モイライの糸
モイライの糸
お題『街中』『犬』『使者』
その日もやはり、山崎和也はそこを訪れた。
渋谷程大きくもないが人通りの多い交差点が見渡せるカフェテラスのその席が、山崎の定位置だった。そこに座ると、街中が大きく視界に収まるのだ。良く見えるという事が重要であった。勿論山崎はその店のコーヒーが気に入っているし、飲みに来ているというのも目的の一つであったが、それ以上に観察をする事が大きな割合を占めている。
山崎は作家であった。
一度新人賞を取っただけの、しがない作家だ。それも今ではただ運が良かっただけなのではないかと思える程、それ以降の作品はどれもこれも鳴かず飛ばずであった。時々商業誌に載せて貰えるだけありがたいのかもしれないが、コンスタントに掲載され本にでもならなければ、それで食っていると言える程のものではない。言わずもがな、給金は雀の涙程であったし、日銭はアルバイトで稼いでいるのが現状だ。
これが二十代の前途ある若者であるのならまだ救いがある。諦めるにしても打ち込むにしても、未来は如何ようにでも変えられるからだ。
だが山崎はもう四十を越えている。
正直なところ、もう後がない。
これですっぱり諦められればいいのだが、三十代の頃中途半端に取った栄光のせいで踏ん切りも付かない。どこかでまだやれるのではないかと、自惚れているのだ。
そして何より、もう軌道修正が効かない年齢であると自覚している。
今から正社員になるとして、面接を通過出来る自信がない。二十代の頃数年働いていただけの人間を率先して雇ってくれる企業があるとは思えないのだ。
だから山崎は、半ば挫折したいと願いながらも今の生活をただ諾々と続けている。
やり直したいと思う。せめて二十代のあの時、馬鹿な考えはせず会社を辞めなければ良かったのだとも思う。勤め人をしながらでも小説は書けたのだ。むしろ社会との繋がりがある方がより良い作品を打ち出せたかもしれないとすら思う。社会とは、ネタの宝庫であったと、今更ながら思うからだ。
そうして悶々とする度、もういっそ死んでしまった方が楽なのではないかと思う事もあった。だが夢を捨て切れない山崎には、人生を捨て切れる程の度胸も潔さもなかった。
結局、山崎はどれもこれも中途半端なまま、中途半端に生きている。
そして山崎は、その日もそこに居た。
世間との繋がりが途切れた独身の男にとって、カフェテラスで眺める人々の群れはまさに社会であった。そこには様々な人間関係があり、欲望も希望も、何もかも混ぜこぜになった縮図のようなものだった。
だから休みの日になるとそこを訪れ、手元の手帳に人をメモしていく。その日そこに居た人々はどのような人たちであったか、喧嘩をしているような恋人たち、汗を拭きながら電話口で謝るサラリーマン。悲劇の『ひ』の字も知らぬようにはしゃぐ高校生たち。女二人男一人のあのグループは本当に仲が良いのかどうか――それら全てが作品を描く上での点になる。
山崎はその日もテーブルにノートとボールペンを広げて、街中を眺めながら店員を呼んだ。
「あぁ、山崎さん。こんにちは。今日は遅かったですね?」
注文票を持って現れた店員とはもう顔見知りである。
「ちょっと寝坊しちゃって……」
「また遅くまでプロット、でしたっけ。練ってたんでしょ。駄目ですよ、ちゃんと睡眠取らなきゃ」
この小さな店では、山崎が作家である事は知れ渡っている。だから時々こうしてからかわれる事もあるのだが、日々くさくさしているだけの山崎にはそれも心地の良い時間だった。
「今日はちゃんと寝ます」
「そうしてください。いつものでいいですか?」
口許に照れたような笑みを浮かべた山崎を見つめながら問う店員に小さく頷く。店員は少々お待ち下さい――と言い残してその場を立ち去った。
その背中を追った後、山崎は人混みへと視線を戻した。
今日はどんな人が居るだろう――。
鬱々とした日常の中で、それが唯一心の晴れる瞬間だった。作品創りに没頭している瞬間は、やはり楽しいのだ。
その日最初に山崎の目に留まったのは――奇妙な男だった。
かなり目立っていると言えば聞こえは良いが、浮いていると言った方が近い。それもそうだろう。その男はウイングカラーのシャツに灰色のネクタイを締め、同色のベストを身に付けている。上着には黒のフロックコートを羽織り、極めつけはボーラーハット――所謂山高帽である。まるで十九世紀からタイムスリップして来た英国紳士のようであった。
その男が、何故か犬を連れて突っ立っているのである。
それも例えば駅前だとか、何かのモニュメントの前であるとか、壁際とか道の隅とかではない。交差点のど真ん中に立っているのである。
山崎は咄嗟に何かの撮影だろうかと思った。渋谷のスクランブル交差点風というよりはそのまま真似たようなこの街の交差点は、時々撮影に使われていたからだ。しかし機材と思しきものはどこにもないし、スタッフと思われる人間も居ない。
さては隠しカメラで撮影しているのか――。
そう思った山崎と英国紳士の目が、合った。
――あぁ、やばいかもしれない。
反射的にそう思う。良い事が起きる予感がしなかったからだ。だが山崎の作家としての勘が、男から視線を外す事を許さない。
結局、男は何故か楽しそうに笑って近付いて来た。
「いやぁ、どうも。今日は素晴らしい陽気ですね」
そう言って一瞬帽子を引き上げた男の声は溌剌としていて曇りがない。深みがあるように聞こえるのは、男の恰幅が良い所為かもしれなかった。
「……あぁ、どうも……」
あまりにフランクに近付かれた事に戸惑いながら、何とかそう返す。
「貴方、私の事ご覧になられていらっしゃった。間違いありませんね?」
「あぁ、すみません。目立っていたもので、つい……」
「謝られる事はありません。いえね、目が合ったのは気のせいだったのだろうかと、そう思ったものですから」
恰幅も格好も大仰な男は、やはり芝居がかった仰々しい喋り方をする。それに圧倒されている内、男は山崎の向かいに腰を掛けてしまった。
「いやぁ、今日は本当にいい陽気だ。こういう素晴らしい日は死ぬのに向いている、そうは思いませんか」
「……は?」
男はやたら軽快な音程で手前勝手に言うと、まるで楽しい話題であったかのように満面の笑みを浮かべている。
「おや、ネイティブアメリカンの言葉をご存知ありませんか。大地と共に呼吸が出来、自然の力を感じ家族も笑っている。こういう日は死ぬのに丁度良い――」
「……あぁ、不勉強で、すみません」
男の言葉が比喩であった事に山崎は少し安堵する。陽気そうに見えるこの男が自殺志願者なのではないかという不安が解消されたからだ。
「何、不勉強を恥じる事はありません。不勉強だという事は、勉強すべき事が溢れているという事でしょう。楽しいじゃありませんか。生きる価値がある。まだまだ学べるという事は素晴らしい事ですよ」
ええ、そうです――と、男は自分で納得し目を細める。
そこで店員がコーヒーを運んで来た。男はコーヒーに視線を落とし、そしてテーブルに広げられていたノートへそれを移した。
「あぁ、これは失礼致しました。お勉強の最中でしたか」
「あぁ、いえ、これは勉強と言うか……。僕、小説家なんです。それで、ネタを拾いにというか気晴らしというか……まぁ、そんな感じで」
「作家さんでしたか。それは素晴らしい。想像には限りがありませんからね。ええ、そうでしょう。そうに決まっていますとも」
やたらと肯定する男に、山崎は少し面食らう。小説家をやっているなどと言えば、儲かっているのかとか止めておいた方が良いなどと言う人間ばかりだったからだ。少なくとも、素晴らしいなどとは一度も言われた事がない。
「それで、何か良いネタは拾えましたか」
「あぁ、それが最初に目についたのが……あ、えっと……」
「これはこれは申し遅れました。私、こういう者でして」
山崎は相手をどう呼べばいいのかと、片手を相手へ差し出したり頭へやったりする。それで察したのか、男はコートの内ポケットから一枚の名刺を差し出した。
「……株式会社モイライ……?」
聞いた事のない名前だった。それだけではない。その名刺には『アトロポス支店モロス課』という更に何の事か解らない事が書いてあったのだ。
「ごめんなさい。これはどういう……」
「そうでしょう。大抵の方は何の事か解りませんね。一度で理解した方は見た事がない。まぁ、解りやすく言えば地獄からの使者、有り体に言えば死神、といったところで間違いはないでしょう」
「……死神?」
ここでやはり、何かの撮影なのだとそう思った。目の前に死神と名乗る人間が現れたら人はどうするか、とかいう実験番組なのだろう。それで山崎は安堵したし吹っ切れもした。だとするなら、ここは騙された振りをして根掘り葉掘り聞いてやろうと思ったのだ。
「死神って、鎌とか持たないんですか」
「持ちませんねぇ。ええ。あれは何の為に使うんでしょうねぇ。魂を狩るという意味なのでしょうが、我々は狩るのではありませんからねぇ」
「狩るのではない、とはどういう意味でしょう」
「人間の運命は糸なんですねぇ。創造主が紡いだ糸なんです。それを断ち切るのが我々の仕事ですから、持つならハサミですねぇ。ええ、随分と間抜けになりますけれど」
そう言うと、男は腹から良く響く声で笑う。
確かにハサミを持って枕元に立たれたところで怖くはないかもしれない。
「それで……えっと、城之内さんはどういうお仕事をされてるんですか? 株式会社って書いてありますけど、死神も会社に所属してるんですか?」
この英国紳士風の男は、城之内勇一郎という酷く日本的な名前を持っている。だがそれすら作り物なのだろうと思えば合点も行く。こういったギャップはあればある程番組は盛り上がるからだ。
「そうですねぇ。地獄には様々な会社が存在しますよ。まぁ、効率化を求めた故の選択と言ったところなんでしょうが、中々にシビアなものです」
地獄が組織化している、など馬鹿げた設定だとは思うが、それも面白い発想だと山崎は思う。
「それで、どういうお仕事を」
「あぁ、そうでした。これは失礼を。我々の仕事は淘汰する事ですねぇ、ええ」
「淘汰」
「ええ、人類が好きに任せて人口を増やせば均衡が取れなくなりますねぇ。食料が減る、住む場所も、仕事も自然も何もかも減りますねぇ。そうなるとバランスが悪くなる。これは人類にとっても良くない事でしょう。ですから我々がその均衡を保つ為に間引く訳ですねぇ。必要のない魂はあっても邪魔なだけですから、そういうところから選んでいく訳です。ええ、汚れ仕事と言えばそうなりますねぇ」
急に剣呑になった内容に、どういう青写真が描かれているのか山崎は作家の頭を疑った。城之内の話は倫理違反になるのではないかと思ったのだ。
「……あの、これ番組ですよね? いいんですか、そんな事言って……」
さすがに心配になった山崎は、城之内へ身体を寄せ出来るだけ小声で囁いた。
「……番組?」
不思議そうな顔をする城之内に、山崎は思い切り顔を歪めて頷く。それをきょとんと眺めていた城之内は、突然大きく笑い出した。
「貴方勘違いをなさっているようだ。私は喪黒福造じゃありませんねぇ。そんなアニメがあるようで、良く間違われるんですけどねぇ。ドーンなんて言いません」
城之内は笑ったまま山崎の顔を指差した。確かに恰幅といい服装といい似ているのは似ているのだが、そんな事は思ってもいない。
「……いや、いやいや、思ってないです」
だから顔の前でそう手を振ると、城之内は小さく肩を竦める。
「これ撮影ですよね? どの局ですか?」
山崎はお蔵になっても構わないと辺りを見回した。そうすればどこからかスタッフが駆け寄って来ると思ったからだ。
「あぁ、なるほど。撮影と勘違いされていらっしゃる訳ですね。ですがねぇ、残念ながらそのご期待には答えられないんですねぇ、ええ」
「いや、いいですよもう。だって犬連れた死神なんて居る訳ないじゃないですか。僕最初から気付いてましたって」
山崎はリードに繋がれ、先程から置物のようにじっとしている赤毛の犬を指差す。
「ポベートールです」
「は?」
「ですから、彼はポベートールです」
「いや、柴犬でしょ? どう見たって柴犬――」
「ポベートールです。彼は私の善き理解者でありパートナーです」
一瞬そういう犬種があるのかと思ったが、そこに鎮座している犬はどう見ても柴犬である。
「あ、名前かなんかですか?」
「いえ、ポベートールはポベートールです。それ以上でもそれ以下でもありませんね、ええ」
だから山崎は相手が何か勘違いしているのではないかと思ったのだが、笑みを消した城之内はそこから一歩も引こうとしない。
「……だから柴犬だろうが――」
山崎は小さな苛立ちを舌打ちとぼやきで吐き出す。
「ポベートールです。何度も言わせないで頂きたい」
「解りましたよ……。ポベートールなんですね……」
途端ににじり寄るように近付いた顔に驚いた山崎は何度か頷いて見せる。
何故そんなに固執するのか理解出来ないが、所謂愛犬は家族ですと言い切る人間と同様なのだろう。彼らは絶対に犬だと認めないと経験上知っているから、無駄な押し問答をするより認めた方が得策だ――というのは建前で、城之内の威圧感に圧倒されそうになったというのが本心である。
「そう。ポベートールですねぇ。ええ、そうですとも」
予想通り酷く満足そうにそう言うと、城之内は上げていた腰を椅子へ落ち着けた。
「……何の為に連れてんスか」
「ペットです」
――パートナーじゃねぇのかよ。
口から出そうになった言葉を、コーヒーで無理矢理押し流す。
段々扱いが雑になって来たのは、そろそろこの茶番にも飽きて来たからだ。もしこれが放送されるのであれば、この設定は使えない。ならば長く続けても意味がないのだ。だがこのやり取りの間も、スタッフらしき人間が近寄って来る様子もない。まだ続けると言うのだろうかと、山崎は少しだけうんざりした気持ちになった。
「じゃあお聞きしますけど、次誰が死ぬんスか」
こうなったら破れかぶれだと直球を投げる。放送禁止用語にどれが当て嵌まるのかは知らないが、不謹慎な話をすれば今度こそ飛んで来るだろうと思ったのだ。
「次、ですか……」
「そう、次ですよ。次殺すのは、誰なんスか」
――答えられる筈もない。
山崎はそう思った。
「間もなくですねぇ」
だが予想に反し、城之内はやたらゆったりと椅子に背を預けると、深みのある声でそう言い幾度か顎を引く。
「ええ、間もなくです。そうでしょう、間もなくに決まっています」
「間もなく? 随分曖昧ですね。適当に言ってるんでしょう? 場所は?」
「そこの……交差点ですねぇ。六名、亡くなりますねぇ。明日を嘆き未来を憂いた魂が、間もなく……消えますねぇ……。悲しい事です。それでも喜ぶべき事です。死にも学びがある。自分の魂で均衡が取れるのだと知れば、喜ぶべき事ですねぇ……。せめて死に相応しい素晴らしい日であるように願いましょう」
ええ、そうです。そうですとも――男はそう言って、泣いているのか笑っているのか解らない顔をした。
※
「――さん。山崎さん! やーまーざーきーさん!」
遠く聞こえる声が間近に迫った頃、山崎はハっと意識を取り戻した。
「……あ、ごめんなさい……。僕……寝てました?」
「ぐっすりですよ。だから言ったんですよ、ちゃんと寝てくださいって」
寝ていたのだと気付いたのは、寝起き特有の頭の怠さを感じたからだった。まだ腕に沈み込みそうになる頭を必死に動かして辺りを見回せば、ここへ来てから見た風景と変わらない景色が広がっている。
「ごめんなさい……。どれくらい寝てました?」
「やー、解かんないですけど、今注文持って来たんで十分か十五分くらいですかね?」
「……結構寝ちゃってたな……。すみません、ほんと……」
「いやこっちはいいんですけどね、風邪引いちゃいますよ。大丈夫ですか?」
「や、大丈夫です……。何か変な夢見ましたけど……」
ネタ考えながら寝るからですよ――店員はそう言って笑うと、山崎の前にコーヒーとピラフを置いた。
「今日はもうこれ食べて帰った方がいいですよ」
「そうします」
山崎は眠気覚ましのコーヒーに口を付けながら、何だ夢だったのか――と、少しだけ残念に思った。だが半分は、道理で設定が飛んでいる筈だとも思っている。犬を連れた英国紳士風の死神など、それこそ妄想の世界でしか有り得ないのだ。
城之内勇一郎とポベートール――あの身なりなら普通逆に名前を付けるだろうと、今更ながら笑いそうになる。それをピラフで押し込んで、山崎は街中へ視線を向けた。
いつもと何ら変わらない人混みがそこにある。
大勢が行き交い、それぞれに様々な人生を持っている。お天道さまは天で輝き、風も心地好い。店内からは楽しそうに会話する声が聞こえていた。それに合わせるように、木々も青く茂った葉を揺らしている。
――あぁ、いい日だ。
誰かの死を予言するような夢を見た所為か、山崎は珍しくそう思うとスプーンでピラフを掬った。
「きゃあ!」
突然聞こえた何かを引き裂くような声に噎せそうになった。咄嗟に声のした方へ顔を向ければ、
そこには男が立っていた。
山崎から数メートルも離れていない。
眼光は爛々と輝き、中空を漂っている。全身で呼吸をしているのか、肩が大きく揺れていた。
――あ、まずい。
山崎はありありと感じる危険に竦む身体を無理矢理動かそうとする。
カチリ――手元から落ちたスプーンが皿に当たった音がした。
それからはあっと言う間だった。
男は手に持っていた包丁のようなものを振り回し、人々を次々に斬り付けていく。男が山崎にぶつかり、そのまま押し退けるようにしてその場に倒した。叫び声と鉄臭い血の匂いが鼻を突く。
その向こうでは騒ぎを聞きつけた人々が逃げ惑っている。交差点は逃げる人々で混乱し、転ぶ人もそれを踏む人も現れた。誰かが大声で捕まえろだとか、警察を呼べだとか救急車だとか叫んでいる。その雑踏に紛れ、幾人もがカメラやスマートフォンを向けていた。
山崎は――それをウッドデッキの上から見ていた。
床に叩き付けられたまま、横倒しになった人々をただ見ていた。混乱と非日常と、混沌が入り交じるその社会の縮図をただただ、じっと見ていた。
腹が熱い――。
動けない――。
死ぬ――のかな――。
山崎の視線の先、交差点の中央に英国紳士が立っている。
「素晴らしい日だ。死ぬには完璧な、素晴らしい日だ。ええ、そうでしょう。そうですとも」
「……何で……僕……なんだ……」
「貴方死にたいと願ったじゃありませんか。いっそ全部終わらせたいと。そうでしょう? ええ、そうでしたとも。生きる気力のない魂はあっても無駄――そうは思いませんか――」
薄れゆく意識の中で山崎は、一瞬でも死を願った事を後悔した。あの瞬間、自分で自分の命を要らないものだと宣言したのだと気付いたからだった。
生を願わない邪魔な命は淘汰されるのだ。
この世界の均衡を保つ為に。
僕らは常に運命に管理され、監視されているのだと――。
(了)
■ 注釈
モイライ…運命の三相女神
アトロポス…モイライの一柱。未来を司り、運命の糸を切る役割とする
モロス…死の定業、運命を司る神。人間の死を定義し支配するとされる
ポベートール…夢の支配者。獣の形を取る夢であり、悪夢を生むとされる
(Wikipediaより)
モイライの糸
この作品は「あなたの書く小説のお題だしてみたー」様からお題をお借りしました。
表紙画像 : いもこは妹 様 http://www.pixiv.net/member.php?id=11163077
この場をお借りし、御礼申し上げます。