みあたらない

キャビネットを越えたところにある
きみの光彩を探している
わ、ら、い、ご、え、つまり、
笑い声だけが夕暮れの後で聞こえてくるばかり
気が緩んだぼくは背中が丸まっているだろうから背筋を伸ばして歩くようにしている
それに目線を合わせない訓練(布団を汚さないように細い足で立っている訓練ではない)をしているから
プリンターから打ち出された用紙を眺める
何が書かれているか、印刷する前からわかってはいるけれど

     光彩を拡大すると
     現れてくる
     砂漠
     空気に触れて
     折り目がついている
     日が落ちても
     夕暮れ時のままで
     あかく、あかく
     終には
     真っ赤、真っ赤

(それ、私服だよね)
(そうかな、行きすぎてたら止めてね)

白と黒だったか、紺だったかのボーダー色の服を
きみはもう着てこないのだろうか
それを確かめたくないから
プリンターから打ち出される用紙を眺める
無駄のない動きでプリンターまで取りに行くけど
やっぱり、何が書かれているかはわかっている

(上司の独り言についつい頷いちゃうんだ)
(あ、なんか、頷いているところ見たことあるよ)
きみは目線を合わせない訓練を命じられていないかどうか
それを確かめるために
きみの光彩を探している
という訓練をしているんだ

(いま一番行きたい都道府県は?)
(あれ、どこだっけ。広島かな)
(違うよ、鳥取に行きたいって言ってたじゃん)
(よく覚えてるね)

     近いはずの声が
             遠ざかる
     鳥取砂丘は
  ぼくの 目  の中に
     既にある
    波を、波を、波を
     立てて
     きみの光彩を


探している

みあたらない

初出:即興ゴルコンダ

みあたらない

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-10

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