ENDLESS MYTH第2話ー24

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 銃声が3回、火花を散らしながら製造区画の金属に囲まれた広大な空間に、乾いた音を響かせた。
 弾丸が橋の先頭に立ち、大腸を引きずりながら、その腹部からゼリー状の物体を垂れ流し、それらが複数の眼で表面が覆われ、瞬きしていた。
 そうした成人男性に見た目は似ている化け物めがけ、ベアルド・ブルが弾丸を発射したのであった。
 3発とも、男の頭部に命中し、出血も見られ、男の頭部は衝撃で首が折れ曲がってしまうほどであった。ところが人間の皮など必要ないかの如く、男の脚はゆっくりと、一行の方へ向きつつ、内蔵を引きずり、目玉だらけの物体を排出し続けるのだった。
 無意味なことは新人兵士も理解できていた。ただ、万が一にも効果があることを願い射撃したのであった。
「意味を成さない行為に時間を費やしている暇はあるのですか?」
 面長のファン・ロッペンが冷静に兵士に尋ねる。
 と、巫女が不意に片腕を払いのけた。まるで目の前にある不要な物を祓うように。
 すると光源としていた光球が突如、それまでに無かった眩む光を放射するなり、橋の真ん中で爆発を引き起こしたのである。
 一瞬の閃光に眼を覆っていた手を一行が取った時、黒煙が橋の付近で黒く立ちこめ、橋が完全に破壊されていたのが見て取れた。
 脅威は去った。
 自然と若者たちの顔に笑みが浮上してくる。が、それも途中までのこと。彼らの眼前で脅威は復活した。
 太い2本のパイプの間を通っていた橋の直下は、深い谷ほどもある溝になっていたのだが、そこに落下したデビルズチルドレンが、這い上がってきたのである。
 腕を無くし、肉体を半分失ってまでも尚、操られるがままに人間たちは溝を這い上り、一行へと這いずって向かってくるのであった。
「あれって、ステーションの中に居た人々だよな」
 おののき、身体が金縛りとなっているジェフへ、ニノラが尋ねた。
 それがどうなのか最初は分からなかったジェフも、ある人影にニノラの質問が的を射ている事実を認識した。
 バイトで知り合った喫茶店で働く女の子が、這いずる化け物の中に居た。見た目は大きく身体が腫れ上がり、女性なのか男性なのかすらも判別できない、醜い姿をしていたが、腕に入れている蝶のタトゥーに見覚えがあったのである。
「人間を餌とするだけじゃ満足しないぜ、あいつ等は」
 と、ベアルドが銃に効力が無いと理解しながらも、銃口を化け物の群れへ向けたままに、彼らへと呟いた。
 新人ながら彼は理解していた。自分が相手にしているモノがどれほどの脅威なのかを。
 その時、眼前ではなく周囲の暗がりから無数の物音が迫ってくるのを、全員の耳が確認した。敵は眼前だけではない、周囲にも存在する。
 誰もが自分たちは獣の檻に入れられた餌なのだと実感していた。
「上の区画への出入り口はどちらにありますか?」
 神父は冷静にジェフに質問を投げかける。
 だがまったくの畑違いの場所へやってきたジェフに、ここからの道案内は不可能であった。だからジェフは横に首を振り、自らの意思を示した。
 するとベアルドが自分たちが入ってきた出入り口の付近に見取り図が貼られていることに気づき、走り寄って指先を見取り図に当てながら自分たちが居るところと上階へ登る方法を瞬時に見極める。
「向こうに非常用の階段があります。それで上の階層へ登れるはずです」
 神父は頷き、ベアルドの指が指し示す方角へ全員を促す。
「もう嫌、もう嫌」
 甲高いジェイミーの声が聞こえてくる。
 もはや誰にもジェイミーを注意する気力はない。体力も心の均等も崩れる寸前まで彼らは追い込まれていた。
 分厚いハッチを手動で開き、非常用の階段へ彼らは駆け込んだ。
 分厚い鋼鉄の壁で外界の様子を知ることはできない。しかも暗闇であり、目が慣れては来ているが、ほとんど手探りの状態で彼らは必死に階段を駆け上がっていく。
「上の階まではどのぐらいかかるんだ?」
 暗がりで辛うじて隣に居るのがジェフなのに気づき、メシアが問いかける。
「分からない。この建造物全体が巨大な工場になってるからな。上の階層にはだいぶ登る必要があるはずだ」
 これには背後を登る少年っぽい例の声が悲鳴に近い声を発した。
「いいえ、その必要はないようです」
 前の方で足音を止めたのは、神父だった。
「どうやら援軍が到着したようです」
 と、神父が喋った刹那、全員の眼前が白い輝きに包まれた。

ENDLESS MYTH第2話-25へ続く

ENDLESS MYTH第2話ー24

ENDLESS MYTH第2話ー24

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-10

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