第9話 別視点~シャットダウンからの復帰~

「んで?話ってなに?」
希美子とは違って軽くつっけんどうな隆乃介。

それもそのはず。結果はともあれ、希美子とのデートを仕組んだ張本人なのだから。


「希美子…まわりの目を気にして先生と距離置いてるの、わかってますぅ?」
「わ、わかってるよ……。」
「それでいいんですか?本当に?」
「いいのか…ってどういう…」
「本当は希美子のこと、好きなんでしょ?なのに一生懸命先生ヅラしてさ、こっちはなんかじれったくてさー。」
「草間…一応俺、先生なんだけど……」
「そんなの、関係ないっ!!!!」

「えっ……」

「大事なのは好きかどうか、でしょ?先生だからとか、生徒だからとか関係ないじゃないっ…ですかぁー。」


無理やり敬語を使う薫に隆乃介は爆笑してしまった。

「な、なに笑ってるんすかぁー…」
軽く頬を赤らめる薫。

「いや、気を使うことないのは草間のほうだよ…あぁー、笑った笑った……あははははっ」
「いや、まだ笑ってるしっ」
憤慨する薫。


「いや、悪い悪いっ。ただね…佐伯さんは考えがあって俺のことを避けてるんだと思うんだ。だから…」
「深追いしないってか?」
「うん。立場上もそうだけど、色々、考えたり悩んだり…ため込むタイプだと思うんだ、佐伯さんは。だから俺は見守ることしかできない…」
「先生……」
「はい、話は終わりっ。次はホームルームだ、教室へ行こう。」

「あっ!!」

と薫が思い出したように口を開いた。

「どした?急に。」
「そうそう、体育の授業中、希美子が倒れたんだ…」

一瞬、頭が真っ白になる隆乃介。
事の詳細はすべて薫の口から語られた。

「……悪い、草間……授業、ちょっと遅れるわ……」


隆乃介は資料閲覧室から飛び出すように走り出した。
それを見て薫は親指を立てて

「いってらっしゃーい♪」



希美子は夢を見ていた。また少年の夢だ。
また夕べと同じように壁に頭を打ち付け、自分を責める少年と、止めきれない幼き希美子の姿。
今度ははっきりと少年の顔が浮かんでいる…見たことがある…

……あれは……


「……さん!…えきさん!!」
「佐伯さんっ!!」

はっと目が覚める希美子の目前に隆乃介の姿があった。

「し、柴田先生?どうして…ここは…あっ…いったぁー…」
まだ生理の痛みから解放されてない希美子。


私……どうして保健室に?
あ、そっかマラソンで倒れたんだわ……って生理中……やだ、先生もいるし……。


保健室の先生が痛み止めを持ってきてくれた。
「女性特有のものですよ、柴田先生。そんなに心配なさらなくても大丈夫です。」
「え、あぁ……えぇ!?」

思わず頬を赤らめる隆乃介。


気まずい…心配だったとはいえ、気まずすぎる…。


「佐伯さんも、朝から不調だと思ったら必ず体育は見学すること、いいですね?」
「あ、はぃ…すいません…」
「痛みが引くまでもう少し休んでて大丈夫だから横になってて。後でクラスの子に制服持ってこさせるから。」
「ありがとうございます…。」

「柴田先生もホームルームでしょ?いいんですか?こんなところで油売ってて。」
「あっ!!しまったっ!!んじゃぁ佐伯さん、お大事にねっ!!良くなったらいつでも来て大丈夫だからっ!じゃっ!!」


先生…まさか、私のことを心配して…来てくれたの……?


希美子は嬉しかったのと同時に徐々に自分の気持ちが抑えられなくなっていくのを感じていた。


好きです…先生……いえ、隆乃介さん……。

第9話 別視点~シャットダウンからの復帰~

第9話 別視点~シャットダウンからの復帰~

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-04-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted