッキーは・・っと。」
夏木が固まっていた。
「か、勘違いしないでよね。ほんとのパパはパパで・・夏木さんは2番目なんだから。」
夏木が不適に笑う。
「俺だってお前は2番目の娘だ。」
「なんかずるい。」
「当たり前だ。」
2人はミッキーの耳を買い、ミッキーと写真を撮った。


****


そんな感じの5人の毎日は続いていく。

【二次創作】【魔法少女まどかマギカ】まどかを救うことにした 12(6600字)

【二次創作】【魔法少女まどかマギカ】まどかを救うことにした 12(6600字)

5人のそれから。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-29

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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