ENDLESS MYTH第2話ー23
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ちぎれた腕の傷口をまじまじと見るのはソロモンの男たちでも、遠巻きに腕を眺める現代の 若者たちでもない。KESYAの巫女、ポリオンである。
「これは人の仕業ではありませんね。腕は間違いなく人間の腕ですが」
冷静に状況を分析し、腕の前に屈んで、黒髪を耳にかけながらそういう彼女は、どこか艶のある表情であった。
立ち上がると周囲の製造ラインを眺めつつ、暗闇の奥底から這い出てくるような、妖気を彼女は感じ取ったように、瞼を一瞬閉じると、静かに神父を振り返り、正面を向いて、改めて初老のソロモン第三工作機関の一員に尋ねた。
「対比すべきなのではありませんか? 先ほどのトンネルの爆発で臨時システムが稼働したのでしょう、あらゆる出入り口はロックされてしまったようですし。後ろのエアロックをもう一度開き、さっきの区画へ引き返すべきでは?
それに先ほどから感じているのですが、彼らの邪気がここの区画に入ってから分厚くなっています。事変の中心部はここにあるようです」
超常的能力。直感とでもいうべきなのだろう。彼女が所属する組織は、彼女の衣服が示す通り呪術に長けた組織であり、そうした組織のメンバーであるからこそ、他者には感じることのできない、邪悪な瘴気を感じ取ることができのだった。
ソロモンとはことなった組織から派兵された者の言葉を、信用しないわけではないが、神父は首を縦に振ることはなかった。
こうした神父の姿は珍しく、一行のなかでもっとも長い付き合いのメシアですら、驚くほどである。
「まずはどこかに隠れましょう。ここにこうしていては、我々も・・・・・・」
と、ベアルドは床に転がった腕を見下ろした。
一行は移動しよとした。が、暗がりで先は見えない。スマートフォンのライトを使用することも考えたが、全員、バッテリーがなくなりかけていて、心許なく、ベアルドが所持していたライト1つでは、全員をカバーするのは難しかった。
「お任せください」
巫女がそういうと、胸の前で星の形に指先を動かした。
すると彼女の正面に真っ赤な光の球体が現出すると、そのまま彼女の頭上へ飛び、全員を照らすほどの光源となったのである。
「魔法使いみたい・・・・・・」
思わずマキナがポツネンと呟く。
これにポリオンは淡々と無表情で答えた。
「魔法とは概念が違います。私たちKESYAは五行道、陰陽道、陰陽道、呪術、妖術を基盤とした独自の術式を持ち入りますので、魔法とは道が全く相違なるものなのです」
と言われたところで、誰が理解できようか。
「講釈は良いから、先を進もうぜ」
科学的組織のソロモンのベアルドが言うと、これにはムッとした様子で彼を睨み付けた。
と、彼女は睨んでいた顔を急に別の方角へ向けた。
そこは機械と機械が並び、縦のパイプが下の階へとつながる間を通る鉄の橋がある場所だ。
鋭い、獲物の狙う猫の如き眼をしたポリオンは、直後、掌をそちらの方へかざした。途端、中空にあった光球は高速で橋の方へと飛行、橋の上部で停止すると、下方を煌々と明るく照らし出した。
「人だわ」
光の真下には無数の人影がひしめき合っていた。橋を埋め尽くすように。それを見つけたエリザベスが思わず声を漏らしたのである。
「違います」
眼鏡を指で押し上げ、神父が首を横に振った。
「あれはもはや人ならざるものへと変化してしまった者たちです」
そういうと胸の前で十字架を指で刻んだ。
「人じゃない? どう見たって人じゃねぇの。冗談はよしてくれよ」
どう見たところで確かに人がひしめき合って並んでいる光景にしか見えなかった。イラートは神父の肩になれなれしく手を置いて、ニタニタと笑った。
「冗談を言っている暇はないぜ」
少年っぽい顔をする彼の横に、黒い顔が近づいてきた。ニノラは身構えているが武器は巨大ミミズとの戦闘で宇宙空間で失ってしまい、武器にするものはなにもない。ただ、眼前の事実だけが彼の眼には見えていた。
イラートが何のことだよ、と人混みに視線を戻した。するとそこには異形の光景が繰り広げられていた。
最も前に陣取るロシア人だろうか、大柄の男の腕が不意に地面へボトリと落ちると、腕のあった場所からは、汚物のようなドロドロとした液体が流れ出てきた。
次に隣のイタリア人風の女性は腹部が赤く染まっており、そこから無数の黒い、蟻のような何かが這い出てきて、女性の身体中を這いずり回っていた。
その後ろのアジア人男性などは頭部が半分なく、脳髄が剥き出しになっていた。そこから蜘蛛のような脚が複数本出て、カサカサと動き回ってる。
身体のどこかが欠損している人間たちから、なにかが這い出てきていた。
これにジェイミーは視線をそらし、口を押さえて嘔吐感を堪える。
マキナは完全に後ろを向き、顔を両手で覆う。
エリザベスは注視しているが、身体は小刻みに震えていた。
女性たちは悪夢の光景を直視できずにいた。
「デヴィルズチルドレンに喰われたな。もうあれは人間じゃない」
冷静にベアルド・ブルは言い放つと、両手でハンドガンを構え、いつでも銃撃できる体勢を取った。
ENDLESS MYTH第2話ー24へ続く
ENDLESS MYTH第2話ー23