O型

夏休み。この炎天下。僕は部活もしていなければアルバイトなどもしていない。この約40日間は苦痛でしかない。ある意味學校にいる方が楽しい。僕は、本当に退屈でしかないのだ。暇で暇で暇で、とにかく暇。することもなく、かといって課題をする気にもなれない僕は、いつも部屋でゴロゴロと暇を持て余していた。
 「健介~!起きなさーい、ご飯よー!」
「・・・・ん」
朝、重たい瞼を無理やり引きはがすようにして時計を見て、僕は重たい足取りで一階のリビングへと向かった。
「あらめずらしい、夏休み入って初めてじゃない?呼んで起きてくれたの」
降りてくるなる僕の顔を見て母はそういった。
「本当はいつも聞いてたけどね・・・」
あくびをこらえながら母の問いかけにこたえる。母はあきれ顔でため息をついた。
「ほら、冷めるから食べちゃいなさい」
母は椅子に腰かけると、僕の朝食に指をさしてそういった。僕は手で目を擦りながら椅子に座る。
夏休みが始まって二日目。もう二日も経ってしまったのかという思いと、まだ二日しかたっていないのかという絶望感の間の気持ちでいる。目の前に座る母は夏休みだというのにも関わらず朝から早起きをして家事をしている。
僕の家族は母と僕の二人だけだ。父は二年前、僕が高校に入るのと同時にこの家を出て行った。単純に母との離婚である。原因は父にあるらしく、父がほかの女に目移りしたのだとか。もともと父の務める会社には若い女が多く、母は僕に直接は言ってはこなかったけれど、父があるとき急になんの連絡もなしに家に帰ってこない日があった。それも三日間も。明らかに怪しい。帰ってきても父はそのことについて何も話さなかったし、母も聞こうとはしなかった。そして、その二か月後に、離婚したというわけだ。僕はどちらに付くのか、父が出ていくとき母に聞かれたが、その時の母の顔があまりにもひどく、涙ぐんでいて、それとは対照的に父の表情はあきれているような、厄介そうな顔をしていたので、僕は必然的に母を選んだ。そのあと母には泣いて謝られたのを今でも鮮明に覚えている。
僕は、父のような人間にはならない、なりたくない。そのときそう決心した。
と、そんな話はともかく、僕は食パンを口にしながら、なんとなくニュースがついているテレビに目をやった。
「それではつづいてのニュースです。近年ストーカー被害が度重なっていますが、警視庁の捜査により調べたところ、加害者側の血液型が90%の確率でO型とうのが判明いたしました。それについて警視庁の方では、O型の血を持つ人のストーカー診断を実施し、危険と判断された対象の人に関しては、一度話を聞きこむのだそうです。そして、結果が変わらないようであれば、動物の保健所の人間版を作り、そこで数年の間管理するといった報告が出ました・・・それにより・・・・」
「げほっ・・・っ!」
なんとなく目にしたニュースであったがとんでもない内容に思わずむせる。
なんだこれ・・・・最近まったくテレビとか見てなかったけど、今の日本こんなくそになってんのか。いや、ストーカー被害が多くなってることに関しては仕方ないとは思うけれども、何も人間版の保健所作らなくたって・・・・そんなの死刑と同じじゃないか。
「あらあ・・・・これ本当なのかしらね。だとしたらよかったわね。私も健介もO型じゃなくて・・・」
ほっとしたように胸をなでおろす母。僕はB型だし、母もAB型で、今報じられたニュースには一切関係がなかった。
だが、僕の人生この日を境に少し変わっていく。
朝飯を食べ終え、顔を洗い、パジャマから私服に着替えると、僕は今日こそはと思い財布を片手に外へ出ると、隣町にある大きなゲームセンターへと足を運んだ。
理由は特にはないが、僕は大のゲーム好き。それも音ゲーだ。特にイベントがあるわけでもないが、さすがに今日もこの暑い中意味もなくすることもないのに家でだらだらしているのには耐えきれなくなったので、しぶしぶゲームセンターげ行くというわけである。
母には図書館に行くと適当に伝え、僕は自転車にまたがると、力強くペダルを押した。
久しぶりに感じる日光。走り出してわずか五分ちょっとでもう少し汗をかき始めた。中にシャツでも着てくるべきだっただろか・・・あと制汗剤も・・・いくら目的地がゲームセンターだからと言え、汗臭いと周りにも迷惑だし、僕自身もあまり気分がよくないと思えた。しかし今更家に戻るのもめんどうだったので、そのまま向かうことにした。着ていたTシャツに汗がべっとりとついていることに気づいたのは、それからちょっとした事だった。信号待ちをしている際に妙に背中に冷たいものを感じたからだ。
恐る恐る背中に手を伸ばしてみると、明らかに汗が背中全体にしみわたっているのが確認できた。僕は絶望し、冷や汗が出てきた。幸いTシャツの色は黒だったので目立ちはしないが、この冷たさが続くのだと思うと、がっくりと肩を落とした。
途中薬局を見つけたので、そこで制汗剤を買っておいた。
「ふう・・・やっと着いた・・・」
最後の方は全速力で運転したため少し息が上がっていた。自転車を適当に止め、目的地のゲームセンターへと軽い足取りで向かった。
ゲームセンターに着くなり僕はトイレに入り、急いで制汗剤をポケットから取り出して全身につけた。
「す・・・・涼しい・・・」
自分の顔をなんとなく鏡で見ながらそんなことをしてると、誰もいないと思っていたのに急に個室から水を流す音がしたので、まずいと思った僕は急いで制汗剤をポケットに入れ、その場を後にしようとしたその時だった。
「浜松?」
「・・・・え?」
トイレの扉に手をかけた時だった、個室から出たであろう誰かに僕は自分の名字を呼ばれたのだ。
恐る恐る振り返ると、そこには中学時代の友達である雄太郎がそこにいた。
「雄太郎・・・?」
「おう、お前、こんなとこ来るようなキャラだったっけ?」
中学の頃の僕は今とは全然違っていてゲームセンターに一人で来るようなキャラではなかった。むしろいつも誰かと一緒にいて友達に家に勝手に上がり込んで、時にはおとまりなどもしていたりして、こんな陰気くさい雰囲気ではなかったはずだ・・・きっとこれは母と父の離婚も原因しているのかもしれないが。

O型

O型

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-05

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