最近の仇討ち
時間目安:3分
あらすじ:もしも仇討ち文化が今も残っていたら、どうなっていただろうか
時間目安:3分 あらすじ:もしも仇討ち文化が今も残っていたら、どうなっていただろうか
「なぁ、こないだの話聞いた?」
二人の高校生が下校途中に囁き合う。帰り際にコンビニで買った鮭おにぎり頬張りながら、山下が佐藤に言った。佐藤は前のめりに「なになに?」と聞き返した。
「前田の親父、仇討たれたらしいぜ」
「なんだそんなことかよ」
佐藤は再びおにぎりにかぶりついた。
「おい、反応薄いぞ。自分の周りで仇討ちがあったの初めてでさ、俺すげぇテンション上がってんだ」
山下はスマホを器用に操作してSNS投稿を探し当て、ほら見てみろよ、と言いながら佐藤に画面を近づけて見せた。
「仇討ち完了♩浅草橋で見つけて後ろからぷすり☆」
投稿に添付された写真には、前田の父がうつ伏せに倒れている姿が映っていた。背中には見事な日本刀が突き立っている。一撃で心臓を貫いたらしい、写真の男には抵抗の痕跡は見当たらなかった。刺されてすぐ、電池の切れたオモチャのようにその場に倒れ込んだのだろう。
「ってことは前田、仇討ちに旅立つ感じ?」
「もう昨日の夜に出発したらしいよ。園田が誘われたって」
「剣道部の園田か、まぁ妥当な人選だよな」
二人が会話を交わしている間に、SNSに新しい投稿が表示された。おっ、と佐藤が声を上げ、急いで端末を操作し始めた。
「どうした?」
山下が聞いた。
「噂をすれば。前田の仇討ちがさっき成功したらしい」
「早いなー!」
「早ぇよなー!ツイッターにも上がってたわ。俺も一番乗り「いいね」ゲット」
「お前も早いなー!」
夕暮れ時の住宅街を歩きながら二人は、明日のテストの話、最近付き合い始めた先輩の話、時折仇討ちの話を交えながら、一日の最後の輝きを放つ橙色の太陽を背に帰宅した。
同時刻、前田は仇討ちの現場、憂い漂う商店街の一角で警察の取り締まりを受けていた。
眼前には鉄パイプで頭を砕かれた男が壁にもたれかかり、壁面に薄黒い模様を描いていた。
「犯行の動機は?」と問いかける警察官に対して「仇討ちです」と返し、その後一言二言の問答が続いた後、警察官は「程々にしておきなさい。それと、きちん掃除ししておくように」と前田を注意し、自転車で走り去っていった。
前田は近場の肉屋から掃除用洗剤とモップを借り、壁面にホースの水をかけ、じっくり1時間かけて事件の痕跡を消し去った。
その1週間後、前田は食堂で倒れた。毒殺ということらしい。
どうやら前田が仇討ちした相手の6歳の息子が仇討ち代行サイトに自身のストーリーを投稿し、予想以上の反響を呼んだらしい。
6歳の少年がたどたどしく綴る父との思い出は多くの読者の共感を生み、その日々がかくも儚く不条理に奪われたことに、共感した時以上の感情の揺さぶりを覚えた人も少なくなかった。
投稿されたストーリーはわずか1週間で40万PVを突破し、助っ人を10人募集していたのに対して200人近い応募があり、その中の一人が前田の通う高校の給食係だったのだ。
給食係は前田の給食に毒物を混入し、前田はカレーを一口嚥下すると同時にあの世へと旅立った。
とあるニュース番組の一コマで、女性キャスターが少年犯罪の専門家、橋本に質問していた。
「近年、仇討ち文化の若年化が世間の大きな話題となっていますが、橋本さん、なぜこのようなことが起きているのでしょうか?」
専門家は一つ咳払いを挟み、「そうですね」と会話を切り出した。
「やはり最大の原因はスマートフォンの普及により助っ人を探しやすくなったことでしょうね。黎明期にはFacebookで知人のつながりから探していたのですが、ツイッターなどの匿名SNSでも仇討ち投稿が増えたことで急速に仇を討ちたい人と、その手助けをしたい人の接点が増えましたよね。
あと最近はクラウド助っ人サイトも人気が出ているようですし、仇討ちにストーリー性さえあれば最早知人である必要すら無い時代になってきましたね」
「そのような時代を生き抜くために、今子どもたちには何を伝えれば良いのでしょう?」
「まずは子供たち自身が自分に自信を持って、繋がりの外でも生きていけるようになること。
そして我々大人が、スマートフォン、インターネットとの適切な距離の取り方を、子どもたちに伝えていくことが必要ですよね」
「橋本さん、ありがとうございました。それでは、次のニュースです」
最近の仇討ち
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ここまで読んでいただいてありがとうございました!
他にも短編をいくつか書いているので、
興味があればぜひ以下のサイトも見てくださいね!
http://ameblo.jp/dowanism