cheerful person.9

夏休み

とある日の下校中。
俺の足取りは、いつになく軽い。その理由は、明日からの日程にある。
明日の曜日は土曜日。一見すればただの休日だが、そうではない。
今日の日付は、7月19日。全学生のお楽しみイベント、夏休みが始まるのである。
正直、20、21、22と、土、日、祝日が続くので、少し損した感があるものの、それでも嬉しさの方が断然大きい。
そんなことを考えていると、俺のケータイが鳴っていた。
画面を見てみると、そこには最近新しく追加された「黒川 凜」の文字が映っていた。
「何ですか、リンさん?」
「もしも~し、なんか元気そうだね?」
いきなり声で心情を見抜かれてしまった。
「いや、今日から夏休みでして・・・。」
「あ、私のところもだよ!まあ、私は予定いっぱいあるけどね。」
「売れてるからいいじゃないですか、忙しいってことは、それだけ期待されてるんですよ。」
「何か、今日の立川くん、いつに無く饒舌だね。」
ホント、話が弾む。これも夏休み効果の1種だ。常時テンションが少し上がる。
「でね、用件なんだけどさ、今日の夜に華ちゃんの家に来れない?」
「俺はいいですけど、秋風とリンさんは大丈夫なんですか?」
「私は、華ちゃんの家に泊まってくし、今日集まろうって言ったのは華ちゃんだから、全然大丈夫だよ。」
と、いうことらしい。どうやら、今日の夜また秋風の家に行けばいいようだ。
「用件はこれだけだから、じゃ、また夜にね。」
「どーも、また夜に。」
通話を切る。どうやら、今日も晩御飯は秋風の家のようだ。
こうやって秋風の家に集まるのは、リンさんと知り合ってからは、今まで2回あった。
基本的にはしゃべったり、遊んだりだが、2回目からは秋風が
「良かったら、次からはウチでご飯作ろっか?」
という提案をしてくれた。秋風の作るご飯はおいしいので、けっこう楽しみにしていたりする。
さて、早く夜にならないだろうか。
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「母さん、今日の夜ごはん、俺の分いいから。」
母さんは、別に渋りもせずハーイとだけ返事をした。
さて、夜まで時間がある。夏休みの課題でもしようかと思っていると
「何か、士愉変わったわね~。」
と、突拍子もないことを言ってきた。
「・・・どしたの、急に?」
「いや、高校入る前はちょっと捻くれた子だったけど、今は普通に青春してるってこと。」
失礼な。中学のときも普通だったよ、俺は。
「やっぱり、華ちゃんのお陰かしらね?あの子、明るいし。」
話していると、秋風の名前が出てきた。
そういえば、俺はアイツと会う前まではどんな生活してたんだっけ。
友達がいなかったことだけは覚えているが、逆に言えばそれだけだ。
しかし、今はどうだ。別に自分で性格を変えたつもりはないが、母さんから見たら、俺は変わっているらしい。
どこが変わったかは分からないが、これだけは言える。これは、秋風の影響によるものだ。
秋風の影響を受けて、変わって、俺は今、何を中心に回っているのだろう?
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「あ、リンちゃん出てる!!」
「それね、今月の始めに収録したやつだよ。」
夜になった。俺は今、秋風の作った夕食を食べ終え、テレビを見ている。
秋風が適当にチャンネルを変えていると、リンさんが出演した番組があったので、それを見ることになった。
「なんか、テレビに映ってる人が目の前にいるって不思議だよな。」
「出演した身としては、もう慣れちゃったけどね。」
「リンちゃん、子役もやってたから、結構長くテレビと関わってるんだよね?」
「そうだね。自分がテレビに映ってるのは、もう違和感ないかな。」
会話が続く。その中で、ふと思った。
今、当たり前のように話しているけど、俺はこんなに人と話したことが、今まであったかなと。そんな考えが頭をよぎった。
中学までは、絶対に無かった。小さい頃は何人か親しい人はいたが、ここまで深い付き合いはしなかった。
ここまで人と話すようになったのは、おそらく、いや、絶対に秋風と出会ってからだ。
当の本人は今、小さい頃からの友人と談笑している。
その、周りもつられて明るくなれる、名の通り華のような笑顔を見るようになってから、俺はこうして変わった。自分も、自分の周りの環境も。
俺は、そんな彼女をどう思っているのだろうか?
知人か、友人か、それとも・・・・・
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8月1日。その日の夜、1通のメールが届いた。
差出人の名前は、「秋風 華」。そういえば、俺の知り合いって漢字3文字の人しかいないなと、どうでもいいことを思ってメールを見る。
内容は、この前のリンさんと同じ・・・ではないようだ。
どうやら明日は、あちらのマンションの近くの神社で、夏祭りをやるようだ。
用件は、明日その夏祭りに一緒に行かないか・・・というものだ。
リンさんは、仕事の方があるらしく、行けないらしい。
ということは、2人だけ・・・2人っきり・・・。
思考を中断する。自分には、こんなメルヘンな思考は似合わない。気持ち悪いだけだ。
とりあえず、OKの返事を送っておく。
その途端、急に明日が来るのが楽しみになってきた。
最近、何故かこんな気持ちになることが多い。
本当に、何なのだろう・・・?

cheerful person.9

同じ作品を書き続けるのも飽きてきたので、次で終わらせる予定です。

cheerful person.9

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-09

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