星合

川面は歩けないから
縒れた足で壁にもたれて歩く
もうね、疲れたからね
でも、ありがとう
ありがとうも言えないんだけどね

濡れた地面の上で
微々たる摩擦係数の誤差を感じられるほど
ぼくの足は優秀じゃない
いっそのこと
ずっとずっとずっとパソコンでもいじって
仕事ができればいいけど
ってか、壊れちゃえよ
たくさんの管に繋がれて
延命されるほど残酷な命はないって思ってる
思ってるけどさ、言えないんだよね

望まれてもない願いだから
一度は断られた
またの機会に、って
機会なんて
誰かが用意してくれるわけじゃなくて
自分で作るものじゃないのかな
だから、作る気がないのかなあ
なんてことも言えないんだけどね

でも
ありがとう
誘ってくれて
感謝してるけれど
もういいか、しつこいか
ありがとうも言えないんだけどね

前に
鈍行列車で本州を横断する旅をしてた時に
虫の知らせなのかな
迂回してじいちゃんに会いに行ったんだよ
何年ぶりかに会ったけど
全然変わってなくて安心した覚えがある
三十分ぐらいだけ話してさ
お小遣いくれてさ
でもさ
その時に会ったのが最後になったんだよね
棺にじいちゃん入れる時に
その時のことをとうさんに感謝されたんだよ
でも
ぼくはじいちゃんに何にもしてないのに

あれ
話も迂回しちゃった
だからさ
今年はさ
名前も知らないいくつもの川を越えてさ
ばあちゃんに会いに行くつもりなんだ
っていう話を
今度きみに話すね
北陸新幹線って
どれぐらい早いんだろうね

星合

初出:即興ゴルコンダ

星合

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-10

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