【二次創作】【魔法少女まどかマギカ】まどかを救うことにした 10(4400字)

しばらくすると、入れ替わるように杏子がやってきた。
「何しょぼくれてんだよ。」
「・・・・」
「気にすんなよ。過ぎちまったものはしょうがないだろ。」
「・・私が・・あなたを殺したの?」
マミは、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「違う。」
杏子は即答した。
「あのころ親父は自分の信じていてた宗教に疑問を持ち始めていて・・
  それまでまともだった宗教が急におかしくなったっていうか・・
  ただでさえ信者は減っていくのに、残った信者に教義とは違う、
  親父が信じることを伝えたもんだから・・
  まぁ、親父は正しかったと思うけど、それが上手くいってなかったんだ。」
杏子の言葉にマミはうなずく。
「私はあんたとほむらに酷いことを言ったよ。だから停学になるのは当たり前だし、
  親父の宗教のことを考えれば、退学になるのも当然。だけど、親父はそれでまいっちゃったんだな。
  『信者も家族も幸せにできない。』って自殺した。私も・・」
杏子は少し躊躇した後に
「私も、灯油をかぶって、自分に火を付けた。」
と言った。
「そりゃ、その時はちょっとは、あんたのせいだって思ったけど・・今考えるとやっぱり、違う。」
「そう、なの?」
マミには、あまり違うようには思えなかった。
「つかさ、あんたがそのことで悩んでるんじゃないかと思ってわざわざ言いにきたんだけど、
  来て良かったよ。下手したら一生もんの傷を残すところだった。ほんと良かった。」
「・・ありがとう。」
マミは深々と頭を下げた。
「いいって。・・ていうか、ごめんな。ひどいこと言って。」
杏子は最後のほうは早口でいうと、部屋から出て行った。


****


次に来たのは、ハチべえだった。
長い間ハチべえと話し、マミは自分もまどかを助けに行くことに決めた。


****


そして、ほむらが来た。
「私は・・ハチべえの言っている事がよく解らない。」
そう、切り出した。
「私がなぜここにいるのか、解らない・・・・。美樹さんには随分と疎まれていたし、
  佐倉さんを退学させたのは私の父。私の父は、夏木さんとも仕事でいろいろあったみたいだし。
  私が罪を犯したというなら、私だけをどうにかすればいい。あなたたちがいる理由なんてない。」
「その話、2人にはした?」
ほむらは首を横に振る。
「なぜ、私に?」
「・・解らない。・・話しやすかった・・からだと思う。」
マミは少し考え、
「そういえば私たち、元の世界でいっぱいおしゃべりしたよね。」
と言った。
ほむらがうなずく。
「魔法少女としては、ずいぶんいがみ合ったけれども。」
マミがいたずらっぽく言うと
「あれは・・まどかを助けるために・・」
ほむらは怒ったような、あせったような口調で言った。
「別に責めているわけじゃないの。私は私で、自分のことしか考えられなかったし。」
マミはそう答える。

ほむらはしばらく考えていたが、
「やっぱり、みんなに謝ったほうがいいのかな・・」
と言った。
「何を?」
「みんながここにいること・・それと・・」
長いためらいの時間
「まどかを助けにいくこと。本当なら私がやらなければならないのに。・・でも1人では勝てない。
  ・・私は、皆を巻き込んでいる。
  ・・多分杏子は私が行くと言ったから、ついてきてくれる。さやかは杏子が行くから行く。
  ・・それなのに私は、杏子やさやかを犠牲にしても、まどかを助けたいと思ってる。」
ほむらはうつむいた。
「暁美さん。」
「・・・・」
「謝る必要はないと思う。・・みんなそれぞれの理由でここにいるし、
  それぞれの理由でまどかを助けたいんだと思うから。」
「・・・・。」
「こういうときは謝るんじゃなくて・・」
マミはほむらの手を取り、言う。
「みんなのところに行きましょう。それで言うの。『ありがとう』って。」
ほむらは少し驚いていたが、やがてゆっくりとうなずいた。


****


ほむらが来る前の、ハチべえとマミの会話。

「君にも、君がなぜ第9世界に送りこまれたか、理由を話しておこうと思ってね。」
ハチべえは言う。
「美樹さんや佐倉さんには?」
「もう話した・・その様子だと、うすうす解っているようだね。」
「・・解ったから、来たんでしょ。」
「そう。僕たちLIB は、自殺した人間を助け、
  その精神が現実に耐えられるように第9世界という仕組みを使い、
  元の世界に生き返らせることを、主な活動内容としている。」
「なぜそんなことを?」
「人を助けるのに理由はいらない!・・って言いたいところだけど、実は僕たちの研究のためなんだ。」
ハチべえは申し訳なさそうに言う。
「知的生命体のほとんどは、感情的になりすぎるか、合理的になりすぎるかして滅びていく。
  運良く生き残った種もそのどちらかで・・バランスを保ったまま進化することができるかということが、
  僕たちの最大の関心なんだ。その研究の一部がこれってわけ。」
「なるほど、ね。」
「君たちには申し訳ないことをしたと思っている。」
「・・何が?」
「君たちの意志を無視して、勝手に生き返らせ、第9世界に送ったことを。」
「そんな・・」
少なくとも今は、そのことに対して文句はなかった。
「死ぬよりも酷い事なんていくらでもある。第9世界での出来事も、これからの人生も。」
「・・だけど、止めないんでしょ。」
「・・その通り。僕たちは進み続ける。」
ハチべえが言い淀んだ気がした。
「どうかしたの?」
「・・・・」
「鹿目さんのこと?あれは事故だったんでしょ?・・」
鹿目まどか。少しも自殺なんてするようには見えなかったけど、彼女にも何か事情があったのだろうか。
第8世界でのまどか。彼女が3人を結びつけた。
第9世界でのまどか。・・さっきみんなが言っていた通りだ。彼女が皆の心を救った。
そこまで考えて、マミはある結論にたどり着いた。
「まさか・・」
考えれば考えるほど、それは妥当な結論に思える。
「ハチべえ、鹿目さんは・・」
「そうだ。鹿目まどかに自殺する事情なんかない。
  僕たちは、君たち4人を救うためだけに鹿目まどかを第9世界に送ったんだ。」
マミの頭を衝撃が駆け抜けた。言葉を発することができなかった。
「ずっと昔、僕たちは自殺する人間を救うために、
  第9世界に”理想的なパートナー”の人工知能を用意した。
  それは第9世界ではうまく機能したけど、第8世界に戻った人間の多くは再び死を選んだ。
  理由は簡単。第8世界に理想的なパートナーなんていないからだ。」
「それで、鹿目さんが・・・・。」
「そう。今回はそれに加え、暁美ほむらが時間を繰り返し・・
  暁美ほむらが精神的に強くなればなるほど、それに影響されて、
  鹿目まどかはどんどん弱くなっていた。・・これを見て。」
壁にモニターが現れる。
今より大人・・高校生ぐらいの・・しかし、確かにまどかがいた。
暗い顔で授業を受けているが、心ここにあらずなのは明らかだった。
「僕たちの宇宙船航行システムを応用した、未来予測映像だよ。」
ハチべえが説明する。右下に”13%”という数字が見えた。
場面が切り替わる。雪山。そうとうに吹雪いている。
普段着とほとんど変わらないまどかが小さなリュックを背負い、思い詰めた表情で山を登っていく。
「これは・・」
「真冬の北アルプス。軽装なんてものじゃない。登山計画書も出してないし、地図も食料も持ってない。」
「・・・・。」
吹雪の中にまどかが消え、画像は途切れた。”9%”。
「あらゆることを想定した中での9%だから、かなり可能性が高い。」
マミには、何をどう言えばいいのかわからなかった。
ハチべえを責める?だが、もともとは自分たちが引き起こしたことなのだ。

「全ての人間は救えず、死ぬはずでない人間が死ぬ。・・これが僕たちの限界だ。」
「・・まどかのこと、みんなは知ってるの?」
「杏子は随分前から気づいていたみたいだね。さやかとほむらは今も知らない。」
「・・できれば教えないで。」
「僕は教えることができない。君が自分で気づいたんだ。」
「・・こんな未来、変えてみせる。絶対に。」
「・・よろしく頼む。」
ハチべえは部屋を出る。


****


ハチべえは誰もいない廊下をひたひたと歩いていた。
完全に規約違反の示唆をした。が、誰も気がつかなかった。
空間にモニターを出現させる。そこに写っているのは30歳ぐらいの女性、元・魔法少女。
大きな会社の会議室で、役員達を前にプレゼンテーションをしていた。
今より老けてはいるが、まどかの母親もいた。
「・・その販売予測は楽観的すぎるのではないかね?」
「いえ、この程度ならば必ず達成できます。」
”彼女”は、自信に満ちた声で答えた。

場面はオフィスに切り替わる。
「この資料は何?まったく使い物にならないわ?あなたは何年この仕事をしているの?」
部下を大声で叱りつけている。
周囲に白々とした空気が流れるが、彼女はおかまいなしだった。

さらに、会議室。
「これはいったいどういうことかね。」
「・・申し訳ありません。」
彼女は悔しさを押さえられない声で、そうつぶやく。
「この責任はどう取ってくれる?鹿目君。」
「・・すべて私の責任です。今後の対応については後日、報告させていただきます。」
まどかの母親はそう言って頭を下げた。
「そんな!これは私の責任で・・」
言いかけた彼女の言葉は
「君に取れる責任など無い!学校で何を勉強してきたか知らないが、これが組織というものだ。」
役員の言葉で遮られた。

ビルの屋上。
まどかの母親と彼女。まどかの母親はタバコに火を付け言う。
「今回のことはあんたの責任じゃない。あんたを止められなかった私の責任だ。あいつらの言う通りだよ。」
「でも!」
「あの計画だって、成功する確率は0じゃないと思ったから進めたんだ。」
「・・・・」
「次はきっとある。その時は、なんで今回失敗したかをよく考えるんだ。」
まどかの母親は、タバコの灰をおとしながらつぶやく。
「私はもう、疲れたよ・・」

まどかの母親の葬式。
遺書
『・・
私ははこれまで仕事でたくさんの失敗をしてきた。
だから、私が死ぬことと、プロジェクトの失敗とは何の関係もない。
・・』

その数日後
彼女はビルの屋上から飛び降りた。

”27%"

10年以上先の27%は、"ほぼ確定した未来"だった。
救いがあるとすれば、この確率が、
彼女だけ第9世界に帰ると仮定した場合の値であること。

「・・どうか、よろしく・・」
ハチべえは、誰とも無くつぶやいた。

【二次創作】【魔法少女まどかマギカ】まどかを救うことにした 10(4400字)

【二次創作】【魔法少女まどかマギカ】まどかを救うことにした 10(4400字)

杏子の過去。第9世界の真実。誰かの未来。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-29

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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