第11話 リンク・フュージョン
翌朝、二人は各々の手を見つめていた。
なぜ…触れられなかったんだろう…隆乃介さん……。
なぜ…触れられなかったんだろう…希美子……。
各々の思いは繋がった。
だがあまりに気まずくて学校ではお互い目をそむきあってしまっていた。
日曜日、午後17時。
思い切って隆乃介は希美子の家へ向かった。
隣なのでものの数秒といったところだが。
ピンポーン。
「はーい、どちらさまです…か……」
ドアを開けざまに希美子は固まった。夢で出会った隆乃介が目の前にいるからだ。
「り…じゃない、先生…どうしたんですか?」
「……。」
しばし無言の隆乃介。
「せ、先生…?」
やっとも思いで隆乃介は口を開いた。
「話が…あるんだ…親御さんは?」
「あぁ、今は留守なんです…でも、どうぞ…。」
希美子は隆乃介を家へあげた。
初めて見る希美子の部屋。
さすがに読書が趣味なだけあって小説が本棚にずらっとしまわれている。
几帳面なのか、部屋はきちんと片づけられており、ピンクを基調としている、いわゆる「女の子の部屋」そのものだった。
「コーヒーで、いいですか?」
「あぁ、そんなお構いなく……。」
と言ってる間にキッチンでコーヒーを入れる希美子。
なんだか家庭的な一面もあるんだなと感心する隆乃介。
いかんいかんっ。
今日は夢の話をしに来たんだっ!!
「どうぞ…お口に合えばいいんですけど…」
「いやいや、気持ちだけでも十分だよ、ありがとう。」
隆乃介はにこっと笑って見せた。
希美子はさっと目線を逸らしてしまったが…淹れ立てのコーヒーは本当においしかった。
いつ、切り出そう……。
なかなか突破口が開けない隆乃介に、話し始めたのは希美子の方からだった。
「先日……夢を見たんです……」
「ぇ、へぇー…どんな?」
「ど、んな…?」
表情を曇らせる希美子。
「もし違ってたら思い過ごしだと思います…でも…」
「…でも…?」
「先生?あなたが夢に現れたんですっ!手を伸ばしてもどうしても触れられない夢…あの夢を客観視している今の私たちが…」
「わかった、もういい…もういい……。」
隆乃介が制した。
「俺も……その夢を見たよ…それを確かめるために来たんだ…希美子……。」
目を見開き驚く希美子。
初めて「佐伯さん」ではなく「希美子」と夢と同じように呼ばれたのだから…。
「……隆、乃介…さん……。」
希美子の目から涙があふれ、零れ落ちた。
「やっぱり、同じ夢を見てたんだね…俺たち…」
「真相に……触れる、のが…怖かった…です……」
「手に、触れてもいいか?」
隆乃介がやさしく話しかける。
こくりと頷く希美子。
「あったかい…」希美子は不思議と気持ちが通じ合った気がした。
「不思議だな…夢では触れられなかったのに、現実では触れられる…。」
不意に隆乃介は希美子を抱き寄せた。
「……!!隆乃介さんっ!!」
「大好きだよ…希美子……俺が守るから…。」
「私も…大好きです…隆乃介さん……心から…。」
二人はしばらく抱き合ったまま、離れることはなかった。
しかし、まだ問題は残っている。
夢の意味、ペンダントの謎…。
これを解くのに時間はかかりそうだ…。
今は二人をそっと見守ろう…。
第11話 リンク・フュージョン