最愛の妻へ
まだ魔女狩りがあった頃のドイツを元にしています。
魔女狩りの犠牲者となった妻を想う、とある男の手紙(遺書)
最愛の妻へ
すまない。
私はとうとうお前の無実を晴らしてやることが出来なかった。
許してくれとは言わないが、せめてこの気持ちだけは受け取って欲しいと思い、この手紙を書いている。
思えばお前が連れて行かれてから、もう一年が過ぎる。
娘も今年で16歳になり、つい先日隣町の農家へ嫁いだ。
私は未だにお前が魔女だとは思えないんだ。
偶然その場に居合わせただけなんだろう?
あの日、お前が「布とパンを買ってくる」と言った時に、私も一緒に行っていたら……。
少しでも無実の証言が出来たかもしれなかった。
何も知らないのは、私も同じなのだ。
だがただ一つ、これだけは言える。
お前は魔女なんかにはなれない。
魔女はもっと悪徳で、そして残酷だ。
お前とは似ても似つかないし、何よりお前はそんな人ではない。
友人に「しかしお前さんは魔女の女房を持って、苦労もんだなぁ…。さっさと自白して死刑になってくれりゃあこんな苦労も無くて済むのに、とんだ疫病神だぜ。いいか?女は変わるんだよ、それこそ魔女のようにな。」なんて嫌味を聞かされたんだ。
それでも私はお前と一緒になって、後悔したことは一度もないと神の前で言い切れる自信がある。
もし許されるのなら、もう一度お前に会いたい。
会って話がしたい。
話しながら笑い合いたい。
笑いながらお茶を飲みたい。
神よ、私はこんなにも祈っているのに……。
何故お救いくださらないのですか?
それは私の我侭なのでしょうか?
一瞬でもいい、愛した人をこの腕に抱きたい。
今はただそれだけです。
明日、お前が処刑される午後1時に、私も一緒に死のう。
お前が焔に喰われるのなら、私は水面に呑まれよう。
さようなら。
私の最愛の妻よ。
最愛の妻へ
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