焔の剣Ⅴ
チャレンジ魔術
6限目の授業が終わる。今日も、辛い1日が終わった。
しかも今日は、いつもの周りからの嫌がらせに加えて、中間テストという非常に疲れるイベントがあったためか、何だかいつも以上に体が重い。
早くエルネストの時間になってくれ・・・。そんなことを思って清掃の準備をしていると、近くにいた女子生徒の会話がふと耳に入った。
「ね~、昨日のテレビ見た?」
「超能力のやつでしょ?あれヤバかったよね~。」
超能力、という単語が、ボクの頭に引っかかった。それと似たようなものを毎日見ているせいか、そういう話題には敏感になってしまった。
まあ、アレは魔法か・・・と考えていると、その女子生徒が「うわ、秋風のやつこっち見てる・・・気持ちわるっ!」とか言い出したので、早めに
退散することにした。
それにしても、超能力か・・・。何故かその単語が、気になってしまった。
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ボクは家に帰って、パソコンを開いた。
頭に引っ掛かった超能力というものが、どうしても気になってしまい、ちょっと調べることにした。
もしかしたら、この中にボクと似たような人がいるかもしれない、という淡い希望もあったが、もちろんそんな話は無かった。
しばらくパソコンと睨めっこしていると、あるものを見つけた。
「魔術?」
超能力のことを調べているつもりが、魔法のことに脱線してしまい「こんなの魔法じゃないよ、本当の魔法はもっとすごいよ。」などと、
この世界の魔法像にダメ出ししていると、何故だか魔術のサイトに行きついてしまった。
「悪魔の召喚って・・・できたら今頃世界終わってるぞ・・・。」
そこには、大がかりな魔法陣が書いてあり、「危険なのでやらないで下さい!!!」なんてコメントが書いてあった。じゃあ、なんで載せたんだよ。
まあ、これで未だに世界が滅びていないということは、結局なにも起こらなかったんだろう。世界中探せば、何人か実行した人はいるだろう。
ただ、こちらの世界で失敗しても、向こうの世界、エルネストの世界ならどうだろうか?
そんな疑問が浮かんでしまい、思わずやってみたい衝動に駆られてしまった。
ボクは何とかして、魔法陣を暗記した。そしていよいよ、和也の時間に終わりがやってきた。
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「よし、ここでやるか。」
オレは起きるとすぐに、街の郊外にある平地にやってきた。
魔法陣は、ばっちり覚えている。さて、やってみるとしよう。
「陣は・・・まあ、魔法で引けばいいか。」
そうすれば早いし、後始末も簡単だ。オレは早速、炎で魔法陣の形を作り、そして
「いでよあくまー。」
なんて、気の抜けた言葉を発した。こんなとき何て言えばいいか分からないので、適当に言ってみたのだ。
・・・・・何も起こらない。
この世界には魔法はあれど、魔術なんてものは無い。それは最初から分かっていたことだ。
何だか急に、こんなことをやろうと思った自分に恥ずかしくなってきて、もうここからギルドまでダッシュで帰ろうと決意した。
そのとき
「あれ、帰っちゃうの?折角来てあげたのに。」
・・・・・なんか、聞こえた。さっき、魔法陣があった所から、高い声が聞こえた。
高い声と言っても、女の声ではない。金切り声みたいな声だ。
「ね~、なんか言ってよ少年。いや、マスターって言ったほうがいいのかな?」
もう、確実だ。どうやら、オレは本当に悪魔を召喚してしまったらしい。
そうと分かれば、振り向かないわけにはいかない。覚悟を決めて、振り向いてみた。
見た目は、人間と似ていると言われれば似ている。しかし、人間かと聞かれたら、確実に違うと言えるような感じだ。
服は、アラビアンナイトのような露出の多い服で、そこから見える肌は真っ黒。肌が焼けているとか、そういうレベルではなく、ほぼ真っ黒。
身長は、190㎝はあろうかという長身で、その割には痩せ気味の体をしている。
顔は、見た感じ端正な顔立ちをしている。怖いくらいに。そして1番特徴的なのが、額、両頬に1つずつある紫色の眼球だ。
「あの・・・オレが呼んだの?」
「君以外に誰もいないし♪」
ノリは軽めだ。ここは何か、親近感が湧いた。
「え・・・えぇー・・・?」
おもわず、変な声が出てきた。悪魔を呼べたらいいなーとは思っていたが、まさか来るとは思っていなかった。
「・・・えーと、名前は?」
「田中太郎。」
「絶対嘘だろ!!いいから早く教えろよ!?」
本当にノリが軽い悪魔だ。
「ごめんごめん、アスモデウス。これが名前だよ。」
・・・ん?アスモデウス?
「あのさ・・・もしかして七つの大罪の?」
「んーそうだよ。よく知ってるね~?」
なんだか、オレはすごいのを呼んでしまったらしい。
そのとき、オレはある疑問が思い浮かんだ。
「何で、この世界で七つの大罪なんか知ってるんだ?ここにキリスト教なんてものは無いぞ?」
「え?無いの!?」
どうやら、これは向こうも知らなかったらしい。悪魔も知らないことを知っているオレって何なんだろうか?
「え!?じゃあ、ここなに?!」
「剣とか魔法とか変なモンスターとかがいる世界。」
それを聞いて、アスモデウスはがっくりと膝をついた。
「あのやろ~・・・・!!道理でノリノリで送り出したのかよ!!いつもなら自分達が行くのに!!」
何故か急に愚痴りだした。色々とツッコミ所はあるが
「いつもならって・・・悪魔って結構頻繁に呼ばれるのか?」
「ウン。オレは普段ならマスターの財布パクッて映画見に行って、マスターが死んだら帰るっていうことをしてんだけどね。」
この悪魔、やることがすごく小さい。これで理解した。何で悪魔を呼べるのに世界がまだあるのかを。
悪魔というものは、多分世界滅亡なんてものに興味がないのだ。むしろ、呼ばれて自分勝手にエンジョイするやつらなのだろう。
「どうしよっか・・・?映画見れないじゃん・・・。」
なんだか、かわいそうなことになってきた。
「あの・・・契約、切る?」
「それだったら君を殺すことになるけど、いいの?」
「あ、じゃあやめて。」
流石に、自分の命と相手の趣味どちらが大事かと言われたら、もちろん前者である。
「まあ、どうせ君の寿命なんて、あと70年かそこらでしょ?じゃあ、待つよ。メンドくさいけど。」
向こうは、向こうなりに納得してくれたようだ。
「まあ、よろしくな。アスモデウス。」
「ん。」
こうして、レオに続く新たな友達(?)ができたのだった。
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オレとアスモデウスがギルドに向かっている途中、アスモデウスの方から質問してきた。
「ところでエル君よ、何で君この世界にキリスト教なんてものは無いなんて言っておきながら、君は知ってるんだ?」
「ああ、オレはあっちの世界にもう1人いるんだ。秋風和也っていうんだけどさ、向こうでは。」
それを聞いて、アスモデウスは目を丸くしている。これでも薄い反応なんだろうが。
「それって、オレの他に何人知ってんの?」
「いや、こっちにも向こうにも1人もいないよ。お前が初めてだよ、このことを話したのは。」
アスモデウスは、姿を消せるという便利な能力があるらしい。なら、映画のときもそれで行けばと言ったら
「お金を使うのが楽しいんだよ。なんか。」
らしい。
「へぇー、こんな人間初めて会ったよ。これはラッキーだったかな?」
そんなことを話していると、ギルドに到着した。ギルドに入ると
「よ、エル!!」
何故か、レオがいた。
「あれ、何でいるんだ?レオ?」
「なんだよ~?折角僕が城から抜け出して来てやったんだぞ?」
そういえば、今日のレオは地味な感じの服だ。おそらく、変装のつもりなのだろう。実際、誰もこの国の王子が来ていることに気付いていない。
「まあ、来てくれたなら歓迎するよ。来客用の部屋あるけど、行くか?」
「じゃ、そっちで。」
こうして、オレとレオは2階の来客室に行くことにした。
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来客室に着くなりレオが
「なあ、エル。その後ろにいる奴、なんだ?」
なんて、いきなり心臓に悪い質問をしてきた。
「う、後ろ?誰もいないじゃんか。」
「いや、いるじゃん。今、誰にも見えないことを良いことに全裸でダンス踊ってる目が5つある男が。」
どうやら、隠しても無駄らしい。何故かレオにはばっちり見えている。あとアイツ、なにやってんだよ・・・・・。
後ろのアスモデウスは「え?見えてるの?あ、ヤッベ。」とか言ったあと、少ししてから姿を現した。
「よ、よう少年。何で分かったんだ?」
「僕さ、生まれつきそういう魔法とかで姿を隠してるやつが見えるんだ。」
「へー、そうなんだー・・・。」
「つーかレオ、この全裸ダンスの見た目には何の関心もないのか?」
あまりにもレオがさっぱりしているので、聞いてみることにした。
「別にいいんじゃない?肌が異様に黒かろうが、目が5つあろうが。全裸でダンスする方が怖いね、僕は。」
アスモデウスは「もう許して、もうしないから・・・。」と何やらブツブツ呟いている。
「まあ、そんなことよりエル!!僕さ、さっきちょっと喧嘩してきてさ、相手の顎砕いてやったぜ!!すごくね?!」
悪魔をそんなこと呼ばわりし、先程挙げてきた戦果を話してきた。やっぱり、同じ趣味の人と話せて嬉しいのだろう。
「どうだった?殺し合いまでいけた?」
「いや、そこまででは。アイツ、もっと殺す気で来いっての。」
アスモデウスを置いてけぼりにして、2人の殺し合い談議が始まった。
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目を覚ます。エルネストの楽しい時間は、これで終わってしまった。
時間を見ると、午前5時30分。起きるには、まだ時間がある。
もう少しベッドで横になっていようと思っていると
「起きないの、エル君?いや、秋風和也君?」
なんだか、聞き覚えのある声が聞こえた。聞こえてしまった。
ボクは、寝ている場合ではないと悟り、声のする方へ振り向いた。
「やあ、来ちゃった♪」
やっぱり、居た。アスモデウスは、椅子に座ってこちらに話し掛けてきていた。
「なんだよ、映画イケんじゃん。良かった良かった。」
「お前、こっちに来れたんだ?あと、頼むから映画行くときは透明化して行ってくれ。中学生の小遣いは少ないんだ。」
殺風景なボクの部屋に、5つ目の男が1人。なんともシュールな光景だが、これが現実。受け入れるしかない。
「ま、よろしくね、和也君♪」
こうしてボクは、魔術を使った代償で、変な悪魔が付いてきたのだった。
焔の剣Ⅴ
最近はホントに字数が多いです。