cheerful person.7

テスト④

時刻は午後8時半。俺は風呂からあがり、自分の部屋にいるわけなのだが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ヒジョーに気まずい。その理由は、同じ部屋にいる少女にある。
さっき部屋に入って来たときは普通に話していたのに、俺が部屋に戻ってくると、秋風は何故かずっと壁を見ながら、毛布に包まっていた。
それに加え、彼女はさっきから一切喋らない。こっちから話しかけたら、さらに距離を取られてしまった。
さすがに天然の秋風でも、この状況はさすがにまずいと思っているのだろうか。
何にせよ、この気まずい空間から逃れるため、俺はもう寝ることにした。
「じゃあ、秋風。俺もう寝るからさ。」
そう言うと、秋風はビクッと肩を震わせ、また縮こまってしまった。まあ、俺が出ていけば何とかなるだろう。
「じゃ、また明日な。」
そう言って、部屋を出ようとした。出ようとしたが、何故かここになって秋風が話し掛けてきた。
「へ!?シユ君、どこ行くの?」
「いや・・・もう寝るんだけど。」
「え?ここで寝ないの?」
ああ、なるほど。これが、さっきまで彼女が大人しかった理由だ。
秋風は、俺がここで一緒に寝るものだと思っていたのだろう。しかし、俺はさすがにここで寝る気はない。
「じゃあシユ君、どこで寝るの?」
「どこって・・・まあ、その辺で?」
そう言って廊下を指さすと
「それはダメだよ!!絶対!!」
そう言われて、俺は秋風に部屋に連れ戻されてしまった。
「何だよ、秋風。俺が居るのが嫌だったんじゃないのか?」
「そんなとこで寝て、風邪でもひいたら大変だよ・・・。」
イヤ、ここであなたと一緒に一夜を共にする方が、遥かに大変だと思うのですが。
「それに、その言い方だと私がシユ君を嫌がってるみたいじゃん・・・。」
「え、違うの?」
それを聞いて、すこし嬉しいと感じてしまった自分がいた。
「えっとね・・・その・・・」
「?」
何か言いにくいことを言おうとしているのか、服の裾を顔を真っ赤にして掴んで、モジモジしている。正直に言おう。ムラッとした。
そして
「あの・・・今、私・・・し、下着付けてないから・・・。だから、その・・・」
なんて、爆弾発言を言ってきた。俺はその意味をしっかりと受け止め
「じゃ、おやすみ!!」
「ちょっ!?シユ君どこ行くの?!」
逃げることにした。まあ、直ぐに秋風に捕まってしまったが。
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結局、俺はここで寝ることになってしまった。
秋風は、先程の会話で緊張が少しほぐれたのか、普通に会話できるようになっていた。まだ毛布に包まっているが。
「シユ君、呼び止めたのは私なんだけど、その・・・あんまり、下は見ないでね・・・。」
そう言われると、逆に見てしまうのが人間である。チラッとではあるが、毛布から覗く秋風の脚を見てしまった。
今、心臓がすっごいドキドキ、というよりバクバクしている。この調子で、ホントに寝れるのか心配になってくる。
気を紛らわすため、部屋に置いてあるテレビを付けることにした。しかし、こんなときに限ってリモコンがない。
「あれ?秋風、リモコン知らない?」
秋風に聞いても、首を横に振るだけだった。仕方がないので、テレビのボタンを押そうと立ち上がった途端、
「うぉ!!?」
何かを踏んでしまい、前に倒れてしまう。あ、これヤバいんじゃ・・・と思ったのも束の間。
そのまま、秋風のいるところへ倒れこんでしまった。
「痛て・・・あ、大丈夫か、あき「ひゃっ!!」か・・・ぜ・・・」
とりあえず、秋風が大丈夫かどうか確認しようと立ち上がろうとしたその時
俺の右手が秋風の胸を掴んでしまった。
「えと・・・あの・・・」
こんなときは、すぐに離れればいいのだろうが、生憎そのような冷静さは残っていなかった。
それは秋風も同じのようで、何かを言おうとしているが、続く言葉が出てこない。
右手にある柔らかい感触が残ったまま、数秒が経った。そしてようやく
「あ・・・ご、ごごご、ごめんなさい!!!!!!」
離れることができた。そして、間髪入れずに土下座で謝罪した。
「そ、そんなに謝らなくていいよ?別にわざとじゃないんだから・・・。」
「いや、本当に悪かった。俺がもう少し周りを見て立てば良かったんだ・・・。」
さすがに、これは謝らなくてはいけないだろう。向こうは損しかしていないのだから。
「ホ、ホントに大丈夫だよ?それに、私の・・・その、ち、小さいから、触ってないのとあんまり変わんないし・・・。」
「いや、それは無い。」
実際、最高の感触でした。
「とりあえず、この件については、もうおしまい。シユ君も顔上げて、ね?」
「・・・秋風、オマエ本当に優しいな。」
当の秋風がそう言ってくれているので、この優しさに甘えることにした。
「あとさ、テレビのリモコン、シユ君がさっき踏んだそれじゃない?」
秋風にそう言われ振り向いてみると、確かにテレビのリモコンだった。
「あ、ホントだ。」
そう言って、リモコンでテレビの電源を入れる。これで気が紛れると良いのだが、おそらく、そうはいかないだろう。俺も、秋風も。
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あの後は、2人とも特に何もせずに時間が過ぎていった。
時刻は午後11時。寝るには丁度良い時間だろう。
「じゃあ、そろそろ寝るか?」
「ウン、そうだね。」
秋風も了承してくれた。今日はもう、寝ることにしよう。
「じゃあ、電気消すぞ?」
テレビは一旦つけたままにしておいて、電気だけを消す。そのとき、秋風が俺に質問してきた。
「シユ君、どこで寝ればいいかな?」
「ああ、そこのベッド使っていいよ。」
本来ならば俺のベッドだが、今回はしょうがないだろう。変な臭いとかしないといいのだが。
「シユ君はどうするの?」
「俺は、その辺で寝るよ。」
俺が床を指差すと、秋風はムッとした表情になった。
「それじゃあ、何か悪いよ・・・。」
「いや、廊下よりも大分マシだ。だから、秋風は気にしなくていい。」
そう言って、俺は床の上で横になった。秋風も、渋々といった感じだが、納得してくれた。
「じゃあシユ君、おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
後ろで、ベッドに入った音が聞こえた。秋風には慣れない環境だが、そこは我慢して貰おう。
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自分で床で寝ると言っておきながら、俺は中々寝付けなかった。
やはり、下が固いと寝づらいなと考えていると
「・・・シユ君、起きてる?」
ベッドの方から声がした。最後に会話をして30分くらいは経ったと思うのだが、向こうもまだ寝付けないのだろうか。
「・・・まあ。」
一応、返事をする。少し遅れて、声が返ってきた。
「・・・・ねえ、もし寝れないなら、その・・・・ベッド使う?」
「そしたら、秋風の寝る場所がなくなるだろ?」
「いや、このベッド、もう1人分くらいは入れそうだから、もし、良かったらさ・・・・・一緒に使お?」
「・・・・。」
いつもなら、それはマズイだろうとか言って断る申し出だ。しかし、今は特別とでも言うかのように、心は落ち着いていた。
「じゃあ、使わせてもらおっかな。」
そう言って、ベッドに入れてもらうことにした。
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「うん、やっぱりちょっと狭いな。」
俺が呟くと、秋風も同意してくれた。
「そうだね。ちょっと失敗だったかも。」
クスクスと笑いながら、彼女はこちらに顔を向けた。
「私ね、今までこんなに本心から話せる人がいなかった。成長したら、親にも友達にも言えないことがいっぱいあったから。」
俺に言っているのか、それとも誰にも誰に宛てるでもない独白なのか。どちらとも取れる秋風の言葉を、俺は黙って聞いていた。
「でもね、シユ君といるとね、何でも言えるんだ。会ったときから、何でも。おかしいよね、つい1ヶ月くらいの付き合いなのに。」
そうだ。会ったときから、彼女の思い切りの良さは割と好きな方だった。なんだか、それが尊いもののような気がしたから。
「今もそう。私は好きなことをやって、好きなことを言ってる。シユ君じゃなかったら、絶対に言えないよ?こんなこと。」
「・・・・・・。」
俺は、何も言わない。今この場では、俺の言葉は邪魔でしかないから。
「ウン、言いたいこと言ってスッキリしたな。これでゆっくり・・・眠れそう・・・・・。」
彼女は、こちらに体を預けてくる。しばらくして、規則正しい呼吸が聞こえてきた。
おそらく、彼女も疲れていたのだろう。慣れない環境で過ごしたのだから、当然だろう。
俺は、思った。俺もこんな聡明に生きられたら。こんな綺麗に生きられたら。

「ああ・・・。こいつとずっと、生きられたらいいのに・・・。」

そんな言葉が、自分の口から聞こえた。
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私が目が覚めると、目の前に温かい感触があった。
なんだろう?と思い、前を見てみると
すぐ目の前に、シユ君の顔があった。
「!!!?!!?!!?!?!!?」
びっくりしすぎて、声が出ない。いや、出なくてよかった。
完全に目が覚めたついでに、思い出した。昨日の夜、誰がここにシユ君を呼んだのか。
「あ・・・そっか・・・。」
せっかくなので、シユ君を観察させてもらうことにしよう。
こうやって寝顔を見ている分には、かわいいと思う。普段はいつも、だるそうな顔をしているので、何だか新鮮だ。
いつもこんな顔してれば、女の子にもモテそうなのに。まあ、無理だろうが。
とりあえず起きようとして、あることに気付いた。
体が、動かない。というより、上から押さえつけられてるような。もしかして、これって・・・。
「だ、抱きしめられてる・・・?」
見た感じ、そうだと思う。しかも、ベッドが狭いせいで、体のあちこちが触れている。
正直、心臓に悪すぎる。今まで男の人をここまで近くで感じたことはなかったので、すこしパニック状態だ。
早くシユ君に起きてほしいが、起きたら起きたでこの状況はまずいのではないか。そんな葛藤をしていると
「ん・・・・・。」
シユ君の目が開いた。今はボーっとしていて、おそらく状況を確認しているのだろう。そして、シユ君のことだ。きっと、びっくりする。
そんな呑気なことを考えた1秒後、
「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!??!!?」
おもしろい声を出して、ベッドから落ちて行った。それがあまりにもおもしろかったので
「おはよ、シユ君。」
自分も朝から笑顔で、挨拶することにした。
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「改めてありがとね、シユ君。泊めてもらって。」
「どういたしまして・・・って、なんか周りから聞かれたら誤解されそうな会話だな。」
俺と秋風は今、秋風の家の前にいる。そろそろ、秋風の弟が来るらしい。
しかし、今日の朝はびっくりした。これは弟さんからも言ってもらうことにしよう。男は危険なものだと。
「あ!!シユ君、来たよ!!」
どうやら、あの中学生くらいの子がそうらしい。秋風の弟にしては普通な感じがしたが、これは秋風自身が特別なだけだろう。
「・・・どうも。」
秋風弟は、こちらに簡単な挨拶だけして、姉に事情聴取を行っていた。
そして、一通り終わったのか、弟は鍵を姉に渡した。
これでやっと終わったな~と、そんな感慨がある。
たかが1日、されど1日であった。
しかし、何となくだが、彼女との距離が縮まった気がする。
昨日という日は、俺の中で忘れられない1日になるだろうと、そんな予感がある。
色んな思いがあるが、やっぱり秋風とともに過ごせたのは、楽しかった。
秋風も、楽しかったと言ってくれれば嬉しいなと考えながら、今日も1日過ごしたのだった。
余談だが、秋風は、今回のテストで当然のように6教科満点だった。
対する俺は、ど平均中のど平均だった。なんだそりゃ。

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今回の教訓
         しんみりした歌を聞きながら小説を書くと、小説もしんみりする。

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  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-01-02

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