ENDLESS MYTH第2話ー25

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 目映い光が視界を白く潰す。何も見えず、何も感じられなくなり、不意に足下が抜ける感覚に陥ったメシアは、慌て横のジェフの身体にしがみつこうと、手を伸ばした。けれども横に人の感触はなく、周囲に人の気配がまったく無くなってしまったことに気づき、自分がまた不可思議な現象に襲われているのでは? と不安の指先が心に忍び寄った。
 とその時、彼の不安な気持ちを落ち着かせるように、肩に手がそっと置かせる感覚があった。
「眼を開けられても大丈夫ですよ」
 力任せに閉じていた瞼をゆっくりと、声に促されるままにメシア・クライストは開く。脚の裏に気かつくと地面の感触と重力の感覚が戻っていた。
 あまりに瞼を強く閉じたせいで視界が一瞬ぼやけていて、自分の肩に手をあてがった人物の顔を見ることが叶わなかった。が、次第に視界がクリアになるに連れ、その手の人物の顔が人間でないことを認識した。
 折れ曲がった小さい嘴とまん丸く広がった瞳、顔から爪先までびっしりと覆う羽毛。だが二足歩行で歩き、四肢は人間のそれに類似している。けれどもどうみても人間ではなく、二足歩行する2メートルを超える人型の鳥、鳥人間と形容するのがもっとも適切な生命体が、人間の言葉を嘴から発して、彼の肩に柔らかい羽毛に覆われた手を乗せていたのである。
「・・・・・・」
 さすがに言葉という概念をなくし、頭を真っ白にしてしまったメシア。
 それを笑うかのように丸い眼を急激に細くして、鳥人間は嘴を動かす。
「貴方とあまりに形が違うので驚かれているでしょうが、安心してください。わたしは貴方を食べたりなどしませんよ」
 腕を退け、ケタケタと梟のように笑う鳥人間。
 これに呆然としているメシアは、鳥人間の背後で複数の笑い声がこだまするのを耳にして、初めてそこが広大なる空間の一部であることに、視野が向いた。
 先は見えない。ただ機械的な音ばかりが歪みとなって空間内を包んでいた。先が見えないせいもあり、暗闇なのはステーション内部となんら変わりはなかった。
 違いはその足下にある。彼が立つ鋼鉄の床は、よく見ると20メートルほどの巨大な機械的円盤型となっており、前後左右上下に同様の円盤が複数、空間の中に浮遊しており、その上にも人影が複数人見え、それらの人影が鳥人間の声に笑い声を発していたのだ。
 が、人影と言っても、鳥人間と同じかそれ以上に奇っ怪な見た目をしたものばかりが、揃っていた。
 人型だがウエストが腕ほどの細さしかなく、四肢が以上に長い人物は、全身を金属の鱗で覆われていた。
 頭だけの人物もメシアには見えた。巨大なマシュマロのような色をしており、鼻はなく、眼が4つ、口はない頭部からは頭と同系色の触手が5本伸び、どういった原理か中空に浮遊しながら止まっていた。
 また球状のガラスのような浮遊物体内部に黄色い液体に満たされた、醜い肉の塊のような、生命体なのかすら分からないものや、虫の如く細長い角張った間接を所持し、8本の四肢で肉体を支え、カタカタと言葉なのか喉の奥で何かを擦り鳴らすような音を立てるもの、円盤内部に止まらず、翼を大きく羽ばたかせ、空中を常に滑空する細長い生命体、身長が人間の平均よりも明白に小さく、50センチほどの緑色をしたタコのような生物など、ステーション内でメシアを襲ったデヴィルズチルドレンと遜色のない、異形の生命体が溢れていた。
 と再び彼の肩に背後から手が乗せられた。
 全身の毛が逆立つような思いで振り返ると、神父を含め、命を共にしてきた銘々が顔をそろえていた。
「心配は要りません。彼らが待ち望んでいた援軍です」
 微笑みかける神父の顔には、ステーションでは見られなかった、ホッとしたような気持ちが出ていた。
「援軍って、俺にはステーションの化け物と変わりのないように見えるが」
 と、堂々とイラート・ガハノフは平然と援軍を前に口走って、まじまじと周囲を興味深げに見渡すのだった。
「失礼でしょ!」
 姉が弟の肩を叩き、自分たちを救いに来た者への無礼を、弟の変わりに頭を下げて詫びた。
「無理もありません。地球人類は未だ、地球外の生命体との接触がなされていないのですから」
 鳥人間はまた梟のように微笑みをエリザベスへ返すのだった。
「地球外と言いますと、我々から見て、あなた方は宇宙人、ということになるわけですか?」
 前に進み出ててきたのは、ファン・ロッペンの面長な顔である。
 鳥人間の前に立ち、まじまじと鳥人間の、地球人であり得ない大きさの眼を見つめて、興味をもった口調で尋ねた。
「そうなりますね。地球人が未だ、接触していない宇宙人。我々はその連合軍といったところでしょうか」
 丁寧に鳥人間はファンの問いに答えた。
「ここでお話するのもなんですので、移動しながらお話しましょう」
 と、鳥人間が言った矢先、複数浮遊する円盤が一斉に水平方向へと移動を開始したのであった。
 暗闇の中を進むため、どちらの方向へ向かっているのかも分からず、また最初の微動の震動だけで、あとは移動している感覚すらも、メシアたちには感じられなかった。
 ただしばらく円盤が進むと、遠くの方から青い光が少しずつ近づいてくるのが見えたが、すぐさま猛スピードで青い傾向ライトで形成されたような巨大トンネル内部をくぐり抜け、円盤の群れは移動を続ける。
「ここは建物の中ってことなのか?」
 筋肉質のイ・ヴェンスの身体は、緊張のせいか、疲労感のせいなのか、筋肉を硬直させながら鳥人間に尋ねる。
 鳥人間はまん丸い眼を瞬間的な首の移動で、鳥らしくイ・ヴェンスを見つめて、問いかけに穏やかな声色で答えた。
「建造物という意味では表現としては正確ですが、内部構造は亜空間フィールドを形成しておりますので、三次元レベルでの認知は不可能かと思われます」
 一行のほとんどが何を言っているのか鳥人間の言葉の意味を解釈できずにいた。
 これを神父が噛み砕いて若者たちに説明する。
「外側は10メートルの建造物だとしても、内部はそれ以上に広大に感じられる、別の空間になっているということです」
 そう言われたところで、実感はまるで感じられなかった。
 ただ若者たちの実感としては、時折、円盤の群れが通り過ぎる蛍光色のトンネル介し、辛うじて高速で移送している実感を得ることができていた。
 と、誰もが唖然とする中、鳥人間の顔は急激に深刻さを増したように、真顔へと変貌した。
「事態は我々が思う以上に深刻です。『MYTH・WARS』は我々の知る歴史とは異なってきているのかも知れません」
 これを聞いた未来人、マックス・ディンガーは眉間を狭め、新人兵士ベアルド・ブルは動揺の戸惑いを顔に波紋として広げた。
 歴史は残忍さをより一層深める結果となっていた。

 ENDLESS MYTH第2話ー26へ続く

ENDLESS MYTH第2話ー25

ENDLESS MYTH第2話ー25

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-11

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