ふたりの絆⑬

サプライズ(後半)

8月下旬の日曜日。

アカリと岐阜での最後のデートの日だ。

もちろん、夕方にはサプライズが用意してある。

アカリを迎えに岐阜のアパートに行き、アカリの好きな福井の海に向かう2人。

福井の海では、写真を撮ったり、美味しい海鮮物を食べたりして楽しんでいるアカリである。

ヒカルはどうかというと、頭の中はサプライズのことでいっぱいだった。

アカリには、美味しいケーキの店を見つけたから行こうとだけ伝えてある。

マスターとの約束の時間を気にしながらもアカリとのデートを楽しんでいた。

滋賀経由で琵琶湖を廻りながら本日のメイン会場となる瑞穂市の洋菓子店に着いたのは、夕方4時10分前だった。

アカリにとっては初めてのお店である。

「お洒落なお店だね。」

外観を見て感心している。

アカリを店の中に案内したヒカルである。

店の中ではマスターが待っていてくれた。

顔を合わせると、小声でマスターがつぶやいた。

「用意できてるよ。」

マスターの案内で店の奥のテーブルに着いた2人。

ここで何かの異変に気付いたアカリであった。

「何、どうかしたの?」

不安そうな顔をするアカリである。

「何もないから心配するなよ。」

冷静に声を掛けるヒカル。

しばらくすると、マスターが両手に抱えて運んできた。

それは、ヒカルの描いた『オリジナルケーキ』の登場である。

マスターはそのケーキをアカリの前に置いた。

アカリの顔の表情が不安から歓喜へと変わったのは想像がつくだろう。

「うそ、何これ。」

言葉にならないアカリである。

ケーキの中央部には、ヒカルからのメッセージが描かれていた。

それは秘密にしておこう。

「ありがとう、ひかる。」

半分泣き出しそうな顔でお礼をいうアカリ。

ヒカルはさらに、マスターから頼んでおいた花束を受け取ると

「今日までありがとう。」

言葉を添えてアカリに渡したのだ。

アカリは泣いていた。

「こんなことしてくれたのは、ヒカルが初めてだよ。」

誰も見ていない2人だけの場面なら、ここでキスをするところなのだが、店の奥からマスターが

満足そうな顔をして2人を見ているのに気付いたヒカルだった。

「すごく美味しい!今までの中で1番だよ。」

その言葉を聞いたヒカルも満足して食べた。

サプライズを無事に終えた2人は、丁重にマスターに頭を下げると店を出た。

アカリの腕の中には、花束がしっかりと握られている。

車に乗り込むとアカリが言った。

「ヒカル、マスターには何かお礼がしたいの。」

ヒカルも今回は大変お世話になったのだ。

「いいアイディアだね、そうしよう。」

2人はショッピングモールへ行き、雑貨屋さんを見て廻った。

選んだのは、コーヒーカップだ。

それを購入し、来た道を急いで戻った。

店に着いた2人は、マスターに再度お礼を言いながらそのコーヒーカップを渡した。

マスターはあえてお礼を言わず、ただ一礼してくれた。

職人なんだなと思うヒカルだった。

いつかまた、アカリと2人でマスターの顔を見に来たいと思うヒカルである。

岐阜での最後のデートも無事に終わりを告げようとしている。

アカリは花束を抱えたままでいた。

ヒカルはアカリに言った。

「アカリと僕は特別なもので繋がっているからね。必ず会おうよ。」

「うん、今日のことは一生忘れないよ。2人の絆は切れないからね。」

やがて、車はアカリのアパートに着いた。

アカリは、一度徳島の実家に帰り、その後三重県に行く予定だそうだ。

ヒカルはアカリに自分の右手を差し出した。

その手を優しくアカリの右手が包んでくれた。

「元気でがんばれよ。」

「ヒカルもね。」

お互いの想いを込めた短い言葉だった。

家に帰る車中でヒカルは考えていた。

(また、何かサプライズを考えておかなければ・・・アカリの為に。)

                                      →「欲望とアカリの恋愛感」をお楽しみに。  1/2更新。

                                      ホタル:みなさま、あけましておめでとうございます。
                                          今回もヒカルの素敵なサプライズでしたね!
                                          本当に、切ない中にヒカルの一生懸命な気持ちが
                                          ぐっと心に入ってくるお話でしたね。
                                          離れ離れになった2人・・・いったいどうなる?

                                     -13-

ふたりの絆⑬

ふたりの絆⑬

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-02

CC BY-NC-ND
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