きこえる

初めての職場に配属されたというのに
周りの同期は年下ばかりで
きみもその数多くいる年下の中のひとりでしかないはず
数ヶ月前に言われてハッとした言葉も
日々が移ろいゆく中で色あせて
早半年
老人に対して季節を問う人の隣にぼくは座っているだけ
肌寒くなったことを感じることはできるけれど
夜には鈴虫の声にカエルの声が混じるから
やっぱり季節は四つじゃなくて
土用もいれて五つ必要なんだと
そんな理屈をきみは受け入れないだろう
そういえば何人かのうちのひとりでしかない年下の同期から
伊香保温泉に行かないかと誘われた
多分きみが仕掛けたのだろう
十二月頃に行くとか行かないとか
その頃だともう紅葉は見られないだろう
むしろ枯葉ばかりになった石段街で
木の葉が風に揺られる音も出ない
そういえば
カエデとモミジって何が違うのかな
スピッツが歌っているのがカエデってことしか
ぼくにはわからないんだけど
ねえ、きこえる?

きこえる

初出:即興ゴルコンダ

きこえる

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-10

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