うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(9)

九 麦茶の洪水

「大王。麦茶が流れてきました」
「しかも冷たい麦茶です」
「よし。チャンスだ。固体班は急いで壁を作って、麦茶の波がおでん三兄弟に当たるようにしろ」
「アイアイサー」
 麦茶の波はだいこんを包み込んだ。おかげで、だいこんから湯気が消えた。
「よし。いまだ。だいこんをこなごなにしろ」大王が叫んだ。固体班の隊員たちはスコップやつるはしを持って、だいこんに飛びかかった。だが、おでん三兄弟の体に跳ね返された。
「どうだ」
「俺たちの体は」
「ゴムみたいだろう」
 折角、温度が下がったものの、今度は、体がスコップやつるはしを跳ね返すので、消化ができない。
「うーん。主が食べ物を飲みこまずに、よく噛んでくれたら、こんなことにはならなかったのになあ」大王は再び、腕組をして頭をひねるばかりだ。それでも、固体班の隊員たちは、おでん三兄弟の体に果敢に飛び掛かる、だが、それでも跳ね返されるばかりだった。
「いつまで」
「同じこと繰り返すつもりだ」
「もっと頭を使え」
「はっ」
「はっ」
「はっ」
 おでん三兄弟の高笑いがお腹の中で乱反射している。

「これで、もう大丈夫だろう。でも、なんだか喉が渇いたぞ」
 僕はグラスに並々と麦茶を注いだ。
「ええ、まだ飲むの?もう十分じゃないの」
 王子が止めようとしたけどもう遅かった。グラスの底は元の透明に戻った

「大王。また、麦茶の洪水が押し寄せてきます」
「何だと。主はまた麦茶を飲んだのか。いや、これはチャンスだぞ。固体班。急いで、壁を作れ」
「駄目です。もう間に合いません。ああああ」
 固体班の隊員たちは麦茶の波に飲み込まれた。と、同時に、おでん三兄弟も麦茶の波に飲み込まれた。
「ああ」
「これは」
「どうしたことだ」
 おでん三兄弟は、麦茶の津波の力で、こんにゃく、たまご、とうふとバラバラになった。
「今だ。消化蓋を開けろ」
「細かく砕かずに消化管に流すのですか」
「今回は仕方がない。主には、よく噛んで食べるように注意する」
「アイアイサー」
 消化蓋が開けられ、おでん三兄弟はばらばらになって流されていった。
「ああ」
「せっかく」
「暴れてやろうと思ったのに」
「もう少し」
「三人で」
「いたかったなあ」
 おでん三兄弟は呟きながら、消化蓋の中に消えていった。だが、お腹の中はまだ、麦茶の洪水だ。
「私たちが何とかします」
 リキッド班の隊長をはじめ、隊員たちが果敢にも、ホースで麦茶の波を吸い込もうとする。
「駄目です。勢いが強すぎます。あーあ」
 リキッド班の隊員たちも、麦茶の波に飲み込まれてしまった。
「このままではいかん」
 大王が動いた。大きく息を吸い込むと、体が何倍にも膨れ上がった。麦茶の津波に立ち向かう。津波は大王に当たり、勢いがやや弱くなった。
「いまだ」
 大王が叫ぶ。リキッド班のホースが麦茶に向けられた。
「どくどくどくどく」
 ホースに麦茶がどんどんと吸い込まれていく。
「ふう。何とか、収まったか。だが、油断するな。とりあえず、麦茶を消化してくれ。やっぱり、麦茶だな」
 大王は顔に浴びた麦茶をペロッと舐めた。
「アイアイサー」
 隊員たちは麦茶を全て吸収した。

「おっ、元に戻ったかなあ」
 僕は再度、おなかを触る。
「そんなに慌てなくてもいいよ。熱いものは冷ましてから、ゆっくりと食べてくれよ。それと、熱いからと言って、何杯もお茶を飲まない方がいいよ。消化が悪くなるから」
 王子が注意をする。
「わかっているよ」
「何、ひとり言、つぶやいているの」
 僕がテーブルつくと、ママが話し掛けてきた。
「いや、こんにゃくやたまご、とうふが熱くてやけどしそうだったんだよ」
「そんなに慌てなくてもいいのよ。ゆっくり食べなさい」
 ママもおしっこ王子と同じことを言う。
「わかっているよ」同じ返事をする。
 僕は、その後、すじ肉、だいこん、はんぺん、じゃがいも、こんぶも食べた。あんまり美味しかったので、もう一度、こんにゃく、たまご、とうふ、すじ肉、だいこん、はんぺん、じゃがいも、こんぶを食べた。最後に、お茶づけで締めた。
「ふう。お腹いっぱいだ」
「ちょっと食べすぎじゃないかな」王子が渋い顔をする。
「だって、美味しかったんだ」
「でも、お腹が大きく突き出ているよ」王子がポケットから顔を出してお腹を覗いている。
「食べることは、君の成長にもつながるし、僕らが働くためにも必要だけど、食べすぎると食べ物を消化できなくて、そのまま流してしまうし、僕らもてんてこまいになるんだよ。体にも悪いんだよ」
「そう」王子の心配をよそに、僕はお腹が一杯で満足だったので、素っ気ない返事をした。

うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(9)

うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(9)

九 麦茶の洪水

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-02

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