諸君!
趣味で「現代詩手帖」なり
授業の発表のために「四季」や「詩と詩論」なり
雑誌の旧巻は大学図書館の地下二階までエレベーターで降りなくてはいけない
携帯電話の電波が入らず
ひっそりとした空間に積まれた雑誌の山々
仮設されたような足場を踏むたび
ぎしぎし、ぎしぎしと音が鳴るから
今日も誰かしらいるのだとわかる
一度だけきみの姿を見かけて
何の用で来たのか尋ねたら
「授業で川上弘美の作品を扱うから」と答えた気がする
「俺は読んだことないなあ」
なんて無難な回答をして別れを告げたけど
結局その後どうなったのかは聞かなかった
正直関心がなかったんだと思う
特に文学部の学生や院生がここに立ち寄ることは知っていたから
旧巻を探しに来ることを名目にしてはいけないと肝に銘じながらも
変わりゆくきみを探してしまった気がする
そういえばいつだったか
「四季」だか「詩と詩論」の旧巻を探していた時に
「諸君!」なんていう雑誌の旧巻がずらっと並んでいて
物珍しいものだから
ひっそりとした空間で
カシャッ
という物音を恥にも思わずに鳴らして
SNSに投稿したんだけど
きみは見てくれただろうか
あの時、大学図書館の地下二階にいたという僕の存在を
諸君!
初出:即興ゴルコンダ