ミルクティーよりも。

ミルクティー、一番好きな飲み物。

 ミルクティー、一番好きな飲み物。
苦手な飲み物、コーヒー。これは私の好み。
 コーヒーが一番好きでミルクティーが苦手。
これは、彼の好み。

私と彼

 私と彼は一緒に暮らして5年は経つ。
付き合って7年。飲み物の好みは未だに似ることはなかった。
「舞、おはよう。」
珍しく彼が早起きしていた。いつもぐうたら寝て、仕事に遅刻するよと起こすのが日課のようになっていた。
「今日、仕事間に合うね。」
すると急にしゅんとして俯いた。
「えっ、どうしたの?」
「舞、実はさ俺・・・・・・今度の仕事、責任者になったんだ」
「もしかしてそれって、昇格?!」
「まあ、そういうこと。」
満面の笑み。
「ばか!びっくりしたわ!あほ!」

出会いは

 そもそも彼との出会いは高校に通ったことではじまった。
私は高校に行く気なんてなかった。とりあえず卒業できればいい、と楽観的にすごしていた。
ある時、学校の部活見学に行く時に出会ったのが彼だった。
中学ではサッカーをやってたんだ。今年こそなんかやろうかなーっておもってさ。
そう話しかけてきた。いまとなれば謎だけど、流れで連絡先を交換した。
結局私達は部活をはじめなかった。
初恋もまだだった私はそんな彼と連絡をとったり遊んだりするうちに、胸がきゅんとしていった。
そうして恋をしていき、なにも言えず半年。
帰り、やはりきまずい。先に帰ろうとした時にあらわれてしまうもんだから
走ってしまった。逃げたくなった。
そもそも年上じゃん、彼は。と。
  
 しかし元サッカー部だということを忘れていたため、すぐ追いつかれた。
後ろから腕を引っ張られ、抵抗しようと試みた瞬間・・・・・・私と彼の体はくっついていた。

「逃げんなよ。好きなやつに逃げられたら困るんだよ」

 この言葉が付き合うきっかけ。
私は高校1年、彼は2年。
 彼は3年になってから高校を退学した。
そこから鳶職をはじめた。
私が卒業してから暮らし始めた。


 飲み物の好みが逆なのは暮らすまで知らなかった。
朝は弱く、寝顔はどこか憎めなかった。
そんな彼が私は好きでしかたなかった。

仕事帰り

 私は彼の昇格祝いにケーキを焼こうと決めた。
今までは買ってたけど。おいしくできたらいいな。
「じゃあ、俺は仕事いってくる。いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
手を握るのが精一杯だった。


 材料を買いにスーパーへ。
いちごかな?チーズケーキかな?迷い続けて一時間半の末、
いちごのショートケーキを作ることにした。
仕事頑張ってるかな、今日もお弁当おいしいっていってくれるかな、
すきなもの入ってるんだけどな。


 そんなこと考え帰宅。さあ、作るぞ!
といい、黙々とはじめた。もちろん、夕飯までに全部完璧にしてみせますから。
 そして完成。あとは帰りを待つのみ。
クラッカーまで用意してある。まだかな、と待ち構えてた時。
一本の電話がきた。




  「舞さん?」

遅い好み

 彼が冷たくなっていた。

 ねえ、ケーキ初めて焼いたんだよ。
食べてよ。
今日お弁当おいしかった?
好きなものたくさんあったの気づいてくれた?
クラッカーも用意したんだよ、帰ってきたらびっくりさせたかったのに。
昇格したんでしょ?私すっごくうれしかった。

 「木材が落ちてきて、うつらうつらと君の名前を呼んでいた」
想像がつく。彼が、私の名前を呼ぶ。

 「舞・・・・・・。」

 ねえそんな声じゃ嫌だ。ちゃんと呼んでよ。

 その日は冷たい彼と対面するだけにした。
意味のない空間。一人で食べるには多い夕飯とケーキ。
ミルクティーとコーヒー。

 流しにミルクティーを捨て、コーヒーを自棄になったかのように飲み干した。
コーヒー、おいしいね。苦いけど。




   私の好きな飲み物、コーヒー。苦手な飲み物、ミルクティー。
  遅れてごめんね。もっと早くに好みが一致すればよかったよね。

ミルクティーよりも。

ミルクティーよりも。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-11

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  1. ミルクティー、一番好きな飲み物。
  2. 私と彼
  3. 出会いは
  4. 仕事帰り
  5. 遅い好み