あの日のラムネ
恋とラムネはよく似ている
口のなかでふんわり溶けて
甘く優しい味がする
舌で転がすとあっという間に消えてなくなり
甘ったるい香りだけが残るのだ
「あたし、ラムネって、苦手なのよ」
ある夏の日君が言った
気が遠くなるほど白い夏だった
「しゅんわり、じんわり溶けていくところが」
長い髪が揺れる。
汗ばんだ君の首筋にはりついている。
僕は黙って深呼吸をする。
「消えてなくなってしまうのが寂しいからかい」
「寂しくなんかないわ」
「そうかい」
「そうよ」
君はひとつぶラムネを出すと、口に放って噛み砕いた。
バリリと音がした。
恋とラムネはよく似ている
あの日のラムネ