今日になって。

「待ちわびて、歩く、進む、止まり、見上げる」
という歌詞が頭の中でぐるぐるする片手に
きみからの連絡
「先生、自分の我儘を直したいです」
「我儘?」
一時間前に締めた飲み会が再会される
「待ちわびて、歩く、進む、止まり、見上げる」
駅前のベンチに座って一服する片手ではないもう片方の手に
なかなか言葉にできない時間が流れる
スマフォの画面に神経が注がれ
「感覚の束」なんて哲学用語はこのことかと勘違いしてみるが
そんなことは今思いついた冗談
ついつい年上らしさを出して自分の話を推しつけたことを反省して
聞き役になってみる
なんとか言葉を産み出し合う
男も生殖できるんだなあって
これもまた今思いついたこと
だから、あの時は神経が全て画面に注がれていたから
情報はそこから入っていたものだけだ
「待ちわびて、歩く、進む、曲がる、止まり、見上げる」
ぼくのこだわりとして寝る時は暖色の光で部屋を染めないといけないのだが
その前にきみは自ら寝てしまった
そもそも思い出してみようか
きみの相談を
「先生、自分の我儘を直したいです」
「つまり、直せません」
とも言えずに、応援してます
直したらきみはきみでなくなるから
今日連絡が来なくたって全く寂しくはない
「待ちわびて、歩く、進む、曲がる、止まり、見上げる」

今日になって。

初出:即興ゴルコンダ

今日になって。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted