焔の剣Ⅶ
閃戦祭②
閃戦祭も、いよいよ準決勝。
レオがミラの件でぶっ壊れたりしたが、それはアスモデウスと2人でなだめることができた。
「どしたの?悩んでるみたいだけど。」
隣では、レオがクラッシュした原因であるミラベル・ラフォンさんが、こちらを気にかけてきた。
この幼馴染も、王族に娶られるかもしれない。そんな複雑な思いを噛みしめていると
「準決勝1回戦、勝者、リーズ・ラ・フォルジュ!!」
闘技場から、審判の威勢のいい声が聞こえた。その直後、大歓声が沸き起こった。
「リーズ?聞いたことない名前だけど・・・。」
閃戦祭の準決勝に残ることは、それだけで凄いことだ。しかも勝ったということは、既に準優勝は確実ということになる。
「エルは試合見ないからね。今回で初出場、しかも14歳の女の子なんだって。」
14歳、ということはオレと同じ、最年少の筈だ。
「同年代か・・・この大会でオレと同じ年のやつと今まで会ったことなかったな。」
この大会は名勝負もたくさん生まれるが、血生臭いドロドロとした試合もあるため、14歳という年での参加はまず聞かない。
そのうえに、女の子ときた。これには少し、興味がでた。
しかし今は、興味がでた、に留めておこう。なんせ次は
「準決勝2回戦、エルネスト・ベネジェート対ボニファーツ・グラーツ!!」
オレの楽しみだった対戦が、ようやく始まるのだから。
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「・・・・・とうとう来ちまったか・・・・・この時が・・・。」
闘技場に行くなり、ボニファーツから心底イヤだ、という顔をされた。
「ま、いいじゃん。どうせいつかは当たるんだし。」
「分かってるんだよ、そんなことは。でも、イヤなもんはイヤだ。」
背丈は2メートルを超えるであろう巨漢から、何とも情けない発言をするものである。
「でもお前、なんやかんやでオレに勝つつもりなんだろ?」
流石にオレも、勝つことを諦めているような奴との対戦は楽しみにしない。相手がどれだけ親密であろうと。
当然、ボニファーツは違う。情けない発言をしておきながら
「おう!!当たり前だろうが。今年こそ俺が最強だ!!」
この心構えなのだ。実力も申し分ない。これだから、楽しみなのだ。
「準決勝2回戦・・・・・」
審判の合図が聞こえる。オレとボニファーツはお互いにゆっくりと離れていく。そして
「はじめ!!!」
合図と同時、お互いに相手目掛けて走って行った。
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自分の試合が終わった。今は、もう1方の準決勝を見ている。
「アレが・・・・・エルネスト・ベネジェート・・・・・。」
私の視線は、準決勝に出場している少年に向けられている。
「あの体格差があるのに、魔法じゃなくて肉弾戦なんだ・・・・・フーン。」
私の試合は、残すは決勝戦のみとなっている。あと1試合を除いて、他の全ての試合を既に終えている。
試合の感想は、つまらないの一言だった。あっという間に終わってしまう。殺しても罪にならないと聞いたから参加したのに、
今まで誰1人と殺せていないのだ。
しかし
「あの2人、両方殺されることを怖がってない・・・違う、それ以上に楽しんでいる。」
正直、今すぐあそこに乱入したいが、それでは人を殺しても無罪という恩恵を受けられない。
「アァ、どちらでもいいから、早く殺させて、ねぇ、早く・・・・・。」
体が熱い。頬からも熱っぽい感覚がする。周りから見れば、ひどくだらしのない顔をしているのだろう。
しかし、どうしても口元の歪みを抑えることができなかった。
「早く、殺させて・・・・・血も、表情も、骨も、内臓も、全部見てあげるから・・・・・♪」
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「フンッ!!」
「っつ!!」
お互い殴りに行ったため、腕が肘の所で絡まった。しかし、ボニファーツに振り抜かれた途端、オレの体が後ろに跳んだ。
「このっ、バカ力め・・・!!」
「それが俺の取り柄だよ、バカ野郎!!!」
そう言って、ボニファーツは背中に背負っていた斧の抜いた。
それを躊躇なしに、こちらに振り降ろしてくる。
後ろに避け、今度はこちらも剣を抜く。
続くボニファーツの攻撃は、剣で力を流して受け止める。
それでも掌がひどく痺れるのが、奴のすごいところだ。
ボニファーツの長所は、全身に纏った筋肉の鎧が示す通り、凄まじいまでの筋力だ。
攻撃はもちろんのこと、防御も固いという優れ物で、1撃いい攻撃が入ったところで、致命傷になることはほとんどないのだ。
「ふっ!」
今度は剣で受け流すのではなく、思い切り振り抜いた。
いきなりの反撃に、向こうも驚いたのだろう。攻撃の手が一瞬緩んだ。
その隙を見逃さず、斧の刃に滑らせて、相手の左腕を浅く切った。
それが終わると、お互い軽く距離を取る。
先に攻撃が入ったのはこちらだが、あの程度の傷ならば、ボニファーツなら気にも留めないだろう。
対してこちらは、斧と衝突したときの衝撃が、まだ両手に残っている。できることなら、もう5秒待って欲しいところだが、
現実そう甘くはない。
「ムンッ!!」
ボニファーツの斧が、横薙ぎにして襲ってきた。その場で上体を反らして避けたが、直撃すればすぐに救護班の出番だった筈だ。
それが間に合うかどうかは、分からないが。
斧が地面に落ちる音がする。前を見ると、ボニファーツがこちらに向かって突っ込んできた。
こちらはまだ、上体を反らした体勢を元に戻している最中だ。
ボニファーツの大きな拳が、オレの顔面を捉えた。捉えた、筈だった。
「っつ、がぁ!!!」
オレはあえて、左手を突き出し、ボニファーツのパンチに当てた。
当然、当てただけで勢いも無いうえ、左肩がきれいに外れた感覚もした。
左腕は、使えなくなった。しかし、それでも何とか踏み止まった。
ボニファーツは、ここで仕留めるつもりで来たのだろう。勢い余って、体がまだ泳いでいる。
オレはそれを見逃さず、相手の頭が下がっているところに、すぐに顔面に蹴りを入れる。
この1撃は効いたようで、ボニファーツはたたらを踏んだ。
そして、続けて打った右アッパーも直撃し、倒れそうになるが、ボニファーツもここは耐えた。
ここでオレが首筋に剣を沿えてやる。ボニファーツは残念そうな笑顔を浮かべて
「・・・・・降参だ。」
こうして、準決勝2回戦目の勝者は、エルネスト・ベネジェートとなった。
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闘技場から出ると、1人の少女に声を掛けられた。
年はオレと同じくらいで、水色の髪をしている。
服装は暗めの色を基調とした地味な服だが、ロングスカートにはチャイナドレスのようなスリットが入っている。
見た目は、どこにでもいるような普通の少女だ。
しかし、オレは見た途端に正体が分かってしまった。
次のオレの対戦相手、この大会での最後の相手、リーズ・ラ・フォルジュだということに。
「もう、私が誰か分かるのね・・・?」
声も、ごく普通の少女が持つ高い声だ。
しかし、口調は明らかに違う。何か歓喜に震えているような、そんな口調だった。
そして、そこらの殺人鬼の殺気をより強く、粘っこくしたような独特の雰囲気が、何か危険だと本能が訴えてくる。
「・・・・・悪いが、試合は肩の治療が終わった後だ。それまで何もするなよ、殺人鬼。」
そう吐き捨てて、ミラのところへ向かう。
「ええ、待つわよ・・・・・キミの体も、隅々まで味わってあげるからね・・・♪」
背後で、物騒なセリフが聞こえた。
これが比喩的な表現だとは、決して思わなかった。
焔の剣Ⅶ
次で終わります。