ENDLESS MYTH第2話ー21
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円盤型の構造物の外壁に取りついた時、一行の酸素残量は残り僅かとなっていた。戦闘で酸素を急激に使用したせいもあった。
腕に装着したメーターの酸素残量メーターが赤いラインに達し、危険水域なのを装着者に伝えていた。
イ・ヴェンスが取りついた壁面に丁度、扉がありそこから内部へ侵入できるようになっていた。幸い、扉はレバーを右側に回転させればロックが外れる仕組みになっており、重たい扉を開けると、全員が中へ殺到した。
が、そこからが大変であった。自動のエアロックは電源システムのシャットダウンで使用できず、1度、エアロックの小部屋へ入り、アクリルの扉を閉めてから、内部の扉を開かなければ、気圧で彼らは再び宇宙空間へ吸い出されてしまう。
そうした面倒な手間を掛けてようやく、彼らは製造区画へ侵入し、暑苦しい宇宙服の圧迫感から解放されることができた。
だが、宇宙服を脱いだところで、その場の空気が湿っぽく、身体にへばり付くのがとれないことに、全員が嫌悪感を抱いた。
「日本の夏がこんな感じだったことを思い出す」
と、ファン・ロッペンが上着の袖を肘まで引き上げた。
「なんなのこの湿気は。ちょっと、何とかしてよ」
ジェイミーが相変わらずの無茶な言動を投げかける。
「電源入れて、施設全部の空調を動かせってかぁ。お姫様にも困ったものだぜ」
呆れたようにイラートが言う。
けれども高湿度の原因を空調だけのせいでないことを、ソロモンの2人とKESYAの女性は理解していた。
「この区画は浸食がひどいようですね。ここへ来たのが間違いだったのではありませんか?」
冷静に神父の判断を否定する巫女姿の女性。
組織が違うので上官でもなければ、宗教上のつながりもなく、平然と彼を否定できた。
「援軍が来るまではここにいるしかありません。向こう側へ戻るにも、通路は遮断されてしまいました。
神父は彼女に覚悟を求めた。
「もう1つの通路があるではありませんか。トンネルは2本あるはずです」
それでも食い下がる彼女。
と、その時の事だ、微動の振動が彼らの足下から突き上げてきた。
訝しく思った全員。と、彼らが外部から侵入した場所はメンテナンスを行う技師たちの格納庫となっており、1つだけ窓が外側へ向かって開いていた。
近くに居たマキナが分厚い、四隅が丸くなった四角い窓に丸顔を近づけると、残されていた連絡通路が黒煙を上げ、真っ二つに引きされてた光景が眼に飛び込んできた。
それを背後で見たベアルドは、アサルトライフルを床に無造作に捨て、弾切れを示すと、脚に装着していたホルスターからハンドがンを抜き取り、
「退路は断たれた。ここで待つしかないぜ、姐さん」
と、冗談めいて巫女に言い放った。
不愉快そうに彼女は眉間に皺を寄せるも、沈黙でその場は口を結んだ。
格納庫を出た一行の前に広がるのは、巨大な機械の山ばかり。ただそれらのラインに絡みつくのは、生物の血管や内臓のような、生物的肉のツルであった。
一行が見てきた浸食は、ここにきてさらに進行度を増していたのであった。
「浸食の中心はここのようですね」
神父がそう呟いた時のこと。
「キャァ!」
背後でマキナの悲鳴が足音を鳴らした。
全員が振り向いた時、彼女の顔は暗闇でも蒼白になっているのが分かった。
そして彼女が震えながら指さす方角に皆が視線を移動させた時、背筋に毛虫が這うような気分を全員が舌先で味わった。
鋼鉄の冷たい床に腕が見えた。ただし身体から離れ、ちぎれた人間の血まみれの腕が。
ENDLESS MYTH第2話ー22へ続く
ENDLESS MYTH第2話ー21