昼餉(弁当、御握り、イモサラダetc)
入社した頃は、同期の女の子ときゃっきゃ言いながらランチタイムを楽しめると思っていたが、ある一言がきっかけでぼくの昼休みは昼餉となりかわった。
「なかたつさん、一緒にご飯食べましょうよ」
と文字にすれば、まるで嬉しいお誘いに見えるが、50歳前後と思われる年齢不詳の男性係長からのお誘い。もちろん断れるはずもなく、そのお誘い、というより、その御誘い以降は狭い休憩室で一緒にお弁当を食べている。お弁当、いや、御弁当と言っても、業者に注文して配達される給食のような御弁当で、ライス小盛で360円。一度ライス普通盛380円を食べたけれど、違いがわからなかった。係長はぼくが配属される前からずっとこの御弁当を食べ続けているそうだ。700~800kcalほどの御弁当だが、係長はおよそ10分以内に食べ終わり、ぼくは30分ほど時間をかけて食べている。10分で食べ終えたら、残り50分の昼休みをどう過ごしていいかわからない。ただ、昼餉へとなりかわったランチタイムがぼくにもたらしたのは、よくわからない人脈だった。どこぞの所長さん、うちの課長もいれば、となりの主任やとなりのとなりのとなりの課長さんとか。そのおかげで大分仕事がやりやすくなったし、困った時はお互いにお願いごとをし合える関係が築けた。係長は新人のぼくに対する配慮で昼餉へと御誘い下さった、多分。今日も明日も明後日も来週も再来週も来月も来年も360円弁当。ただ、係長はこの係に来て5年目。来年度でもう異動になるという噂もある。憧れの係長に少しでも近づくため、明日も360円弁当を食べようか。正直もう飽きてるんだけど、そんなことは大したことない。ましてや、きゃっきゃするようなランチタイムなんて、クソ喰らえだね。
「なかたつさん、今日は御弁当どうしますかね」
「あ、はい、ぼくも、注文します!」
昼餉(弁当、御握り、イモサラダetc)
初出:即興ゴルコンダ