第三話 接近
「これは…?」
「これは大事なものなんだ…僕の母さんの…肩身のペンダント。」
「君にあげるよ」
「ぇ、でも大事なものじゃないの?もらえないよ!!」
「君にならあげられる…僕を包んでくれた君なら…」
「待って!!戻るの?あそこへ」
「うん…辛いけど、戻るよ…」
「待って…行っちゃダメ!!行かないで!!」
「待って!!…あ、夢…」
またあの少年の夢だ…でも今度は笑ってた…。
でもどうしてこう毎日毎日似たような夢を見るんだろう…。
「あの、男の子は誰なんだろう…」
寝汗を拭うと、首元にヒヤッとした感触がある。
「!?」
夢で見た、あのペンダントだ。
透き通った緑のペリドットが施されたペンダント…。
「ど、どうして…」
希美子は冷や汗が止まらなかった。その筈だ。
夢で出てきたペンダントがまるで魔法のように自分の首にかかっているのだから。
ふと時計を見る。
6時30分。いつもよりずっと早起きしてしまった…。
本当に最近夢にうなされ汗が尋常じゃない。
シャワーでも浴びる時間は十分ある。
「あら、もう起きたの?珍しいわねー」
母の声にテキトーに答え「おはよう」と挨拶し、浴室へ向かう。
ペンダントは…このまま付けておこう。付けておけば何かしらのヒントが得られるかもしれない、
でも現実と夢って…リンクするのかな…そもそもあの男の子は何者なんだろう…。
シャワーを浴びながら希美子は感傷に浸る。
身支度を済ませ玄関を出ると隣の部屋から隆乃介が同タイミングで出てきた。
「あ、おはよう…」
「お、おはようございます…」
「学校まで一緒に行こうか」
「はいっ!!」
なんとなく、その声掛けに嬉しささえ覚えた希美子だった。
「希美子~~~~~♪学校中で噂になってるよ~~~~♪」
薫だ。ものすごく嬉しそうに希美子に話しかける。
「な、何が…?」
「柴田先生と付き合ってるんじゃないかって超噂になってるよー。」
「ぇ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇえぇえぇぇ!!!!!!」
「そんなに驚かなくてもいいじゃん。」
「っそそそそそんな訳ないじゃないっ!!!」
「だって家が隣同士なんでしょ?んで一緒に登校なんかしてたら噂されるに決まってんじゃん」
動揺し、否定しながらも、何となくまんざらでもない希美子だった。
一方、隆乃介も教頭から同じことで指導されていた。
「柴田先生、困りますよぉ。特定の生徒を贔屓するのは周りの生徒から反感も買いますし、生徒の信頼も失われます。
以後このような事は慎んでください。確かに佐伯の家と隣同士というのはわかりますが…」
と話は長く続く。正直隆乃介はうんざりしつつ、
「はい」
「おっしゃる通りです」
「以後気を付けます」
の単語3つだけ使って教頭を交わして見せた。
「ふぅ…」
ため息まじりにコーヒーを飲む隆乃介の元へ希美子がやってきた。
「佐伯さん?」
「先生…なんか誤解させるようなことになってしまってすみません…さっきかおる、じゃない草間さんから話聞いて。」
「いいよ、誤解を招く行動をしたのは教師である俺の責任だから、佐伯さんは気にしなくていいから」
ちょっと間を置いて、隆乃介が口を開いた。
「こないだは夕飯ご馳走様。佐伯さんのお母さん、料理上手なんだね。」
「ぁ、いえいえあれは母が引き留めたので、あの時は本当にすいません…」
隆乃介はくすっと笑った。
「さっきから謝ってばかりだね…そうだ、お返しというわけじゃないけど、今度夕飯ご馳走するよ。」
「え、でも…これだけ噂になってるんだし…少し距離を置いたほうが良いと思うんですけど…」
と、いう希美子の声も聞かず隆乃介は
「じゃあ、今晩。着替えてからうちに来てね。」
と言って去っていった。
「あのぉ…話、聞いてます?先生……。」
希美子はガクッとしながらも心なしかちょっぴり嬉しかった。
第三話 接近