焔の剣Ⅵ

閃戦祭

7月24日。火曜日。午後3時。
普段ならまだ学校にいる時間だが、ボクは今、冷房の効いた自室にいる。
そう、今日は1学期の終わり。つまり、終業式の日だったのだ。
「はー・・・これでしばらく学校の奴らと会わなくて済むな・・・。」
夏休みは、周りからの暴言も嘲笑もない。宿題は大量にあるが、こんなもの前者に比べれば全然マシだ。
ただ、1つ問題がある。それは
「なーなー、アイス食べていい?モナカ。」
1ヶ月程前、ボクがエルネストのときにフザケ半分で魔術を使ったときに召喚してしまった悪魔、アスモデウスである。
別に人に危害を加えるわけではないが、本人は別に正体がバレてしまっても問題ないらしいので、たまに危なっかしい行動を取るのだ。
その度にボクが止めているが、そのときになると、本当に鬱陶しいのだ。この悪魔は。
「別にいいよ。母さんは気を使って買ってきてくれるけど、ボクあんまりアイス食べないし。」
ボクが許可を出すと、アスモデウスはサンキュー、と言いながら冷蔵庫に開けた。
こうやって明らかに人間じゃないやつがウチの冷蔵庫を開けているという光景は、いつ見てもシュールな光景だと思っていると
「そう言えば和也君さ、あっちの世界じゃそろそろアレだろ?えーっと、せん・・・・さい・・・・」
「閃戦祭(せんせんさい)だろ?分かってるよ、それくらい。」
向こうから、エルネストの世界のことを話してきた。
閃戦祭。グリーノ王国の最強の冒険者を決める(という触れ込みだが、別に冒険者じゃなくても出てよかったりする)大会だ。
エルネストはそこで3連覇しているチャンピオンなので、出なければならない決まりだ。というより、こっちの都合で大会の日が決まるのだが。
「今年で4連覇かー。いつまで続くんだろ?」
「もう優勝したつもりでいるし・・・。慢心してると足元すくわれるよ?」
珍しくアスモデウスが正論を言っている。その通りなのだが、あの大会に出るのは、秋風和也ではなくエルネスト・ベネジェートだ。
どちらも同じ「自分」なのだが、あの大会に備えられるのはエルネストだけだ。ボクは、ただその時間を待つだけだ。
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「エル、起きて!そろそろ時間だよ!」
ふとミラの声がして、目が覚めた。外を見れば、日が昇ってかなり時間が経っていた。
「あ・・・ごめん。寝坊した。」
「昨日は夜まで依頼行ってたからね、疲れてたんだよ。」
ミラも言っている通り、オレは昨日、夜の遅くまで依頼に行っていた。犯罪者関連の依頼だったのだが、敵の親玉を途中で逃してしまったのだ。
魔法で何とか(両足切断)して、やっと捕まえた頃には、もう真夜中だったのだ。
「いつもならもう少し寝ててもいいんだけど、今日は大会の日だからね。がんばってね、エル。」
今日は、閃戦祭の当日。ミラは、穏やかな笑顔とともに、応援の言葉をくれた。
「ああ、大丈夫だよ。今回も優勝してくる。」
ミラが安心できるように、オレも力強く言葉を返した。
そのまま服を着替えようとすると
「え!?ま、待って!!すぐ出てくから!!!」
部屋のドアが、すごい勢いで閉められる。別に全裸になるわけでもないのに、何であんなに照れるのだろう、ミラは。実に純情な子である。
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「えー、みなさん、えーと、がんばりましょー。」
開会式で、オレの気の抜けた挨拶が会場に響く。
こういう堅苦しいことは、どうも苦手だ。祭りって書いてあるんだから、もっとワイワイしてもいいと個人的に思う。
「ほら、レオ君、顔、顔死んでるよ、あの人wwwww」
「目に生気がないな。ウン。」
すぐ後ろで、レオとアスモデウスが話しだした。こういう話は、本人のいないところでやって欲しいものだ。和也のときも思うことである。
オレ、現チャンピオンからの挨拶が終わると、開会式は終わった。周りから、敵意や闘志がビシビシ伝わってくるようになってきた。
開会式が終わると、いよいよ全員敵だ。そして、その中には
「おう、エル!!相変わらずやる気の欠片もない挨拶だな!!」
オレの友人で、同じギルドのボニファーツの姿もあった。いつもは仲間だが、この大会では対戦相手の1人なのだ。
「去年みたいに1回戦で当たるといいな、ボニファーツ?」
「いや、アレは勘弁。1回戦でお前と当たるなんて、もう二度とごめんだよ。」
そう、去年は、お互い1回戦での対戦相手でもあった。あの筋肉の鎧を相手にするのは、倒しがいがあったモノだ。
「第1回戦、1試合目。バルドゥル・ハウアー、エルネスト・ベネジェート。」
周りから、オオ!!という声が上がる。いきなり、オレの出番である。
「ちっ・・・ボニファーツじゃなかったか・・・。」
「お前、俺に恨みでもあんのか?」
うんざりしたボニファーツの声を背に、闘技場へと向かう。
さて、楽しい時間の幕開けだ。
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「よぉ、エルネスト・ベネジェート。」
闘技場へ行くと、超いかつい顔をした青年が待っていた。雰囲気は、動物で例えるなら鮫のような感じ。
「早速で悪いが、ここで敗退だぜ?チャンピオンさんよ。」
「あのさ、そんなセリフ言ってオレに負けたやつ大量にいるんだよ。威圧感出してるつもりだろうけど、小者っぽいよ?それ。」
オレが正直な感想を言うと、会場はどっと笑いが起きた。対戦相手のバルドゥルは、もう恥以外の何者でもないらしい。耳まで真っ赤だ。
「この・・・・・ガキが・・・・・!!!」
「典型的なかませ犬だな、この人。」
もう、こんな感想しか持てない。1回戦目から、妙なやつと当たったものである。
「では、1回戦目・・・・」
色々と言っていると、審判が合図を出そうとしていた。審判と言っても、降参を聞き届けることと、失神していたら試合を止める役割しかないが。
さて、相手の力量は不明。しかし、勝つ自信は大いにある。
「はじめっ!!!!」
試合開始の合図が宣言される。そのほぼ同時に
「先手必勝ーーーー!!!!」
相手のバルドゥルが、大量の水を高速で放出してきた。何の工夫もなしに。
「あー・・・」
相手の考えは分かった。オレの通り名は「炎の奇術師」。その異名通り、オレは火の魔法をよく使う。
相手はおそらく、水魔法が得意が得意なのだろう。だから、試合の前はあんなに自信があったのだ。
ようするに、こういうことだ。
水さえ出しておけば、オレに勝てるだろうと。
「ふ・・・・っざけてんじゃねぇぞ!!!!この3流が!!!!!!」
こんな相手に、わざわざ時間を使うまでもない。
巨大水鉄砲の下をスライディングのように滑り抜け、同時に相手の両膝に小粒の炎の弾丸を撃ち込んでやる。
「がっっっ!!!!」
それだけで、相手は倒れ込んでしまう。気合いとか根性とかそういう問題ではなく、人体の構造的に無理なのだ。
無理に動かせば、膝が千切れかねない。
相手が倒れ込んでいる隙に、剣を相手の首筋に沿えてやる。
これで、勝敗は決まった。もはや、戦いと呼べるかどうかの早さだったが。
「・・・・・降参だ・・・。」
こうしてあっけなく、1回戦の第1試合は終わった。
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「早すぎだよー、エル君よー。」
闘技場から出ると、アスモデウスが話し掛けてきた。
「見たろ?あんな魔法出してハイ、終了の奴がいるんだよ。殺し合いを何だと思ってるんだ、全く・・・。」
オレが言ったことに、レオは首を縦にぶんぶん振っている。あいつも、殺し合いが見たくてここまで来てるのに、早速これではつまらなかった
だろう。
「2回戦こそボニファーツと当たれば・・・・・とっ!?」
「エル!!おめでと!!」
ミラが、後ろから飛びついてきた。ミラからしてみれば、自分の幼馴染の圧倒的勝利だったので、嬉しいことだったのだろう。
「あ、ありがとな。」
こちらは不服の結果だったのだが、向こうは喜んでくれているので、とりあえずお礼は言っておくことにした。
「やっぱりすごいね、エルは。剣も魔法もほとんど使ってないようなものじゃん。よくあんな状況で冷静な判断ができるね。」
「慣れだよ、慣れ。ミラは後方支援型だからな、あんまり前線に出ないからそう思うんだよ。」
「そっかな・・・あ、次ボニファーツさんの試合だ。見てくるね!」
じゃあね、と手を振ってミラは客席に戻って行った。
「相変わらず、あんな可愛い子に懐かれていいね~、エル君は♪」
アスモデウスが、ボニファーツみたいなことを言ってきた。その聞き飽きた言葉を発した悪魔を睨んでいると
「・・・・・なあ、エル。」
何の前触れもなく、レオが話し掛けてきた。
「なんだ?」
「・・・・・あの子、名前は?」
「?、ミラベル・ラフォンだけど、それがどうしたんだ?」
「・・・・・惚れた。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
「ほ、惚れた?!」
「ああ、最高じゃないか!!あのつぶらな瞳、サラッとした髪、ミニスカートから覗く白い脚、人懐っこく、明るいあの性格、外見も性格もドストライクじゃよっしゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!#$%&’%?#!!!!!!!!!!!」
「「ぶっ壊れた!!??」」
こうして、親友と幼馴染の三角関係が出来上がってしまった。そして、レオがぶっ壊れた。

焔の剣Ⅵ

学校が始まってしまいました(泣)

焔の剣Ⅵ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-01-06

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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