天井鮫
天井からサメが生えている。
噂には聞いていたが、見るのは初めてだ。
死刑執行のための、特別なサメ。
冤罪で逮捕され、死刑判決が出たのが5年前。
この5年間、いつ呼び出しがかかるかと怯えながら過ごしてきた。
それは前触れなく突然やってきた。
看守の足音が自分の部屋の前で止まり、「出ろ」と一言命じた。
覚悟はできていたつもりだった。
本当にその時が来ると、膝が震え、動悸は激しくなった。
天井からは生えているサメは二匹。
ホホジロザメだろうか。サメの中で最も危険な種類だ。
看守が出て行くと、二匹のサメは牙をむき出しにして襲いかかってきた。
両腕は後ろで縛られ、動かすことはできないが、両足は自由が聞いた。
私は逃げ回った。
だが二匹のサメは少しづつ部屋の隅に私を追い詰めた。
二匹のサメは大口を開け、同時に襲いかかってきた。
私が諦めかけたその瞬間、鉄と鉄がぶつかり合うような、奇妙な音が響いた。
目を開くと、二匹のサメはお互いを睨みあっていた。
そして互いが互いの胴体に噛み付いた。
共食い。
二匹は大渦のように荒れ狂い、部屋にはサメの血が飛び散った。
私はその場でうずくまることしかできなかった。
呆然としていると、看守が戻ってきた。
「どうしたんだこれは」
サメはお互いの牙で二匹とも死んでいた。
生き残っていたのは死刑囚である私だけだった。
過去、絞首刑が失敗した場合は、執行済みとして釈放されたらしい。
私はどうなるのだろうか。
天井鮫