眠り木の舞姫

登場人物設定

波瀬時斗(はせときと)ーーこの物語の主人公です。面白いことであるならば突っ込みかかる性格。好奇心はそこそこ。だけど、割りと冷静であり、知能はけっこう上の部類。容姿については男性の標準値からは上の方。めちゃくちゃカッコいいわけでもなく、カッコ悪くもない。だけど、幼馴染みの中津宮(なかつみや)さんの影響もあってか、告白されることはないと思われる。波瀬美奈子という妹がおり、妹を溺愛しているシスコン。彼は能力持っており、脳に作用させる神経系認識系統の能力者。

中津宮ーーー今作のヒロイン一人目。前述の通り波瀬時斗の幼馴染みであり、雄一無二の親友。彼が初めての友人。中学の頃に起こった出来事により二人は仲良くなる。極度の睡眠癖でどんなとこでも寝てたりしてます。寝坊なんて当たり前。授業中に寝るのも当たり前。彼だけが雄一起こせる人なのかな?かなりの巨乳であり、その巨乳を堪能出来るのは波瀬時斗のみとか・・・。容姿は一般女性の中でも突出して美人。誰からも好かれるような容姿ではあるが、特異な性質のせいか寄り添う者はあまりいない。温厚な性格であり、人当たりのいい女の子。セミロングヘアーを愛する女の子。


西城恋歌(さいじょうれんか)ーーーヒロイン二人目。大地主西城の一人娘。主人公が座る食堂の定位置の近くにいつも座っている女の子。自分から話題を切り出すのが苦手な子。ナチェラルなボブヘアーな女の子。主人公の後輩に当たる人物。主人公に好意を寄せているようだが何でかは主人公にも分からない。

酒谷眞船(さかたにまふね)ーーーヒロイン三人目。酒谷祐介の姉に当たる人物。気に入った者をとことん愛し、気に入らない物は潰すという徹底した人物。主人公が雄一苦手としている人物。銀色の長い髪型をしたその姿は狐の姿を思い出させるほどに妖艶である。

酒谷祐介ーーー主人公とは腐れ縁の仲である人物。よく主人公に弄られる。モテない自分に対し、モテる主人公を密かに恨んでいる何とも残念なやつ。酒谷眞船の弟に当たる人物。単細胞なので考えていることも単純。馬鹿である。中でも英語の成績は低い。毎日主人公を食堂に誘うほどの大の食堂好き。主人公とは少なからずの因縁があるようだ。

羽島姫子ーーーヒロイン四人目。馬鹿騒ぎがとにかく好きな女の子。好奇心旺盛で、興味あるものに目がなくなる人物。主人公もこの女の子によく振り回されている。笑顔をモットーにしており、毎日笑顔は欠かさないという。彼女も中津宮と張り合えるほどの巨乳の持ち主。中津宮よりも動き回る分こちらのほうがエロティックなのかもしれない。クラスの男子も釘付けされてるに違いない。ツインテールの少女でツインテールに並々ならぬ拘りがあるそうだ。


西ヶ崎言彦(さいがざきいいひこ)ーーー主人公に当たる先生。大雑把であり、面倒なことは嫌いな性格。主人公はいつも愚痴に付き合わされている。主人公の師匠とも言えるほどに主人公にとって、かけがえのない存在。

波瀬美奈子ーーー主人公の妹に当たる人物。料理の腕はS級。超がつくほどの家庭的な女の子である。世の中の妹の究極形態とはまさにこのことであろう。中身は腹黒い。普段、両親がいないので主人公にとって、妹の存在はとても大きい。

sreep 1

いつだったか、誰かに言われたことがある。

幸と不幸は同等の差で成り立つものであると。つまり、幸せと不幸せは同じくらいあるってことだ。

まだ、小さい頃の俺はその意味を理解することは出来なかった。

人は他人よりも自分が第一だ。それは、人間の基本概念であるからだ。

誰だって自分が大事だ。自分という存在があって、初めて他人に意識を向けるのだ。

だけどね、自分のことばかり優先して、取り返しのつかないことをした者がいた。現に俺がそうだったーーーそんなことを言う者もいた。

どんな結末があって、その考えに辿り着いたのかは誰も知るよしもしない。

そう、誰一人として。

たが、俺には真っ白で塗りたくられた記憶がある。

もしかして・・・俺は取り返しのつかないことを・・・。

それが空白の記憶の原因かもしれない。それを探すために、俺はこの世界でやり直す。

取り戻すんだ。空白の果てに眠っている出来事を探すために・・・。


ーー★★★ーー
「・・・んっ」

9月9日。目覚めはとても快調・・・とは言えないな。

「変な夢を見た気がする・・・」

奇妙な夢だった。知らない人が俺に話しかけたり、俺ではない俺が自分に問いてるような言葉が響いたりとか・・・。

まあ、夢は所詮、夢だから気にするだけ無駄か・・・。

今まで培った行動パターンを繰り返す。

顔を洗い、食事をして、学校に行く支度する。

なんてことを毎日繰り返す。学生の基本的行動である。

ベランダに向かうとそこはいつもの閑散した部屋がある。

「・・・」

テーブルの上には飯が置いてあった。その横にかわいらしく書いてある文字が・・・。

(お兄ちゃんへ。今日は朝練があるので早く出掛けてきます。お兄ちゃんのために作ったご飯、おいしく食べてね。あっ、それと、お米を買ってきて欲しいのです。10kgのお米買ってきてね。買ってきたら、美奈子から素敵なプレゼント上げるんだからね)

「・・・はぁ」

朝から疲れる妹である。

波瀬美奈子。俺の妹である。文章からして分かるだろうが、美奈子はあざとい。世の男どもを手のひら感覚で操っている感じがするぜ。いやあ、黒いわ。腹黒すぎる。ブラックシスターとはこのことである。

それはともあれ、飯はご飯に味噌汁、目玉焼きという王道な朝食が並んでいた。さすがマイシスターである。当然ながら料理の腕はある。

まあ、このように料理は妹の担当である。ありがたいものである。

「・・・ったく、最後の一言がなければ、いいんだけどな」

少々の嘆息をして、俺はご飯を手をつけた。

トマトにベーコンと盛られた目玉焼きは当然のこと。味噌汁も普通にうまかった。なんとも家庭的な妹である。将来、いいお嫁になると思う。

俺だったら多分結婚してるな。料理スキルがあれば、女の子とは誰とでも結婚していいと思っている。すみません、今のは冗談です。

と、くだらない事を考えながら、食事を済ませる。

朝食を終えて、俺は鏡へと向かう。

「うむ。いつも通りの顔、そしてヘアスタイル。いやあ、実に素晴らしい」

とまあ、確認をしておく。おい、そこのキミ。キモいとか言うたらいかんよ。俺にとっての三大NGワードだから。

なんて、どっかの誰かに言ってみた。誰だよ、それ。

顔を洗った後、鞄を背負い玄関へと向かう。

「・・・」

閑散とした空気を感じる。多分、それは両親がいないからだろう。

二人とも海外で活動をしているので、うちに帰ってくることはない。

研究職をしているとか何だとか言っているが、実際は分からん。

それに、両親とはあまり仲が良くない。波長が合わないというか・・・俺の中で壁みたいなのが出来てしまってるからか・・・。

「・・・行ってきます」

いない両親に向かって、俺は返ってくるはずのない言葉を言った。ただ、これだけは言っておかないといけないという意地みたいなのが俺にはあった。

照りつける太陽が眩しい。9月というのに、まだまだ暑い。

勘弁してほしい暑さである。アイスでも食いながら登校したい気分である。

それはさておき、俺は登校と同時に向かう場所がある。

その場所へと向かいながら、俺は歩を進める。

しばらく歩くと、目的地へとついた。

二階建ての立派な一軒家。見るからに幸福な家庭であると思える家である。

インターホンを鳴らす。

「・・・ふぁい?・・・時斗くんか・・・」

間抜けな声が聞こえてきた。まだ、目覚めたばかりやな。

中津宮。俺の幼なじみである。中学からの付き合いである。

「よう、寝ぼすけ。さっさと準備して、いこうか」

「・・・うん・・・・ちと、待っててね」

眠たそうな声でインターホン越しで言った。宮は朝がてんで駄目な子である。

しばらく待つと、玄関から、ポニテの栗毛女の子がやって来た。

「・・・待たせたね・・・」

「・・・まだ眠そうだな」

「・・・そだね・・・朝は弱いのよ」

「髪もボサボサじゃないか。櫛くし貸してくれ」

「ん」

宮は言われた通りに、櫛を俺に渡す。

普通だったら、あり得ないであろうシチュエーションを俺はやっている。幼なじみ故の特権とかいうやつだろうか。特権かどうかは知らんけど

「・・・ふふ」

櫛をとかれている宮は何だか気持ちよさそうである。

「これでいいか?」

宮が鏡を出して見る。

「・・・うん、ありがとう」

櫛を渡して、俺は宮の家の玄関から出る。同時に宮も玄関から出る。

「いつも朝に弱いんだな宮は」

「・・・朝は体が重たいのよ。ねえ、おんぶしてよ」

「はいはい、寝言はいいから、ちゃんと歩け。遅刻するぞ」

「・・・ちえ。相変わらずガード硬いなあ、時斗くんは」

朝の宮は無防備すぎて困る。他の人だったら、おんぶしてとか言われたら断れないだろうと思う。

宮は可愛いと思う。女子としてのレベルは高いだろう。俺から見ても美少女だと思えるくらいには可愛い。変な男に襲われなければいいが・・・。

「あのな、そんなこと言ってると、世の男ども勘違いするからやめておけ」

「こんなこと言うのは、時斗くんだけだよ」

「そうか。ならいいが・・・いや、よくないだろ」

「えっ?どうして?」

「俺が性欲を剥き出しにしたらどうするよ?おんぶしているときに太もも触ると見せかけて、お尻を触るかもしれんぞ」

「何言ってるの?時斗くんがそんなことやるわけないじゃない。甲斐性ないくせに」

ぐぬっ、こいつ言ってくれる。

「甲斐性ないって・・・お前なあーーー」

「でも、私はそんな時斗くんでいいと思うな」

「・・・そか」

そう言われたら言い返す言葉もない。天然で言ってるか分からんが、今の発言は男どもを落とすから止めて頂きたい。

俺は少し照れて、宮に視線を外した。

「どうしたの?顔赤いけど」

「・・・何でもない。太陽のせいじゃないか?」

「あら、そですか」

聞いたわりに興味なさそうに返事してくれますね、キミ。

ただ眠いだけってのもあるとは思うけど。

てか、目をつぶったまま、一歩も動く気配がないんだが、宮さんよ。鏡を見て確認して決まったと思って、また寝そうな勢いである。

「ったく、仕方ねえな。おんぶしてやるから」

「うへへ、ありがとね・・・時斗くーん」

迷惑なヤツだ。これだから宮の扱いにはほとほと困る。

結局、おんぶするような形で登校せざる得なくなった。

ちなみに、これは我が校では公認の風物詩となっている。風物詩つうよりもう伝統に近いな。

ちらほら歩くクラスメイトの奴らは・・・

「あ~あ、いつも通りだね。また、中津さん寝てるのね」

「彼女は常時寝てるようなもんだからね。ただ目をつぶってるだけかもしれないけど」

「そして、中津さんを背負う時斗くんも相変わらずだよね。毎度ご苦労様」

と声をかけては苦笑している。

苦笑するぐらいなら背負ってくれませんかね。まあ、宮は相当軽いもんだから、なんともないわけだが。

んで、宮に気がある連中はというと・・・

「くそ!あの野郎マジで裏山。中津さんの胸当たりまくりじゃねえか」

「おんぶ・・・解せぬ!世の中の男がやってみたい事、10の中の一つ。可愛い美少女おんぶして背中におっぱいを当てようという裏山けしからん事をあの野郎は・・・」

「俺はおっぱいよりも太もも触りまくれるのが裏山です」

下心満載のクソ野郎どもだった。アイツら、宮に何かしたら、処刑だな。

まあ、気持ちは分からんでもない。現に胸が当たってるわけで・・・。

「・・・」

さっきから当たって柔らかい感触が背中から感じるんだ。静まってくれよ、俺の息子よ。

「スゥー・・・スゥー」

にしてもぐっすり寝るなコイツは。俺の背中は枕じゃないんだぞ。

まあ、学校に着くまではこうしてやるか。

宮をおんぶしたまま俺は学校に向かうのであった。

「・・・」

にしても、やはり背中に感じる感触は素晴らしいものだな。

ちなみに宮さん、胸は自称Cカップだそうです。大きいわけですよ。

ーーー★★★ーーー
宮を背負いながら、学校に到着する。

舞柳まいやなぎ高校。最近新しく出来たとこの高校であり、俺の通う学校。

男性の制服は薄目の青を基本としたブレザーで、女性は白と水色の混じる、可愛らしい制服である。割りと目立つ制服である。もともと可愛らしいのに更に可愛くしようと、スカートを短くする人もいる。もろパンツ見えそうなくらいにな。鋼の精神でそこは見ないよう勤めるつもりだ。

ということもあり、新高校にしては有名な高校として知られている。可愛い制服だけで有名になるとか経営者はよく考えてると称賛したい。まあ、それはいいとして・・・

「スゥー、スゥー」

まだ寝てやがる。もうこれは起こすしかないな。

耳元で囁きながら起こしてみる。

「宮さん、学校につきましたぜ。歩けますか?歩けないならまたおんぶして、あなたを男子トイレの便所に突っ込んでやりますけど・・・」

「・・・んあ?今、さらっと恐ろしいことを言われたような気がしたけど・・・まあ、いいか」

と言ってまた寝ようとしてるしこの子。

よし、このまま男子便所に突っ込んでやりますか。

忠告がてらにもう一度言う。

「宮さん。起きてください。あなたを男子便所に突っ込みますよ」

「・・・・あれ?学校着いたんだね。ありがとう時斗くーん。やっぱ時斗くんの背中気持ちいいね。それで、さっき何て言ってたの?」

「このまま起きなかったらそのままおんぶして、男子便所に置いてやるとこだったけど」

「・・・それは駄目!トイレに置き去りにしようとしないで!ほんとひどいことしようとするよね。時斗くんは、私が寝てるのをいいことに・・・」

「お前が起きないからだ。起きてくれりゃいいんだよ。でも、さすがに悪かった」

「・・・むぅ、ほんとひどい。でも、私って朝に限らずだけど、ずっと目を開けてられないんだよね。なんか、こう睡魔が常時襲ってきてね。それは、もう自分では止められないの。一応踏ん張れるのは踏ん張れるけど、でも限界があるのよね」

常時眠たいね。それはただ単に寝たいだけだろうとは思うが。

しかし、女子を男子トイレに連れていくとかけっこうヤバイことしてるという自覚をして、俺は反省した。

「ちゃんと寝てるのか?夜更かししてるからじゃないのか?」

俺が言うと、宮は苦笑いをして・・・

「・・・あはは、そうかもね。今度からちゃんと早く寝るよ」

よかった。これでおんぶ解放の時代がくると思うと、心がスッキリした。好奇な視線には勘弁だぜ。

「んじゃ、教室に向かうか」

「ん」

俺と宮は教室に向かった。

その途中で虫が話しかけてきたが、俺は無視することにした。決してダジャレとかじゃないのでご安心を。



ーーー★★★ーーー
教室に入り、自分の席に着席をする。

場所は一番後ろの席。視覚はいいほうなので、前に座らなくていい。

さっきから虫が喋ってる気がするが気にしない。

鞄を下ろして、宮をおんぶしたのもあってか、疲れが押し寄せて、俺は机に顔を伏せた。眠たい・・・。

「おい、起きろ!俺の話聞くし!」

さっきから耳元でうるせえやつだな。クソ虫が。

そのクソ虫こと、酒谷祐介が俺にペチャクチャと話しかけてくる。

酒谷祐介。超うるさいクソ虫だが、これでも割りと長い付き合い。

腐れ縁というやつだな。単細胞かつ単純なやつである。

全く、何でこんなやつと腐れ縁になったのか、世界は不思議だ。

「うるせえな!クソ虫!聞こえてるつうの」

「いや! 聞いてなかっただろ! さっきから俺の話を無視しやがって!」

「まあ、虫だからな」

「無視だけに虫ってか! ってバカヤロー! 誰が上手いこと言えつったよ!」

「0点。キミ、笑いのセンスないね。これだから虫は」

「だぁぁぁぁ! うるせえ、うるせえ! お前、俺を苛めてそんなに嬉しいか?」

「嬉しい。酒谷くんを苛めることは僕の生き甲斐でもあるから」

「お前、最低だな。いつかボコボコにしてやる」

「んで、何の話だ?さっきから言いたいことがあるようだが」

「ぐぬ・・・苛めるだけ苛めておいて・・・。まあ、いいや。お前さ、中津さんとぶっちゃけ付き合ってるわけなの?」

俺は呆れたことを言う酒谷に対して、とりあえず一発入れておく

「いてっ! 急に殴るなよ。お前のパンチ超いてえんだよ」

「お前がアホなこと言うからだろ?付き合ってねえよ。ただの幼馴染みだよ、宮は・・・」

「そか?毎回くっついてるようにしか見えないからてっきり・・・。そういうことか。んで、中津さんはお前を実際にどう思ってるわけよ?」

宮は昔からあんな感じだった。ほんとによく寝てばかり。そのせいで友達もあまり出来ていない。寝てばかりで喋っていなかったのもあったからかもしれない。たが、ふとしたきっかけで俺は宮と話す機会が出来て、友達になれた。だが、今だとしてアイツの考えていることは全くもって分からん。俺からしても宮という存在は友達のままであって、深くは理解出来ていないのだ。

「さあな。アイツの考えてることは分からんからな。よく寝てるし、寝てる時には話せそうにもないしな」

「・・・まあ、確かに分からないな。現にもう机に座ったら寝てるし。どんだけ寝てんだよってぐらいだな」

「多分、俺は宮があんだけ寝てるのには何か理由があると思うが、話そうとしてもなぜか憚れるんだよな。だから、アイツ自身が話すまで待つしかないな」

「病気で人より何倍も寝ないといけないとは聞いたけど、そうじゃないの?」

「多分、違うね。何か隠してると思う。たが、さっきも言ったように話すまで待つしかないな。それが、何なのか」

「そか。幼馴染みのお前が言うならそんなんだろうな」

「それはそうと酒谷くんや。キミの姉さんだけど・・・」

「・・・姉貴か。また何かしたのか・・・?」

「この前、俺の家に上がって、勝手に飯を食っては勝手に出ていってくれやがりましたよ。お前の姉ちゃんどうなってんだよ?」

俺が言うと酒谷は頭を抱えて・・・

「・・・またあの姉貴は・・・。ごめん、後で叱っとくから勘弁してやってくれ。姉貴の性格知ってるだろ?」

「ああ。お前の姉ちゃん気に入った者にはとことん付きまとう奴だろ」

「ああ。俺もあの性格にはほとほと参っててな。弟の俺から謝っておくよ。マジでごめん」

「全くだぜ。俺の妹もほんと困ってたからな。知り合いだから、断れないのもあったし、なんか、ほったらかしにしたら、そのまま俺の家から離れそうになかったから。仕方なく上げたんだよ。ご飯食べるまで帰りそうになかったし」

「はぁぁぁぁ。全く姉貴は・・・。今度何か奢る。これで許してくれ」

「姉、妹を持つと大変だな」

「全くその通りですぜ」

俺と酒谷は二人してため息をつくのであった。

酒谷眞船。酒谷祐介の姉であり、俺を困らせている人物である。

気に入った者をとにかく愛する人であり、それは手に負えないほどである。だが、逆に気に入らない物はとにかく壊すという恐ろしい人らしい。それもあって、俺は仕方なく相手をしている。怖いからな。ちなみに俺の先輩にあたる人。舞柳の三年生である。

そうこうしているうちにチャイムがなる。朝のHRの時間である。

「席につけー。とりあえず連絡事項だけ伝えておくな。波瀬は俺のところに放課後来い」

「分かりましたよー。先生」

呼び出しを喰らってしまった。まあ、いつも通り愚痴でも聞かされるんだろうな。

あと、基本的にこの人重要なこと以外はすっ飛ばそうとするほどのめんどくさがりやです。効率とか言ってるけど面倒だからやりたくないだけだよな。

「以上だ。おめえら、今日も頑張って勉強に励めよ。若いんだからな!」

西ヶ崎言彦。これでも頼りになる先生です。気さくな性格もあってか生徒からの人望も厚い。俺にとっては一生の先生である。この人にはいろいろと教わってきたからな。

「西ヶ崎先生カッコいいよな。あの先生が担任でよかったと思うぜ」

酒谷が先生の後ろ姿を見て言う。ああ、俺も同じ気持ちだぜ。

「だな。あの先生ほどカッコいい人はいないだろうな」

俺と酒谷は二人して頷き合うのであった。

今度はどんな愚痴なんだろうな。聞いていて面白い愚痴ではあるけどな。

俺はそんなことを考えながら授業を過ごすのであった。

sreep 2

授業が終え昼休みになる。

舞柳高校の昼休みは人の動きが慌ただしくなる。まあ、それは学食だったり、人とのふれあいが多いからだろう。

この俺もその動きに混ざりざるをえない。弁当は妹に作ってもらえればいいが、俺がいらないと言ってるので作ってもらってはいない。妹の負担を増やすわけにはいかないからな。

ということで学食に向かうことになる。まあ、いつも酒谷に誘われるわけだが。

「波瀬、学食いこうぜ。今日新メニューが出てるってことらしい。食いにいかねえか?」

弁当もないから行くしかないけど、人が多いから行きたくはない。

「こんな人多い中に行くのか?」

「それでも行くしかないでしょ」

「分かった。仕方ねえからいくよ。クソ虫の補食過程が見れる貴重な映像だしな」

「クソ虫言うな!ていうか、いい加減に虫扱いするの止めてくれませんかね?」

「いや、お前事実虫だろ?」

「いや、人間だから!It's very human!」

I'm very humanって言いたいんだろうな。それ、とても人間ですって訳だから。自分のことそれって言ってる時点でもう道具か何かになってるし。面白いから追求しないけど。

「まあ、いいや。飯も買ってきてないし。学食に行くしか選択肢がないんだよなあ」

「だろ?だから、行こうぜ」

さっき言われたことについてはもう忘れているようだ。さすが単細胞。

んで、酒谷にこうして学食に誘われて、食堂に来たまではいいが・・・

「人めっちゃ多くね。マジ多すぎるわ。てか、これ食えるのか?」

「新メニューってやつか。にしては多すぎじゃね?みんなミーハすぎっしょ。マジべっーわ」

同じような会話がちらほらと聞こえてきた。

食堂は人が溢れかえっていた。事実新メニューが出たと告知されていたし、多分そのせいで多いんだろう。

「ほんと多いな。舞柳ってこんなに人おったのか」

「これは想像以上に多いな。入り込む隙がないな」

その名の通り人の大通りが出来ていた。コンサート会場じゃあるまいし、こんなに人たがりができるもんなのかって改めて驚かされる。食堂やべえな。どんだけ稼いでいるんだ。経営者またまたやってくれると称賛したい。

ちなみに新メニューは海鮮丼。一日限りの限定メニューだとさ。道理で人が多いわけだ。

実際に俺も食べてみたいがこのままじゃ食えそうにない。

あんま使いたくはないが、能力を使うか。能力を使うと、後日疲労が押し寄せてくるから嫌なんだよな。しかし、食欲にはどうやら勝てないらしい。

「酒谷二人ぶん買ってくるわ」

「おう!って、この人混みの状態で買えるのか?」

「ああ、買ってみせるさ」

「なら、任せたわ。金渡しとくな」

酒谷から金を受けとると、俺は意識を集中させる。

俺はこの能力を認識遮断能力と言っている。俺のそのものの存在をなかったかのようにする能力だ。いわゆるステルス能力。これを使って並んでいる列の一番前へと向かう。

だが、長い時間使うことは出来ない。そんなことしたら俺と触れあった奴らから俺の記憶が消えちまうから。だから、あまり使いたくなかったのだ。実際あまり使えない能力である。潜入の真似事にしか使えない。ふ

まあ、これで一番前の来ることは出来た。しかも、都合のいいことに後ろの列の奴らは俺が前にいたことをあたかも最初からそうであったものだと解釈される。

このお陰でとりあえず海鮮丼は買うことが出来た。

520円。一日限定だからか、少し高かった。買えたので酒谷のところに戻るか。

「酒谷、買ってきたぞ」

「・・・おう。てか、こんな人混みの中よく買えたな」

「まあな。ところで、どうしたよお前? なんかボーッとしてたようだが」

「ああ、そのことなんだけど、俺にも全く分からんのだ。なんか、こうスッポリと何かが消えたような気がしてな」

・・・俺の能力の影響だ。ちょっとだけなら何ともないからいいが、少し使っただけでもこの影響力である。不便すぎるぜ、俺の能力。俺の能力は負の要素しかないんじゃないのか?。

「気のせいじゃないのか? さっさと食べようか」

「だな。しかし、海鮮丼とは食堂のおばちゃんたちもやってくれるな。ほんと上手そうだ」

俺たちはいつもの定位置に座る。

「海鮮丼か。久々に食べるな。いただきまーす」

お箸を手にして海鮮丼を口に放り込む。・・・こ、これは・・・!

「口の中に広がる海の幸・・・酢飯の香りが口の中に広がる。何だよこれ。うめえな」

俺は夢中になり口に放り込む。うめえ、マジでうめえ。

それは酒谷も同様の通り。

「波瀬の言う通りほんとにおいしいなこれ。一日限定なだけあって最高だぜ。ありがとな、波瀬よ」

「まあ、お前の奢りだしな。だったら、買わざるを得ない」

「・・・姉貴の件か。奢りって言うけどこれでいいのか?」

「ああ、これでいい。高いもの買われても困るし。こんぐらいがちょうどいいんだよ」

「そか。なら、これで姉貴の件はチャラな。520円だっけか?渡しとくよ」

「おう、サンキューな」

奢りってのはこんなもんでいいんだと思う。それに早く終わるなら終わらせておいたほうがいい。ズルズルと引きずってるといつか忘れてたという悲しい事態になりかねないから。

ご飯を食べている中にさっきから視線を感じる。

気になったので横を向くと、そこには俺たちが定位置に座るように、彼女も定位置に座ることにしているらしい。

そういや、何回か話したことあったっけか。ポツンと座っている彼女は俺に毎回視線をくれていたのでそれが気になり、話しかけたのが切っ掛け。彼女はどうやら自分から話掛けるのは苦手なようなので、視線で訴えかけてるようだ。話しかければいいのにな。

「・・・俺のことじろじろ見てどうされましたか?お嬢さん」

「・・・うえっ!? あっ・・・その海鮮丼美味しそうだなと思って」

彼女の名前は西城恋歌。大地主の娘らしいが実際は知らない。俺の後輩だ。

「食べてみるか?」

「いいの?」

「だって、そんな目をキラキラさせたような状態で言われたらな」

「えと、じゃあ、頂くけど。それにしても、海鮮丼なんて注文出来たね。あれだけの人数だったのに」

「まあな。俺にかかればこんなもんよ」

「へぇ、波瀬くんスゴいんだね」

俺の海鮮丼を美味しく食べてる西城さん。ああ、俺の海鮮丼が。さらばよ海の恵みたちよ。

そんなことを思っているとガシッと俺に絡み付く腕。酒谷が俺にひそひそ話をしてきた。

(おい、前から思ってたけど彼女は何なんだよ。お前のことばかりじろじろ見てて。好かれているのか!? 好かれているのか!? お前ってやつは! 中津さんがいるってのにこんな女の子まで仲良くしてるのかよ。どんだけ女に好かれてるんだよ! しまいには絞めるぞ」

(お前、私怨出まくり。自分がモテないからって逆恨みするんじゃねえよ。俺のことじろじろ見てたから話しかけたらあんな感じになった)

(・・・ッ! これが、お前のテクニックなのか。今度俺にもモテテク教えてくれ)

何言ってるんだコイツは。

(どうでもいいが、食事が進んでないようだな。さっさと食べろ。そして、消えろ)

(ひどくね! 俺をゴミ扱いするなよ。お前、マジでひでえわ)

俺がそういうと奴の腕からやっと解放される。うえぇ、虫の液体がついたよ。後で殺虫剤撒かないとな。こいつの机には蚊取り線香でも置いてやろう。

そんなこんなしている内に西城は俺の海鮮丼にはもう手をつけていなかった。もう食べなくてもいいということらしい。

「もういいのか?」

「うん。大丈夫。美味しかったよ。ありがとね、トキト」

そういうと、西城は席から立ち上がり、この食堂を出ていった。

・・・ほとんど食べていきやがった。少しは残せよ。

最後の一口をつける俺であった。

ちなみに、酒谷さんは俺がボロクソ言ったので帰ったようです。さながら、ゴキブリのように。涙を流していた気がするが気にしない。

しかし、海鮮丼旨かったな。一日限定ってのが残念なものだ。

俺は少しだけ物惜しそうにそれを食った。

sreep 3

人で溢れていた食堂からも無事に離れることが出来たし、そろそろ昼休みも終わりってとこで、俺は教室に向かっていた。

だが、このタイミングになるとだいたい騒ぎに巻き込まれるんだ、俺は。

俺の後ろから騒がしい声が聞こえてくる。どうやら予想は的中。

・・・これは逃げるしかないな。

声からして俺はもう嫌な予感がしていた。なぜなら、この後の展開がどうなるのか分かっているからだ。どうせ、面倒なことに巻き込まれるに違いないからだ。

さっさと逃げようとしたが、悪いことに俺は身体能力がそこまで高いわけではない。視力はよくても身体能力に影響するわけではないからあんまし意味がない。

んで、その騒ぎの主にあっという間に捕まることになった。早すぎだろ。けっこう離れてただろ。走るときに振り返りざまに見てしまったが、相当胸が揺れてた。さすが、宮と同じくらいのサイズである。

それはおいといて、羽島姫子。ツインテールが特徴的な彼女に俺は毎回のごとく襲われているのであった。

あーあ、捕まっちまったよ。

「今度は何だよ! 羽島! 俺はもう嫌なんだよ! 勘弁してくれ」

「うっひひひひ、波瀬。ちょっと付いてきて欲しいとこがあるのよ」

羽島はそう言うと俺の手を引っ張る。小さい手が俺の手に絡み付く。こいつの手こんなに小さかったのかという場違いなことを考えなければやってられない。

「・・・また何かやらかしたのか? お前は散々やった挙げ句に最後は俺を呼び出すよな。自分で何とかしろよ」

「まあまあ、そんなこと言わないでよ。やっぱり他の男よりもあんたの方が頼りになるわけよ」

コイツ、分かってるじゃないか。だが、騙されたらいけません。この言葉いろんな奴に言ってるに違いない。

「そいつはどうも。だが、毎回やられるこっちの身にもなってみろ。はっきり言って迷惑なわけだが・・・」

俺が言うと、羽島は途端に困った顔をして・・・。

「えっ? ごめん、やっぱり迷惑だった?」

そう言うと羽島は涙目になりながら俺を見てくる。そういう顔をされると困るんだが・・・。だけど、これも演技なんだよな。上手いことを考える奴だ。

「だぁぁぁ! 分かったよ。だがら、その嘘泣きをやめろ。んで、何をやらかしたんだ?」

俺は諦めて羽島に付き合うことにした。こうしないと結局収まらないから嫌なんだ。

「ふふふ、ありがと。やっぱ頼りになるな波瀬は。んじゃ、付いてくるのだ」

羽島に手を引かれるように俺は付いていった。

・・・犬の尻尾みたいにゆらゆら揺れる二つの尻尾が時々俺の手ににチクチク当たって少しこそばゆい。

髪からいい匂いが漂ってくるし。いかにも女の子って感じだな。

「なあ、どこに連れていくつもりだ?」

「それは、秘密。秘密よ」

・・・はあ、女はどうして秘密という言葉をよく使うんだろうか。 焦れったい奴め。

にしても、羽島とこうしているのも何だかんだで日常となってきている。

いつから、こんなことになったんだろうか。

まあ、いいか。いつか、思い出すさ。

そんなことを考えてながら、俺は羽島に連れられるままついていった。

そして、つれてこられた先は舞柳高校で恐れられている地下通路。不気味すぎて立ち寄る人はいないし、入ったらいけないとのことだが・・・

連れてきた理由が分からず、羽島に聞いてみる。

「なあ、なんでこんな薄気味悪いとこに連れてきたんだ」

俺が言うと、羽島は不適に笑いながら・・・

「うひひひ、波瀬を連れてきたのはね、ボディガード的な役目として来てほしかったのよ。舞柳高校の噂って知ってる?」

「特には知らんな。俺、噂とかあまり気にしないたちなのでね」

「実は舞柳高校は昔壮大な森林地帯だったのよ。それで、森林が伐採されて土地が広がった結果こうして建てられたのね。それで、実はその地下に埋蔵金が眠ってるという迷信があるのよ」

「へえ。そんなことがあったんだな。ん? ということはここに連れてきたということは・・・」

「そう。迷信だから私もよく分からないけど多分、この奥深くにあると思う。埋蔵金がね」

ニヤリとしながら、羽島は辺りを見回していた。

埋蔵金ね。確かにロマンはあるが、わざわざ危険を冒してまで狙う必要もないとは思うがな。早く出たい。なんか、この空間は胸騒ぎがする。

早々と立ち去ろうと思い、俺は羽島に断りを入れる。

「悪いが探索はまた今度にしてくれ。時間もないしな」

「・・・あら、そう。まあ、確かに昼休みの時間に連れてくる場所でもなかったね。でも、時間があったら一緒に付いてくれるのよね?」

「気が向いたらな。だが、今日は無理だ。まあ、実際は行きたくないが」

「・・・やっぱり行きたくないか。分かってたけどね・・・。でも、なんだかんだで付いていってくれるのが波瀬だよね」

都合のいいことばかり言うやつだ。仕方ない今回は乗ってやるか。

「全く、お前には敵わないよ。仕方ねえ、いつか付いていってやるよ。だが、危険と判断したらすぐに戻るからな」

「うん。それはそうだね。何が起こるか分からないしね」

ということで予防線は張れたようなので何とかなりそうだ。

「そろそろ時間だな。教室に戻ろうぜ」

「・・・あっ! 波瀬、次の授業って何!」

「英語だけど、どうしたんだ」

「英語!? あああああっ! 課題やってないよ! どうしよーーー!」

羽島の絶叫が辺りまで響くのであった。

そういやこの子、英語だけは大の苦手なんでしたっけ・・・。酒谷と同じように英語に関しては全くダメなのである。

英語にかかれば二人ほど低い人はいないほどに。

羽島、残念だがもう間に合わないと思うぞ。お前のボキャブラリーなんて、たかが知れてるんだから。

心からお祈りを捧げる俺であった。羽島に神のご加護があらんことを。

ーーー★★★ーーー

羽島に連れ去られたが無事に教室に戻ってくることが出来た。

一応間に合ったようだ。

さて、次は英語なのだが・・・。

羽島はこの世の絶望を味わったかのような顔をして自分の席へ戻っていった。

去り際に・・・。

「波瀬。私の骨はお墓に埋めておいてくれよ・・・」

なんてことを言う始末に。本格的にアホだなコイツは。

羽島はとりあえず見捨てることにする。正直やってねえのが悪いし。

そして、もう一人。酒谷がいるんだが、コイツは今日は珍しくやってきていたようだ。

「珍しいな。お前が英語の課題をやってるなんて」

「ふん、俺にかかればコイツらもこんなもんよ。どうや! 俺の解答を見てみろ」

自慢げに自分の解答を見せてくるので、俺はほんとに出来てるのか確認してみた。まあ、どうせ、ちゃんとは出来てないだろうが。

なになに、問題はと。英文を翻訳する問題か。

(酒谷の解答)
1Jonson is good soccer player.
(ジョンソンは良いサッカー選手です)

ほうほう、これは出来てるな。まあ、初歩中の初歩だが。

2Sarry is eating cake
(サリーはカケを食べている)

ぷっ・・・カケって何だよ。ケーキって言うんだよな、これ。多分、分からなくてそのままローマ字で読んだんだろうな。やばい、ちょっと笑えてきた。

3Miwa buy a doll
(ミワはaタイプのドルを買った)

ぷっ・・・やばい、もう何いってるか分からない。タイプがどこで出たのか謎。

「あははははっ! やべえ、腹がいてえよ! お前の解答すげえな。俺はお前を尊敬するぜ」

「だろ! 俺にかかればこんなもんだぜ」

自慢げになっているようだが、全く持って自慢になってないからな。

「それ、みんなの前で発表してみろ。拍手されると思うぜ」

「そうかそうか。ならお前の言う通りに発表してやるよ」

「そうだな。出来がよかったから。その解答を言ってやれ」

「ああ、言ってやるぜ」

意気揚々として答える酒谷。まあ、全部嘘なんだけど。

ハッキリ言って英語になっとらん。全くもって見当違いだ。

たが、面白いので俺はこのままにしておく。やばい、思い出したら、また腹が痛くなってきた。

さあて、そろそろ授業の時間だな。

チャイムが鳴ったので自席に着席をする。

「速やかに着席しろー。欠席はなしな。んじゃ、始めっぞ。課題はやってきたか? やってきてないやつは報告しろよ」

先生が言うと、羽島は真っ先に報告した。

「先生、すみません。課題やるの忘れました」

「・・・また忘れたのか。羽島、とりあえず減点な」

「・・・んなっ! 馬鹿な」

ガクリと項垂れる羽島。あーあ、トドメ刺しちまったなこれは。

「酒谷はやってきたのか?」

「先生、ちゃんとやってきたぜ」

「ほう、珍しいな。じゃ、やってきたか確認したいから発表してくれ」

「ふふふ、驚くなよ、先生。俺の解答はレジェンドだからな」

ぷぷぷ、俺の解答はレジェンドだからなって・・・。解答に伝説も何もねえよ。馬鹿じゃねえの。

回りの奴らも酒谷の馬鹿っぷりに笑っていた。

「そか。なら、言ってみろ」

「おう。じゃあ、言うぜ」

「まず、1番から」

「ジョンソンは良いサッカー選手です」

「おお、正解じゃないか。じゃあ、二番は?」

「サリーはカケを食べている」

堪えろ俺・・・。まだ笑う時ではない。回りの奴らも笑いを堪えてるようだ。

「カケ? まあ、いいや。三番は?」

「ミワはaタイプのドルを買った」

「ウハハハハハ、ミワはaタイプのドルを買ったって何だよ? てか、タイプって言葉どこからでたんだよ? 酒谷、お前面白すぎる。言っておくが、二番と三番解答全然違うぞ」

俺は堪えきれず、笑ってしまい。二番と三番が違うことを告げる。

「うむ、波瀬の言う通り、二番と三番の解答は不正解だ。カケってなんだよ? ケーキって読むんだぞ。それと三番に至っては全く意味が分からん。酒谷、ちゃんと辞書使ってやったのか?」

「・・・いえ。辞書があると、俺は怠けちまうから使わないようにと方針を決めてるんだ。ズルはしないと決めてるんだ」

カッコいいことを言ったつもりだが全く持ってカッコ悪いことを言っている。マジで馬鹿だな。

「大した信念だが、授業においてそんなもんは必要ない。やってるようだがら減点はしないが、今度ちゃんとしなければ減点だからな」

「・・・うす」

先生に言われ大人しく座った酒谷。この結果にクラスの連中も大爆笑。酒谷は恥辱に耐えていた。

その後、俺に耳打ちをしてきた。

(お、おまえ。どういうことだよ。素晴らしいと言ってくれたのに全然違うじゃないか。お前、さては俺をハメやがったな?)

(だって、解答が面白すぎたからな。これは発表するべきだろ。いやあ、マジで爆笑。酒谷、お前最高だぜ)

(俺が恥かいただけじゃないか。レジェンドとか言っちまったじゃねえか)

(それは自業自得だと思うが。だけど、みんなお前のこと笑ってたぜ。少なくとも愛すべき馬鹿って称号がついたんじゃねえの?)

(俺はそんなもん目指してねえよ。ちくしょう! テメエは一生呪ってやるからな)

呪うとか、さすが考えていることがクソなクソ虫。単純なやつだ。だから、弄りがいがある。

さすがに恥を欠いたことを悔やんでるのか、後は俺に話すこともなく、机に顔を伏せた。

まあ、今回は自慢げになってたコイツが引き起こした事態なので救いようはなかったわな。逆に俺がこの事態に誘導させたまでもあるが。罪悪感は全くもってありません。

この後、授業は普段通りに進んだが、ここに一つ新たな酒谷伝説が出来たのであった。

(俺の解答はレジェンドだぜ!)という言葉は広がるのは遅くなかった。

酒谷はお前は歴史に貴重な1ページを刻んだんだな。まあ、内容はアホだが。

酒谷の英語のすごさを改めて見に染めたのであった。


ーーー★★★ーーー
放課後、俺は先生に呼び出されたので、先生の元へ向かうことにした。

宮はまだ教室で寝ているようだ。よく寝るやつだ。

さてと、先生の元へと向かったのはいいが・・・。

「おーい、西ヶ崎先生」

「おう、来たか、波瀬。今、そばの汁飲み込むから待ってくれよ」

先生はズズズズッと汁の音をかきあげながらスープを飲み込む。

麺類好きなんだっけ先生は。たまにラーメン食べに誘われたりもしたっけ。

「あーあ、上手かった。ごちそうさん。わざわざ、呼び出してすまんな波瀬」

「それはいいですけど、俺を呼んだ理由は?」

「そんなの分かってるだろ?なあ、俺の愚痴ってやつを聞いてくれよ」

「はあ、またですか。まあ、いいですけどね。聞いてやりますとも」

「そうかそうか。やっぱ、お前はいい奴だな。いやあ、俺もこの歳になってくるとさ、いろいろとあるわけよ。嫌な事だったり、嫌な事だったり、嫌な事・・・」

ひたすら同じことを言い続ける32歳の立派なおっさん。泣き言ばっかり言っている。こんな大人にはなりたくないもんだ。

「んで、その嫌な事ってのは?」

「ああ、それはな、上の連中のおしつける仕事の理不尽さだよ。俺って教科については何でも出来るだろ?だからさ、自然に仕事も増えるわけよ。まあ、先行は社会科目だけどな。社会科目での仕事は必然なことだが、なぜか、他の仕事まで来るわけよ」

仕事での愚痴か。まあ、予想ついてたが。

「ここだけの話だが、物理を先行にしてる奴より、俺はそいつらよりも能力的には上なわけよ。教えることはないが、答えの解説とか書かされたりするわけよ。上の意向でな。それが面倒でクソッたれって言っちまいたくなる」

「教師のくせに何を言ってるんですか。教師の像を壊すようなこと言わんといてください」

「ハハハ。言わないとやってられん。この前だって、テストの問題の解析をな・・・・」

複数の科目が出来るとは聞いたけど、事実なんだな。だけど、俺にしかその事は言ってないらしい。他の生徒にも言うと、聞いてくる連中が来るから面倒だと。うわあ、ダメ人間丸出しだな~。何で教師になったんだよこの人。

「まあ、先生の苦労は分かりますよ。教師って端だから見ても大変そうですもん。生徒に教える内容とかシュミレートしないといけないですし」

「おっ、よく分かってるじゃねえか。どのように伝えたら理解できるのかとか、何回も理論の積み重ねをしていって、ようやく教えることが出来るのさ」

こうやって物事を考えるから先生は優秀なんだろうな。まあ、生きる様は情けないけど。

「まあ、テストの解析にせよ、仕事なのでやらないといけないんじゃないですか?」

「そうなんだよ。仕事ってなると、強制力が働くからな。仕事ほったらかすと給料でらんし」

「やっぱ金ですか・・・。なんか、生々しいので、あまりそういうこと言わんといてくださいよ」

「ハハハ、まあいいじゃねえか。お前は何だかんだで経済系得意じゃねえか。だったら、仕事の仕組みについて理解しといて損はない」

「そりゃ、そですね。先生が生々しいこというから自然と覚えちゃったんですよ」

「そりゃ、よかった。俺の教え、役にたてろよ」

どれもが教師らしからないことだらけだったから、印象的で覚えてしまっていたのだ。あのクソッタレの上司ムカツクとか、理事会の奴等、いつか潰すとか、生徒の相手やってられんとか、どれもこれもが教師として失格な気がする。なぜ、教師になれたのかほんとに謎。

そういえば、なぜ教師になったか聞いてなかったな。

「先生、一つ聞いていいですか?」

「なんだ? 恋の悩みっつうことならお断りだぞ」

「いや、そんな話じゃないけど。先生が教師になった理由ですよ」

「・・・俺が教師になった理由か。なぜ、そんなことを聞いたんだ」

「だって、先生ってさ考えてる事とか教師として外れてるわけじゃん。そんな人がなぜ教職に就いているのか気になったからですよ」

「ふむふむ、なるほどな。確かに俺は教師としては外れてるかもしれんな。まあ、俺が教師になった理由ってのは、いくつかあってな・・・。それが全部積み重なって今教師としてやっているんだよ」

真面目な顔になる先生は、どこかの世界を眺めているみたいだ。その瞳に映る光が物語っていた。

「波瀬。世界はな教育を受けることが出来ない国があるんだ。戦争とか国自体が貧しいとか理由は様々だ。その点日本は恵まれた環境だ。教育が随分浸透している国だからな。お前はこの国に生まれた事に感謝しておけよ」

「・・・そうですね。確かに日本は恵まれてますね。当たり前に授業を受けれるってのは豊かな証拠ですね」

「ああ、そうだ。俺は、世界のいろんな国を見てきたよ。そこで、いろんな子どもを見てきた。悪い大人の連中の道具にされてる子供とか。飢餓に苦しむ子供たちとか。紛争が絶えなかったり。そして、俺は思い知らされたよ。人間の恐ろしさという奴をな」

・・・嫌な話だ。子どもが玩具にされてるとかな・・・。

「俺は何とかしてやりたいと思ったが、人間1人の手でどうにかできるもんじゃねえ。俺の手はちっぽけすぎたんだよ。強大な敵には立ち向かえないと悟ったよ」

「・・・それで?」

「ああ、子どもたちが紛争に巻き込まれてるのは大人たちが教育を受けなかったからだ。なら、現代の子どもたちにそうなってほしくない。だから、俺は教師になってやるんだ。そう決意したんだ」

「なるほど、それで教師としてやっていくことにしたんですか」

「ああ。まだ、日本だがな。だけど、日本でしばらく勉強したら、俺は近々に海外に行く予定だ。そのためにいろいろやってんだからな」

なんというか・・・素直にすげえなと思った。そんなこと考えていたのか。普段から変な事しか聞かされないから、なぜ教師になったのか気になってたんだよな。そんな理由があったとは。これが他の教師たちとは違うことなんだろうな。だから、先生はカッコいいんだ。

「なんか、先生がカッコいい理由わかった気がしますよ」

「おっ! 言ってくれるね。コイツ、分かってるじゃねえか」

と頭をグリグリしてくる。

「ちょ、離してください。痛い、痛いから!」

「おっと、わりいな。つい、嬉しくてな」

俺が言うと、先生はグリグリした手を放す。喜びでこういうことは止めて貰いたいものだ。

「全く、手加減ってものを知らないんだから。結構痛いですから、あまりやらないでくださいよ」

「ハハハ、すまん、すまん。・・・それとな、教師になった理由ってのはもう1つあるんだよ。まあ、これが一番の切っ掛けだな」

もう1つ理由があるのか。何なのだろうか。

「それは一体?」

「・・・俺の事を忘れちまった友を見守るためさ」

先生は今までにないくらいの儚げな表情をしていた。それは、もう絶望を味わったかのような。けど、それも一瞬できえてしまったけど。

「・・・記憶喪失ですか?」

「・・・そうだ。原因は分からないがな。けど、俺の事を忘れていやがった。もう思い出すこともなかろう。けどな、今はちゃんと学校に通ってるから、俺はそれでいいと思っている。そして、俺はしばらく見守ってやろうと思ったんだ。これが、日本からしばらく離れていない理由なんだ」

「見守るってことはこの学校に通っているってことですか?」

「・・そうなるな」

ふむ、そんな事情もあったのか。教師になる理由も様々ってことか。しかし、先生が言う友とは誰なんだろうな。まあ、聞いてもしょうがないので聞かないけど。

「とりあえず、先生が教師になった理由は分かりましたよ。そこまで考えていたなんて驚きです」

「・・・さてはお前馬鹿にしてるな?俺の事を泣き言ばかり言うダメな大人とか思ってただろ?」

・・・事実ですから、思ってなかったといえば嘘になる。

「まあ、多少は・・・」

「よーし、とりあえず、アイアンクローな」

「なっ! 止めて。マジで痛いから」

逃げ回るけど、体格差もあってから、すぐに捕まる。鍛えてる人に逃げ回るとか出来たもんじゃないか。

「捕まえた」

先生は俺を捕まえると俺の首を脇に挟めて両手をグーにして、人差し指の第2間接を尖らせるようにして、こめかみをグリグリする。

「い、いてぇぇ! 止めろ。マジで痛いからやめろーーー」

「馬鹿にしたからな。これぐらい我慢しろ」

「ギャァァァァァーーー」

その日、俺は頭の痛みが治まることはしばらくなかったのだった。

『アイアンクロー、次にやられたらお前は死ぬぞ』という予言が聞こえた気がしたのだった。

眠り木の舞姫

眠り木の舞姫

舞台は舞柳市。そこには、一本の眠り木が存在する。著しく成長の遅い大木であることから眠り木と呼ばれている。そこで舞踊っている少女。彼女は一体何者なのか。眠り木と呼ばれる木で踊る舞姫の真相や舞柳市に語られる伝説について迫る話です。 不定期に更新しますが、かなり遅めの更新になると思ってください。 ※『小説家になろう』でも投稿しております。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 時代・歴史
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-01-09

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  1. 登場人物設定
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