ENDLESS MYTH第2話ー17
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漆黒が覆い尽くす闇の中、スポットライトが1人の男の姿を浮かび上がらせた。黒いレザーコートをまとい、地球でメシアたちを急襲したデヴィル、アモンの姿である。
彼は漆黒の中を少し見回し、声を反響させた。
「片付けってのは、素早くやるものと決まってると思ってが、犬っころを生かしているのは、あんたの差し金だろ?」
スポットライトがもう一筋、漆黒に筋を描き、スラリとした男が現れた。
蛇側のパンツを身につけ、上半身には黒いワイシャツを着ている。しかしボタンはとめず、その細い筋肉質の肉体が露わになっていた。
先の尖ったブーツで1歩ずつ、アモンへと近づいてくる。
「複数の少年を殺害した後に遺体を犯して食人した経緯で死刑となった男。デーモンの素性は見事な経歴だったのですがね。しかし所詮は布石でしかありませんでしたから、結果は満足するものになったはずですが?
君こそ犬の王様を逃がしたではありませんか」
ニタリと笑う男。
ばつが悪そうに腕組みするアモンはそれをポケットへ突っ込んだ。
「結局、遊びなんだよ。今までも、これからもな」
すると今度は別の方角から声色が響いた。漆黒は一言が妙に反響する世界であった。
「お二人ともこれを遊びとは、美しくありませんねぇ。もっと優雅に、大人の遊びをいたしませんと、面白くないではありませんか」
アモンともう1人、アイニは互いの顔を見やり、嫌気のさした顔をした。
悠久の時の中で互いを信頼するなどという気持ちの欠片もない彼ら。その中でももっとも信用のおけないデヴィルの登場に、2匹のデヴィルは嫌悪感を抱いたのである。
スポットライトのような光が灯り、ベリアルは姿を露わにした。
肉体は人間なれど背後に黒い物体を備えている。翼だ。
「ブラフマーとの戦いに決着はついたのかい?」
と聞くアイニの声色もまた変化した。
アモンは心中で、人格がまた変わったか、と呟いた。
確かにさっきまでの青年の声色とは異なり、少年の甲高い声になっていた。
「素足で糞を踏むような戦いなど、私は興味ありません。勝敗などは女の唇を舌で舐めるほども甘美ではないのですから、聞くだけ無粋ではありませんか」
不機嫌なのは口調で理解できたが、やはりこのデヴィルの言い回しには腹立たしさしか感じられなかった。
「ほ、他の人は、ど、どうしたんですか?」
またアイニの人格は変化したらしく、声色に今度はおどおどとした自信のない調子が出てきた。
「アスモデウスはメタルスペースで今もこつこつと宇宙を改造してんだろうさ。ビヒモス、リヴァイアサンは相変わらずだろうぜ。どうせ宇宙を一千兆も二千兆も破壊して喰ってるんだろうさ。あいつ等は破壊することしかしらねぇからな」
「意思は届いておる。姿を見せることが必ずしも談合ではない」
声色が先に荘厳さを響かせた。
硬い奴が来たか、とアモンは心中で思った。
するとスポットライトが再び閃光を一閃させ、彫刻のような肉体美を備えた男が現出した。一糸まとわないその肉体美にはベリアルもうっとりとしてしまった。
ただ本人はこうしてホモサピエンスとして姿を現し、物理空間に存在するのを、激しく嫌っていた。
「アイニ、デーモンを使用するのは面白い考えであったが、いささか遊びが過ぎたな。我らが玩具を破壊されては困るのだぞ。覚醒までまだ時間がかかる。今、壊れてもらってはこれまでの戦、気泡となってしまうぞ」
厳しい言葉を投げかけるのばベルゼバブであった。
「そんな言い方ないじゃない。わたしだって一生懸命なのよ。それに遊びって言ってるけど、覚醒しちゃったら、わたしたちが不利になっちゃうんじゃないの?」
口調と声色が女に今度は変化した。アイニの人格には女性も含まれているのだ。
と、ベリアルの羽根が微動すると、嫌味な口調が空間に響いた。
「女の腹に針を突き刺すほどの快楽を、無にされては困りますねぇ」
それを無視するかのように、ベルゼバブは3人の独特の顔を見回した。
「犬の王はこれより“宿命の子”等の戦に入る。そこで覚醒が待っているであろう。他の犬共を牽制しつつ。犬の王の覚醒を待って、歯車を動かさなければ鳴らぬ。アモン、お主が先方を務めることとなる。分かっていような」
厳格なる瞳は鋭くアモンを見やった。
幾千、幾億、幾千兆の時を共に過ごしたとろこで、ベルゼバブのこの瞳には、常に背筋が凍る思いをさせられる。
「ああ、分かってるさ。技量を確かめるよ」
ベルゼバブはそれを聞くなりゆっくりと頷き、スポットライトのような光は、ブレーカーが落ちるように瞬間的に消え、ベルゼバブの姿もまた消滅した。
続くように、ベリアル、アイニもまた姿を消失したのだった。
最後に残ったアモンは、静かに喉を鳴らした。自らが担った役割の重みを、実感していたのである。
瞼を開くとそこは火山の火口のすぐ横である、生命体ならば間違いなく焼けているほどの高温の中を、平然と溶岩の粒が沈殿した砂利の上に片足を立てて座っていた。
意識だけの談合が終了すると、アモンはゆっくりと立ち上がった。と、同時に眼前の火口からマグマの激しい噴射が起こった。凄まじい爆発は炎の柱を天空の雲まで立ち上がった。
「我らはこれよりいずこへ」
アモンの背後で声がするなり、黒い影がニュルリと立ち上がった。人の形をしているが黒く毒々しく、明らかに人ではない。
「犬を追う。覚醒の時を待って襲撃だ」
「承知いたしました」
黒い人型はそう言うなり、ゆっくりと地面へしみこむように消えていった。
そして火山から地上を見下ろし、幾つも立ち上るキノコ雲を見ながら、人類が繁栄を気づいた地球の地獄を見渡して呟くのだった。
「これからだ。物語りはこれから始まる・・・・・・」
ENDLESS MYTH第2話-18へ続く
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